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古典和歌をメインにブログを書いてます。歌題ごとに和歌を四季に分類。

古典の季節表現 冬 十月

2013年10月28日 | 日本古典文学-冬

佛前唱歌一首
時雨の雨間なくな降りそ紅ににほへる山の散らまく惜しも
 右冬十月皇后宮之維摩講 終日供養大唐高麗等種々音樂 尓乃唱此歌詞 弾琴者市原王 忍坂王[後賜姓大原真人赤麻呂也] 歌子者田口朝臣家守 河邊朝臣東人 置始連長谷等十數人也
(万葉集~バージニア大学HPより)

十月はかり、おもしろかりし所なれはとて、きた山のほとりにこれかれあそひ侍けるついてに 兼輔朝臣 
思ひ出てきつるもしるくもみちはの色はむかしにかはらさりけり 
(後撰和歌集~国文学研究資料館HPより)

かみなつきありあけのつきのやまおろしにしもおきなからちるもみちかな
(夫木抄~日文研HPより)

 十月に賀茂にまうてたりしに。ほかのもみちはみなちりにたるに。なかのみやしろのか。またちらてありしに
しめのうちの風たによらぬ紅葉かな神の心はかしこかり鳧
(赤染衛門集~群書類従15)

花園院くらゐにおましましける時、十月はかり、持明院殿へ行幸あるへかりけるまへの日、もみちを箱のふたに入て奉らせ給うける 伏見院御製 
色そへんみゆきをそ待紅葉はもふりぬる宿の庭のけしきに 
御返し 花園院御製 
たつぬへき程こそいとゝいそかるれかつかつみゆる庭の紅葉は 
(新拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

 十月、初瀬にまうで給へるに、霧のいみじうあか月に立ちたりけるを
ゆく道の紅葉の色も見るべきを霧とともにやいそぎ立べき
 返し、中納言
霧わけていそぎ立なむ紅葉ばの色し見えなば帰りゆかれじ
(大納言公任集~「和歌文学大系54」明治書院)

 円融院、大井川に御幸ありけるに、先少林寺の前に、借屋をたてておはします。大入道殿摂政の時、御膳まふけられけり。茶埦(ちゃわん)にてぞありける。其後御船にたてまつりて、となせにおはしましけり。詩歌管絃おのおの船こと也けり。源中納言保光卿題たてまつる。「翫水辺紅葉」とぞ。詩の序右中弁資忠、和歌の序大膳大夫時文つかうまつれり。法皇御衣をぬぎて、摂政にたまふ。摂政又衣をぬぎて、大蔵卿時仲に給ひけり。管絃の人々、上達部衣をかづけられけり。内裏より、頭中将誠信朝臣、御使にまいれり。禄を給ひてかへりまいる。摂政管絃の船に候。時仲の三位をめして、院の仰を伝て、参議になされけり。人々ひそかにいひける、「主上の御前にあらず、たちまちに参議をなさるゝ事、いかゞあるべき」とかたぶきけり。今日の事、何事も興ありていみじかりけるに、此事にすこし興さめりけり。
(續古事談~おうふう)

神無月のころ、歌合のまけわさせさせ給けるとき、法皇御幸侍けるに、紅葉の舟につけらるへき歌とてつかうまつりける 藤原為道朝臣 
紅葉はのあけのそほ舟こきよせよこゝをとまりと君もみるまて 
(新後撰和歌集~国文学研究資料館HPより)

題しらす 入道前太政大臣 
神無月梢のもみち庭の菊秋の色とはなに思ひけん 
(玉葉和歌集~国文学研究資料館HPより)

 十月にもみちのいとこきと移ろひたる菊とをつゝみて人
秋はてゝ今は盛のもみち葉と移ろふ菊といつれまされり
 かへし
紅葉はの散をも思ふ菊ならてみるへき花のなきもなけかし
(赤染衛門集~群書類従15)

天暦七年十月、后宮の御方に菊うへさせ給ける日、うへのをのことも歌つかうまつりけるついてに 天暦御製 
心して霜のをきける菊の花千世にかはらぬ色とこそみれ 
(続後撰和歌集~国文学研究資料館HPより)

延長六年十月女房常寧殿の御前に菊植ける時読侍ける まちしりのこ 
をく霜に色はみえねと菊の花こむらさきにも成にけるかな 
(玉葉和歌集~国文学研究資料館HPより)

かみな月の頃庵にて
山里の草のいほりに來て見れば垣根に殘るつはぶきの花
(良寛歌集~バージニア大学HPより)

