昨日は最後に、30日に予定されていた米上院銀行委員会の公聴会に出席予定のパウエル議長について、内容がテキストで事前に公開されているものの、「議員との質疑応答がどうなるか興味深い」と書いたが、結果はサプライズといっていいものだった。
パウエル議長は、経済が堅調でインフレ高進が来年半ばまで持続すると予想される中、「私の見解では資産購入を数カ月早く終了することを検討するのが適切だ」とし、12月14~15日に開かれる米連邦公開市場委員会(FOMC)でテーパリング(量的緩和策の縮小)の加速を決めることを示唆した。内容としては11月19日に来年1月に退任するクラリダ副議長が語ったものと同じで、この発言で金市場ではファンドがロングの見切り売りに大きく傾き、水準を切り下げていた。
金融政策担当の副議長の発言ゆえに、当然、議長との間で意見調整済みと言われればその通りだが、11月3日に決め、15日からまず国債の減額から始めたばかりの政策(テーパリング)を、いきなり議会証言の場で修正を切り出したところに意外感があった。12月のFOMCにてその方針(テーパリング加速)を発表した後に自ら記者会見にて背景を説明という流れを想定していた。むしろ、他のメンバーがブラックアウト前の今来週に「加速」と「早期終了」について語り、市場が過剰反応するようであれば、むしろ自ら背景説明など火消しに回るのか程度に考えていた。そうしながら織り込ませるのであろうと。。。。
それより意外性のあったのが、インフレの高まりが「一過性」という表現について、現在の高水準にあるインフレ率を説明する上でもはや正確でないとし、「一過性という文言の使用をやめる適切な時期の可能性がある」としたこと。
ここまでの議長のスタンスは、インフレの上振れを容認しながら利上げには慎重スタンスを維持し、雇用のさらなる改善に努めるというものだったが、突如としてインフレ・ファイターに転身 したわけで、この宗旨替えには、さすがに市場は動揺することになった。
11月22日ホワイトハウスでのパウエル議長二期目の再任発表記者会見で、バイデン大統領が(国民の不満が高まっている)インフレ抑制に期待を示すスピーチをしたが、その後を受け同議長もインフレに焦点を当てたスピーチをしていた。指名人事をめぐり面談をしていることから政治サイド(ホワイトハウス)からのプレッシャーもかなり高まっていたのだろう。意は言外にあり。ある種の忖度(そんたく)を働かせたものだろう。
飄々とした物腰で独立色を保った風情で議長の任についているが、やはり相当に政治色の強い議長ということだろう。
実はトランプ政権時代の2019年に、大統領からの直接的な利下げ要請には(あたり前だが)耳を貸さない一方、「予防的政策」として、6月以降3回のFOMCにて連続利下げをした際に、政治色を感じたのだが、それは当たっていたということか。よく言えば、環境変化に臨機応変に対応ということになる。
いずれにしてもオミクロン株に対する警戒から先行して下げていた株価は、この発言で下げ足を速め、逆に国債は買われ米長期金利は急低下。10年債利回りは一時9月24日以来の低水準となる1.412%を付けた。金市場では株価の大幅下落に対するリスクオフの買いよりも、にわかにタカ派化したパウエル発言に反応するかたちで売りが膨らみ、上げ幅を一気に削って低下。NY午前中盤に1811.40ドルまで買われていた金は、一気に1770ドル近くまで叩かれ、その後は目立った反発もなく1776.50ドルで終了となった。これで11月は月足で0.4%の下落となった。ちなみにシルバーは4.7%の下げ、プラチナ9.2%、パラジウムは13.9%のそれぞれ下げとなった。
30日の金の終値1776.50ドルは、過去の同様の環境あるいは事例に照らすと、よくこの水準を保っているというのが率直な感想となる。それだけ他のリスク要因も多いことを表す。