昨日は最後に「株安は放置できないということか。ころころ変わる方針は、表層的な判断に基づく政策発動を思わせる」と書いた。
5日は、レビット大統領報道官が記者会見で北米の自動車産業向けに関税の1カ月の猶予期間を設けると発表。トランプ大統領がカナダ、メキシコに対し25%、さらに中国には追加関税10%を加え20%の関税を賦課を4日からスタートしたが、それらの国々との貿易戦争を懸念する形で、前週から大幅株安が継続。
特に北米で物流網(サプライチェーン)が完備されている自動車産業が混乱に陥ると経済への影響が大きいとみられることなどで投資家の売りが続いていた。米大手自動車トップの働きかけと大幅株安を受け、景気への影響を懸念しての延期とみられた。
前日4日夜には上下両院合同会議にて施政方針演説に臨んだトランプ大統領は、政権スタート以来異例のペースで進めて来た政策を「迅速で容赦ない行動」と自賛して、「まだ始まりに過ぎない」とした。そして相互関税を4月2日から導入すると再表明した。
5日は、かつて(強いドル政策で知られる)クリントン民主党政権時代のサマーズ元米財務長官が、トランプ大統領の移ろいやすい政策と言動が、世界経済におけるドルの優位性に過去半世紀で最大のリスクを突きつけていると指摘した。
ブルームバーグTVのインタビューで、このところの株価急落は、米国の政策の方向性に対する投資家の懸念を反映したものだと指摘。「世界に対して取っている広範なアプローチは、世界経済の中心的通貨として過去50年間にドルが果たしてきた役割に最大の脅威となっている」とした。
基軸通貨ドルの信認低下は、金(ゴールド)の押し上げ要因だが、簡単には起きない。あるとすれば時間を掛けてジリジリ進み、煮詰まった状態で、何かラストストローのようなイベントがあり加速するイメージだ。どの程度症状が進行しているかも判断は難しい。しかし、足元でゴールドを買い増す新興国の中央銀行は、そうした中長期的な視点で持ち分を移行しているとみられる。
実際に5日の市場でドルは大きく売られた。ユーロは対ドルで一時1ユーロ=1.0779ドルと昨年11月8日以来の高値を付け1.0790ドルで終了。ドルは1日としては2023年11月以来の大幅な下げとなった。ユーロ高を映し、ドル指数は前日の105.743から104.276へ1ポイント以上の急落となり4カ月ぶりの安値に沈んだ。
トランプ、ゼレンスキー会談の決裂は、欧州の安全保障から米国が大きく手を引くことを印象付けたが、国際情勢の流動化の影響が金融市場にも表れ始めている。
ドイツでは次期首相就任が確実視されるキリスト教民主・社会同盟のメルツ氏が、大規模な財政改革の一環として5000億ユーロ(約80兆円)の特別基金を設立すると発表。また、防衛費として国内総生産(GDP)の1%以上を支出する場合には、憲法上の借り入れ制限(債務ブレーキ)の対象外とすることも提案した。
財政規律を重視する「財政タカ派」として知られるドイツにとって劇的な変化といえるもの。
5日は、ドイツ連邦債(国債)が大きく売り込まれ、1日としては過去35年で最大の下落となった。それを受け利回りは前日の2.434%から2.791%に急伸した。「迅速で容赦ない」トランプ政権の動きが、金融市場をも揺さぶっている。
そうした中でNY金価は3営業日続伸したものの、上げ幅は前日比5.40ドルと限定的だった。 終値は2926.00ドルだったが、前週の大幅下げからの自律反発で売戻り売りを消化中。病み上がりのリハビリ中といったところか。