目覚まし時計はいつも5時半にセットしてある。
その1時間以上も前から、
うつらうつらと寝返りをくりかえす朝が増えた。
そんな日に限って、とり留めもない夢を見る。
多くは、目覚めと共に忘れている。
時には、思い出したい願望が強く、
しばらくは起き上がらずに、頭を巡らす。
残念、そんな夢に限って蘇ってこないものだ。
ところが、夢見心地がよかった訳でもないのに、
覚えたまま目覚める夢がある。
決まってインパクトが強く、引きずってしまう。
いずれも、最近ストレス満載のランニングに関する夢見である。
① 場所は、製縫工場のよう。
いろいろな形状の靴下が置いてあった。
従業員らしい人の前で、私は次々と靴下を試着する。
嫌みのない穏やかなその方が、
1つ1つの靴下のセールスポイントを上げ、
試着を勧めてくれた。
私は一足を履いては、小走りにその場ランニングをする。
そして、首をかしげては、別の一足を履いてみる。
その方は、丁寧な口調で、
他社との編み方や形状,素材の違いをずっと説明する。
「これも、ランニング時のストライドが大きくなるよう
我が社が開発したものです」と続ける。
私も懲りずに言う。
「この年齢になると、一歩のストライド幅が狭くなって、
年々タイムが悪くなる。
足腰にバネがなくなるからでしょうね。
なんとかそれをカバーしたくて・・・。
靴下にそんな機能があればとすごくいいと思って・・。
他に優れた靴下はないですか?・・・」。
工場の奥へ戻ったその方が、
それまでより厚手で5本指の一足を持って来る。
「これはまだ試作段階のものですが、
ちょっと履いてみてください」。
同じように試着し、再びその場ランニングをする。
「これはいいかも。
早速、これを履いて走ってみたい。
昔のように走れる気がする」
「お客様、先ほども言いましたが、
本製品は、まだ試作中です。
商品になるまでには、今後5年はかかります。
それまで、お待ち下さい」
「え! 5年もですか。
待てないかも知れない。
だって私、80歳になってしまいます」
急に息苦しくなって目覚めた。
窓辺のカーテンを見ながら、大きなため息がもれた。
夢でもいい、1日も早い新製品の完成を!
② 今度は、靴下に替わって、
ランニングシューズの中敷き・インソールだった。
それを作っている現場にいた。
夢は、そこで私に合ったインソールを注文し、
作って貰っている最中であった。
左足の半月板損傷で、5キロを走っただけで、
翌日には痛みがでた。
その痛みを解消するためインソールを特注したのだ。
インソールの職人さんは、
私の足裏やランニングする足の運びを見て、
既存のインソールに布を追加したり一部を削ったりと、
試行錯誤をくり返してくれた。
そして、「いかがでしょうか?」。
これで7回目だが、
改良したインソールをランニングショーズに敷き、
私の前に置いてくれた。
それを履いて、部屋の周りを歩いたり走ったりしてみる。
その後ろ姿を見て、職人さんの表情がまたまた曇った。
同じように、走った感触が期待外れなことに私も曇る。
再び、違う素材のインソールを探し出し、
布を足したり削ったりする職人さん。
、
それを見ながら、私は言う。
これも7回目だ。
「10キロでいいから、左膝の心配をせずに、
走りたいんです。
春には大会があるので、それまでには・・」。
職人さんは、またうなずき、
黙々と私のインソール作りと向き合う。
私のわがままに、胸が痛んだ。
「それでも走りたい」。
その想いに、息が詰まった。
突然、目覚まし時計が聞こえた。
窓辺のカーテンを見ながら、大きなため息がもれた。
夢でもいい、私のインソールか完成するように!
③ 夕食は、私の大嫌いなホッキ貝の入ったカレーライスだった。
夢かもと思いつつも、我慢して食べた。
矢っ張り好きになれない味だったが、完食した。
翌朝、すっかり雪が消えた歩道を、
家内と一緒に走り出した。
アップダウンが続く5キロのコースだったが、
2人とも軽快な足どり。
珍しく、走りながら言葉を交わすことができた。
「こんなに調子よく走れるなんて、久しぶりだ!」
「どうして調子いいか、分かってる?」
「さあ、思い当たることなんてないねえ!」
「ホッキカレーよ。がんばって食べたから、ご褒美よ!」。
「へ~ぇ、嫌いな物を食べると調子よく走れるの!?
じゃ、今夜はタチ(真鱈の白子)の味噌汁にしますか」
冗談で言い放った。
夜の食卓に大量のタチが入った味噌汁がでた。
調子よく走れるのならと、黙って味噌汁のタチを全部食べた。
もう、味も好き嫌いも関係なかった。
それより、ランニングのため、その一心だった。
朝ランの結果は、まさに快走だった。
「調子いいよ。
明日も楽に走りたい。
今夜は思い切っていくら丼だ!」
ついに最も苦手とする『いくら』までリクエストする私。
ゴクリと生唾を飲んだところで夢から醒めた
窓辺のカーテンを見ながら、大きなため息がもれた。
夢でもいい、いくらでもウニでも何でも食べるから!
