注目の米連邦公開市場委員会(FOMC)明けの5月5日のNY市場の金価格は、反発となった。NYコメックスの通常取引は、前日比6.90ドル高の1875.70ドルで終了した。NY時間外のアジア時間の午後からロンドン午前の時間帯からNYの通常取引入り前には、おおむね1900ドル超で推移。一時は前日比2.2%(41.90ドル)高の1910.70ドルの高値を付けたものの、NYの時間帯に入り株価が大きく売られるリスクオフの中でドル指数が約20年ぶりの水準まで上昇、終盤に上げ幅を削ることになった。
政策金利(フェデラルファンドレート)の誘導目標値を22年ぶりの大きさとなる0.5%(50bp、ベーシスポイント)引き上げと、QT(Quantitative Tightening)と呼ばれる保有資産の縮小を6月に開始することを決めたFOMCは、金市場では織り込み済みのもの。ほんの2カ月前にはここまでのタカ派的政策決定を見込む向きは限られたが、4月中旬以降に議長を含むFRB高官の発言内容が示唆したのが、今回の決定内容だった。
政策の方向性は、ドル高、米長期金利の上昇につながるもので、言うまでもなく金市場にはかなりの向い風となるもの。したがって、FOMC前のNY市場の金価格は一時1850ドル割れまで売られる局面が見られていた(5月3日、1849.70ドル)。NY金は引き締めが想定されるFOMC前に下押すのがパターン。ただし、下値はそこまでで環境を考えると、底堅さを感じさせるものといえた。やはり、米国を中心に高インフレ環境は当面続くとみられ、またウクライナ情勢の不透明感も払しょくされる見通しも立たない中で、株式市場が非常に不安定な値動きを続ける中では、金への関心は持続する。
前日のFOMC後の記者会見では、一部タカ派のFRB高官が言及し市場でも可能性が急速に浮上していた75bpの利上げについて、パウエル議長は「参加者は積極的な議論をしていない」と否定的な見方を披露。株式市場は極端なタカ派化は回避との楽観論に傾き、ダウ30種は937ドル高と今年最大の上げ幅となった。 おそらく比較の基準値の問題で、基準値を75bp引き上げに置いた場合の50bp以下の引き上げは「買い」とコンピュータープログラムが判断したものと思われた。反転上昇の動きは、年初まで続いた株式市場での成功体験を思い起こさせ、買いの輪が連鎖的に広がり意外高に至ったとみられる。背景には流動性が低下し、値動き自体が荒くなっている市場環境があるとみられるが、いまだ維持されている戻りの期待が失われるときに、底割れという展開につながるのが経験則の教えるところでもある。
なお前日の記者会見でパウエル議長は、「今後数回の会合で50bpずつの利上げを検討すべきだというのが我々の大方の見方だ」とも述べ、6、7月の会合での連続大幅引き上げを示唆しており、やはりタカ派化していることに変わりはない。それを映す形で5日は米長期金利(10年債)が一時3.106%と2018年11月以来初めて3.1%を上抜けることになった。この動きに前日は上昇一服となっていたドル指数(DXY)も再び騰勢を強め、一時103.942と 約20年ぶりの高水準まで上昇。冒頭で記したように金は1900ドル超の水準から終盤に上げ幅を削ることになった。
なお、5日の米株式市場はダウ30種が一転して2020年10月以来の大幅下落1063ドル安となった。まさに乱高下。上げでも下げでも、これだけの値幅があれば十分に稼げるプログラムに従ったロボット・トレードの成せる業といったところだが、これだけ荒れると中長期の投資家は様子見に徹するしかないだろう。ナスダックに至っては5%もの大幅な下げで年初来安値を更新した。金市場では金ETFの残高減少が見られたが、株価急落の中で決済・清算に向け現金捻出(キャッシュ・アウト)の動きに伴ったものとみられる。
本日は、4月の米雇用統計。市場予想は前月比の雇用者数38万人増で失業率が前月の3.6%から3.5%への低下となっている。平均時給は前月比0.4%増と前月並み。それよりも本日はタカ派で知られるセントルイス連銀のブラード総裁の発言内容の注目度が高い。