秋の歌
柔らかき苔に嘆かふ
石だたみ、今眞ひるどき、
たもとほる清らの秋や、
しめやげる精舍(しやうじや)のさかひ。
並び立つ樅(もみ)の高樹(たかぎ)は、
智識めく影のふかみに
鈍(ね)びくゆる紫ごろも、
合掌(がつしやう)の姿をまねぶ。
しめやげる精舍のさかひ、――
石だたみ音もかすかに
飜る落葉は、夢に
すすり泣く愁(うれひ)のしづく。
かぎりなき秋のにほひや、
白蝋(びやくらふ)のほそき焔(ほのほ)と
わがこころ、今し、靡なびかひ、
ふと花の色にゆらめく。
花の色――芙蓉(ふよう)の萎(しな)へ、
衰への眉目(まみ)の沈默もだし)を。
寂(さび)の露しみらに薫(くん)ず、
かにかくに薄きまぼろし。
しめやげる精舍に秋は
しのび入り滅(き)え入るけはひ、
ほの暗きかげに燦(きら)めく
金色(こんじき)のみ龕(づし)の光。
(蒲原有明「有明集」~青空文庫より)
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