 又十月はかりやらんといひし
霜枯の野へに朝吹く風の音の身にしむはかり物をこそ思へ
(赤染衛門集~群書類従15)

聞きなれし蟲の音も、やや弱りはてて、松ふく峯の嵐のみぞ、いとど烈しくなりまされる、懷土の心にもよほされて、つくづ くと都のかたを眺めやる折しも、一行の雁がね、空に消えゆくもあはれなり。
(東関紀行~バージニア大学HPより)

あしがらといひし山のふもとに、くらがりわたりたりし木のやうに、しげれる所なれば、十月許の紅葉、よもの山辺よりもけに、いみじくおもしろく、にしきをひけるやうなるに、ほかよりきたる人の、「今、まいりつるみちにもみぢのいとおもしろき所のありつる」といふに、ふと、
いづ こにもおとらじ物をわがやどの世を秋はつるけしき許は
(更級日記~バージニア大学HPより)

十月許にまうづるに、道のほど、山のけしき、このごろは、いみじうぞまさる物なりける、山のは、にしきをひろげたるやう也。たぎりてながれゆく水、すいしゃうをちらすやうにわきかへるなど、いづれもすぐれたり。まうでつきて、そうぼうにいきつきたるほど、かきしぐれたる紅葉の、たぐひなくぞ見ゆるや。
おく山の紅葉のにしきほかよりもいかにしぐれてふかくそめけむ
(更級日記~バージニア大学HPより)

神無月の比、栗栖野といふ所を過ぎて、ある山里にたづね入る事侍りしに、遙なる苔のほそ道をふみわけて、心ぼそくすみなしたる庵あり。木の葉にうづもるゝかけ樋の雫ならでは、つゆおとなふ物なし。閼伽棚に菊紅葉など折りちらしたる、さすがにすむ人のあればなるべし。
(徒然草~バージニア大学HPより)

神無月の初めつ方、時雨し、風吹きなどしておもしろかりけるに、后の宮の御方にて御笛吹かせ給ふ。隆房、維盛、雅賢、朗詠し、今様など歌ひ、おもしろかりければ、とみにも入(い)らせ給はで御覧ぜられける。藤壺の御前の紅葉散りしきて、色々の錦と見えて風にしたがふけしき、いと興あり。
(平家公達草紙~岩波文庫「建礼門院右京大夫集」)

 神無月のころほひ、月おもしろかりし夜、内裏よりまかではべるに、ある上人来あひて、この車にあひ乗りてはべれば、大納言の家にまかりとまらむとするに、この人言ふやう、『今宵人待つらむ宿なむ、あやしく心苦しき』とて、この女の家はた、避きぬ道なりければ、荒れたる崩れより池の水かげ見えて、月だにやどる住処を過ぎむもさすがにて、下りはべりぬかし。
  もとよりさる心を交はせるにやありけむ、この男いたくすずろきて、門近き廊の簀子だつものに尻かけて、とばかり月を見る。菊いとおもしろくうつろひわたり、風に競へる紅葉の乱れなど、あはれと、げに見えたり。
  懐なりける笛取り出でて吹き鳴らし、「蔭もよし」などつづしりうたふほどに、よく鳴る和琴を、調べととのへたりける、うるはしく掻き合はせたりしほど、けしうはあらずかし。律の調べは、女のものやはらかに掻き鳴らして、簾の内より聞こえたるも、今めきたる物の声なれば、清く澄める月に折つきなからず。男いたくめでて、簾のもとに歩み来て、
  『庭の紅葉こそ、踏み分けたる跡もなけれ』などねたます。菊を折りて、
  『琴の音も月もえならぬ宿ながらつれなき人をひきやとめける
 わろかめり』など言ひて、『今ひと声、聞きはやすべき人のある時、手な残いたまひそ』など、いたくあざれかかれば、女、いたう声つくろひて、
  『木枯に吹きあはすめる笛の音をひきとどむべき言の葉ぞなき』
  となまめき交はすに、憎くなるをも知らで、また、箏の琴を盤渉調に調べて、今めかしく掻い弾きたる爪音、かどなきにはあらねど、まばゆき心地なむしはべりし。ただ時々うち語らふ宮仕へ人などの、あくまでさればみ好きたるは、さても見る限りはをかしくもありぬべし。時々にても、さる所にて忘れぬよすがと思ひたまへむには、頼もしげなくさし過ぐいたりと心おかれて、その夜のことにことつけてこそ、まかり絶えにしか。
(源氏物語・箒木~バージニア大学HPより)