羊蹄山の冬 ~洞爺湖畔より
その1時間以上も前から、
うつらうつらと寝返りをくりかえす朝が増えた。
そんな日に限って、とり留めもない夢を見る。
多くは、目覚めと共に忘れている。
時には、思い出したい願望が強く、
しばらくは起き上がらずに、頭を巡らす。
残念、そんな夢に限って蘇ってこないものだ。
ところが、夢見心地がよかった訳でもないのに、
覚えたまま目覚める夢がある。
決まってインパクトが強く、引きずってしまう。
いずれも、最近ストレス満載のランニングに関する夢見である。
① 場所は、製縫工場のよう。
いろいろな形状の靴下が置いてあった。
従業員らしい人の前で、私は次々と靴下を試着する。
嫌みのない穏やかなその方が、
1つ1つの靴下のセールスポイントを上げ、
試着を勧めてくれた。
私は一足を履いては、小走りにその場ランニングをする。
そして、首をかしげては、別の一足を履いてみる。
その方は、丁寧な口調で、
他社との編み方や形状,素材の違いをずっと説明する。
「これも、ランニング時のストライドが大きくなるよう
我が社が開発したものです」と続ける。
私も懲りずに言う。
「この年齢になると、一歩のストライド幅が狭くなって、
年々タイムが悪くなる。
足腰にバネがなくなるからでしょうね。
なんとかそれをカバーしたくて・・・。
靴下にそんな機能があればとすごくいいと思って・・。
他に優れた靴下はないですか?・・・」。
工場の奥へ戻ったその方が、
それまでより厚手で5本指の一足を持って来る。
「これはまだ試作段階のものですが、
ちょっと履いてみてください」。
同じように試着し、再びその場ランニングをする。
「これはいいかも。
早速、これを履いて走ってみたい。
昔のように走れる気がする」
「お客様、先ほども言いましたが、
本製品は、まだ試作中です。
商品になるまでには、今後5年はかかります。
それまで、お待ち下さい」
「え! 5年もですか。
待てないかも知れない。
だって私、80歳になってしまいます」
急に息苦しくなって目覚めた。
窓辺のカーテンを見ながら、大きなため息がもれた。
夢でもいい、1日も早い新製品の完成を!
② 今度は、靴下に替わって、
ランニングシューズの中敷き・インソールだった。
それを作っている現場にいた。
夢は、そこで私に合ったインソールを注文し、
作って貰っている最中であった。
左足の半月板損傷で、5キロを走っただけで、
翌日には痛みがでた。
その痛みを解消するためインソールを特注したのだ。
インソールの職人さんは、
私の足裏やランニングする足の運びを見て、
既存のインソールに布を追加したり一部を削ったりと、
試行錯誤をくり返してくれた。
そして、「いかがでしょうか?」。
これで7回目だが、
改良したインソールをランニングショーズに敷き、
私の前に置いてくれた。
それを履いて、部屋の周りを歩いたり走ったりしてみる。
その後ろ姿を見て、職人さんの表情がまたまた曇った。
同じように、走った感触が期待外れなことに私も曇る。
再び、違う素材のインソールを探し出し、
布を足したり削ったりする職人さん。
、
それを見ながら、私は言う。
これも7回目だ。
「10キロでいいから、左膝の心配をせずに、
走りたいんです。
春には大会があるので、それまでには・・」。
職人さんは、またうなずき、
黙々と私のインソール作りと向き合う。
私のわがままに、胸が痛んだ。
「それでも走りたい」。
その想いに、息が詰まった。
突然、目覚まし時計が聞こえた。
窓辺のカーテンを見ながら、大きなため息がもれた。
夢でもいい、私のインソールか完成するように!
③ 夕食は、私の大嫌いなホッキ貝の入ったカレーライスだった。
夢かもと思いつつも、我慢して食べた。
矢っ張り好きになれない味だったが、完食した。
翌朝、すっかり雪が消えた歩道を、
家内と一緒に走り出した。
アップダウンが続く5キロのコースだったが、
2人とも軽快な足どり。
珍しく、走りながら言葉を交わすことができた。
「こんなに調子よく走れるなんて、久しぶりだ!」
「どうして調子いいか、分かってる?」
「さあ、思い当たることなんてないねえ!」
「ホッキカレーよ。がんばって食べたから、ご褒美よ!」。
「へ~ぇ、嫌いな物を食べると調子よく走れるの!?
じゃ、今夜はタチ(真鱈の白子)の味噌汁にしますか」
冗談で言い放った。
夜の食卓に大量のタチが入った味噌汁がでた。
調子よく走れるのならと、黙って味噌汁のタチを全部食べた。
もう、味も好き嫌いも関係なかった。
それより、ランニングのため、その一心だった。
朝ランの結果は、まさに快走だった。
「調子いいよ。
明日も楽に走りたい。
今夜は思い切っていくら丼だ!」
ついに最も苦手とする『いくら』までリクエストする私。
ゴクリと生唾を飲んだところで夢から醒めた
窓辺のカーテンを見ながら、大きなため息がもれた。
夢でもいい、いくらでもウニでも何でも食べるから!
羊蹄山の冬 ~洞爺湖畔より