春
一 とてもつらくば 春の薄雪 思ひ消えよの 積もらぬ先に。
一 よしやそなたの 風ならば 花にふくとも つらからじ。
一 梅は匂ひ 花は紅 柳は緑 人は心。
一 面白の春雨や 花の散らぬ程ふれ。
一 春の名残は 藤躑躅 人の情は ひとこと。
夏
一 庭の夏草 茂らば茂れ 路あればとて 訪ふ人も無し。
一 君は初音の 郭公 まつに夜な夜な かれ候よ。
一 五条わたりの車が通る たぞと夕顔の 花車。
一 一人ぬる夜の 淋しきに 二人ぬる夜の 山ほとゝぎす。
秋
一 いつしか人の 秋風に うらみ葛の葉の 露ぞこぼるゝ。
一 中々消えで 露の身 ちぎり朝顔。
一 忍ぶ玉づさ 月に読まん 空見れば あゝ月もなの 村雨や。
一 月はえせ者 忍ぶ夜は なほ冴えゆる。
一 木幡(こはた)山路に 行きくれて 月を伏見の 草まくら。
一 いとゞ名の立つ 秋風に たそよ妻戸を きりぎりす。
一 霜枯の 葛の下葉の きりぎりす うらみては鳴き うらみては鳴く。
冬
一 余所の梢の ならひして 松に時雨の またかゝる。
一 人の濡衣 きた時雨 くもりなければ はるゝよの。
一 浦は薄雪 小網曳 袖は涙に しほしほと。
(編笠節唱歌「草歌」~『日本歌謡集 巻六 近世編』東京堂)
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