(略)仏の御前に、うち行なひつつおはしますに、内大臣も、今宵は候ひ給ひける、こなたへ参り給ふとて「落葉階(きざはし)に満ちて、紅(くれなゐ)を払はず」と、長やかにうち誦じ給へる、いみじき御心の催しなるに、西の妻戸を押し開けて、簀子に候ひ給ふ。
月は入りぬれど、星の光もたどたどしからぬに、げにぞ木の葉降り敷く庭の気色を、つくづくとながめ出で給へる御直衣姿、世に知らず艶(えん)になまめかしきを、何となう、昔思ひ出でらるる心地して、(略)
(いはでしのぶ~「中世王朝物語全集4」笠間書院)

 大将、頭の弁の誦じつることを思ふに、御心の鬼に、世の中わづらはしうおぼえたまひて、尚侍の君にも訪れきこえたまはで、久しうなりにけり。
 初時雨、いつしかとけしきだつに、いかが思しけむ、かれより、
 「木枯の吹くにつけつつ待ちし間におぼつかなさのころも経にけり」
 と聞こえたまへり。折もあはれに、あながちに忍び書きたまへらむ御心ばへも、憎からねば、御使とどめさせて、唐の紙ども入れさせたまへる御厨子開けさせたまひて、なべてならぬを選り出でつつ、筆なども心ことにひきつくろひたまへるけしき、艶なるを、御前なる人々、「誰ばかりならむ」とつきじろふ。
 「聞こえさせても、かひなきもの懲りにこそ、むげにくづほれにけれ。身のみもの憂きほどに、
  あひ見ずてしのぶるころの涙をもなべての空の時雨とや見る
 心の通ふならば、いかに眺めの空ももの忘れしはべらむ」
 など、こまやかになりにけり。
(源氏物語・賢木~バージニア大学HPより)

かみな月れいのとしよりもしぐれがちなるこゝちなり。十餘日のほどにれいのものする山でらに もみぢも見がてらとこれかれいざなはるればものす。けふしもしぐれふりみふらずみひねもすにこの山いみじうおもしろきほどなり。
(蜻蛉日記~バージニア大学HPより)

十月(かんなづ き)のころになりぬれば、なべて時雨(しぐれ)がちなる空のけしきも、袖(そで)の涙にあらそひて、よろづ常の年々よりも、心細さも味気(あぢき)なければ、まことならぬ母の、嵯峨に住まひたるがもとへまかりて、法輪(ほふりん)に籠(こも)りて侍れば、嵐の山の紅葉も、憂き世をはらふ風にさそはれて、大井川の瀬々に波よる錦と覚ゆるにも、いにしへのことも公私忘れがたき中に、後嵯峨の院の宸筆(しんぴつ)の御経の折、めんめんの姿、捧げ物などまで、かずかず思ひ出でられて、うらやましくも返る波かなと覚ゆるに、ただここもとに鳴く鹿のねは、誰(た)がもろ声にかとかなしくて、
わが身こそいつも涙のひまなきに何をしのびて鹿の鳴くらん
(とはずがたり~講談社学術文庫)

題しらす 平師親
さそはるゝ嵐待えて神無月ふるは木葉の時雨なりけり
(新千載和歌集~国文学研究資料館HPより)

神無月のころ、ふりみふらすみ、さためなきころは、なをつれつれも、ひとしほ、やるかたなく、こゝろすこきおりしも、(略)
(窓の教~「室町時代物語大成12」)

神無月の初空、定めなきけしき、身は風葉の行末なき心地して、(略)
(笈の小文~バージニア大学HPより)

落葉 参議公明
神無月吹や嵐の山高み雲に時雨てちる木葉哉
(続千載和歌集~国文学研究資料館HPより)

題しらす 曽祢好忠
露はかり袖たにぬれす神無月紅葉は雨とふりにふれとも
(新勅撰和歌集~国文学研究資料館HPより)

題しらす 前中納言匡房
唐錦むらむら残る紅葉はや秋のかたみの衣なるらん
(新勅撰和歌集~国文学研究資料館HPより)

十月九日、冷泉院の釣殿にて、神無月といふことを上(かみ)に置きて、歌読ませ給ふに
神無月かぜにもみぢの散るときはそこはかとなくものぞかなしき
(高光集)

(略)十月の頃にや、紅葉重ねの薄様にて、
 初時雨今日降りそむる紅葉葉の色の深きを思ひ知れとぞ
書きて引き結びて、筑前に取らせ給ふ。
(住吉物語~「中世王朝物語全集11」笠間書院)

あきはてて今はとかるる浅茅生は人の心に似たる物かな
(和泉式部集~岩波文庫)

落葉
秋をへし木の葉は霜にくちはててちるも色なき神な月かな
(草根集~日文研HPより)

初冬歌に 伏見院新宰相
草枯てさひしかるへき庭の面に紅葉散しき菊も咲けり
(風雅和歌集~国文学研究資料館HPより)

 十月にやのうへにこの葉のちりつみたるを風のふきちらしたるをみて
つまならてあれ行閨の上とてや木の葉を風のふきちらす覧
(赤染衛門集~群書類従15)

時雨 寂然
かきくらしものそかなしき神無月なかむる空にうち時雨つゝ
(今撰和歌集~群書類従10)

十月、暁方に、目を覚まして聞けば、時雨のいたうすれば
冬の日を短き物と言ひながら明(あ)くる間だにも時雨るなるかな
(和泉式部続集~岩波文庫)

 また十月ばかりに「それはしもやんごとなきことあり」とていでんとするにしぐれといふばかりにもあらずあやにくにあるになほいでんとす。あさましさにかくいはる。
 ことわりのをりとは見れどさよふけてかくやしぐれのふりはいづべき
といふにしひたる人あらんやは。
(蜻蛉日記~岩波文庫)

源政長朝臣の家にて人々なかうたよみけるに、初冬述懐といへるこゝろをよめる 大納言経信 
あらたまの/としくれゆきて/ちはやふる/神無月にも/なりぬれは/露より霜を/むすひ置て/野山の気しき/ことなれは/なさけおほかる/ひとひとの/とをちの里に/まとゐして/うれへわするゝ/ことなれや/竹の葉をこそ/かたふくれ/こゝろをすます/我なれや/桐のいとにも/たつさはる/身にしむ事は/庭のおもに/草木をたのみ/なくむしの/たえたえにのみ/なりまさる/雲ちにまよひ/ゆくかりも/きえみきえすみ/見えわたり/しくれはふれと/もみち葉も/あらふにしきと/あやまたれ/霧しはるれは/月かけも/すめるかたみに/ことならす/ことはにたへす/しきしまに/すみける君も/もみちはの/たつたの河に/なかるゝを/わたらてこそは/おしみけれ/しかのみならす/からくにゝ/わたりし人も/月かけの/春日の山に/いてしをは/わすれてこそは/なかめけれ/かゝるふること/おほゆれと/わか身につもる/たきゝにて/言葉の露も/もりかたし/こゝろきえたる/はいなれや/思ひのことも/うこかれす/しらぬおきなに/なりゆけは/むつふるたれも/なきまゝに/人をよはひの/草もかれ/我にしきゝも/くちはてゝ/ことそともなき/身のうへを/あはれあさ夕/何なけくらん
(新拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)
源政長朝臣の家にて人々なか歌よみ侍けるに、初冬述懐といへる心をよめる 源俊頼朝臣 
やまさとは/冬こそことに/かなしけれ/峰ふきまよふ/木からしの/戸ほそをたゝく/声きけは/やすき夢たに/むすはれす/しくれとともに/かたをかの/まさきのかつら/ちりにけり/今は我身の/なけきをは/何につけてか/なくさめん/雪たにふりて/霜かれの/草葉のうへに/つもらなむ/それにつけてや/あさゆふに/わかまつ人の/我を待らん 
(新勅撰和歌集~国文学研究資料館HPより)

山家初冬をよめる 藤原孝善
いつのまに筧の水のこほるらむさこそ嵐の音のかはらめ
(千載和歌集~国文学研究資料館HPより)

かくてつねにしもえいなびはてでときどきみえて冬にもなりぬ。ふしおきはたゞをさなき人をもてあそびて「いかにしてあじろの氷魚にこととはむ」とぞ心にもあらでうちいはるる。
(蜻蛉日記~バージニア大学HPより)


3 コメント

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Unknown (mono)
2015-10-31 21:58:00
徒然草、源氏物語、蜻蛉日記、新勅撰和歌集・和泉式部集・赤染衛門集などの和歌を追加しました。
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Unknown (mono)
2017-10-27 21:27:11
万葉集、夫木抄、新拾遺和歌集、續古事談、新後撰和歌集、続後撰和歌集、良寛歌集、窓の教などを追加しました。
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Unknown (mono)
2020-10-29 21:23:33
大納言公任集といはでしのぶと住吉物語を追加しました。
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