①
5年間、小学校に併設されていた幼稚園の
園長を兼任していた。
その園が50年の節目と共に閉鎖することになった。
公立私立を問わず、S区内幼稚園の無償化が始まった。
その影響で、2年保育の公立園から、
3年保育の私立園へと、選択の流れが一気に加速したようだ。
それで、園児数が激減し、今年度をもって閉園となった。
なので、幼稚園と教育委員会連名の閉園式案内状が届いた。
その封筒には、小さな短冊が入っていた。
『新型コロナ感染予防のため、
式は30分程度の予定・・』とあった。
「30分の式へ列席!」。
そのための上京に、若干のためらいがあった。
しかし、『閉園』の重みを感じた。
もう2度と立ち寄れない。
園児もいない。
園舎にも入れない。
そう思うと、50年の一端を刻んだことを偲びたくなった。
3月18日午前10時の開式に合わせ、
小学校の正門を通り、受付に行った。
そこで、式次第と閉園記念誌を頂いた。
てっきり来賓控室へ案内があるものと思っていたが、
そのまま式場へと言われた。
これも、コロナ対応の簡素化なのかと思った。
式場中央の席には、在園児と保護者、
区内公立幼稚園の現職員・旧職員がすでに座っていた。
来賓席は、右手に10数脚ずつ3列あり、
それぞれに名札が貼ってあった。
卒園式や周年式典の場合、
歴代園長の席は来賓席の最前列にあった。
ところが、ここでは3列目に私たち7人の名札があった。
違和感があった。
その上、他の来賓は控室で待機し、
開式直前に入場してきたのだ。
あきらかにコロナ対応ではなかった。
どうしてこんな差別化をしたのだろうか。
園児が大きな声で歌う『ありがとう ようちえん』を聞き、
心動くまで、閉園を偲ぶことも忘れ、
釈然としない疑問を引きずっていた。
② 3年ぶりに夜の銀座へ行った。
向かうは、『キリンシティー』だ。
70才を過ぎた夫婦の来店だ。
店員さんに空席へ案内されると、すかさず訊かれた。
「お客様、当店へは初めてでしょうか」。
着席しながら私は「いえ、でも久しぶりです」と。
すると彼は丁寧な口調で、
「当店では、ご注文頂いたビールを3回に分けて、
グラスに入れます。
従いまして、しばらくお時間を頂戴することになります」。
懐かしいフレーズだった。
うなずきながら、何故が嬉しくなった。
この店は、キリンビールのビアホールレストランだ。
「キリンラガー」や「一番搾り」が定番だが、
このチェーン店でしかお目にかからない
「ブラウンマイスター」と言う銘柄が私は好きだった。
店内は以前と変わらないが、
タッチパネルで注文することだけが違っていた。
季節のメニューからホタルイカの和え物、
他に鯛のカルパッチョ、ジャーマンポテトなども一緒に注文した。
案の定、しばらく待った。
そして、キリンシティーオリジナルのグラスに注がれた
「ブラウン~」が2つ、テーブルにきた。
すぐにグラスを掲げ、
「グイッグイッ! グイッグイッ。
ううん、美味い!」。
3年ぶりの美酒に、のども心も潤った。
この店ならではのホタルイカ、鯛、ポテトの味を、
ゆっくりと堪能し、2杯目3杯目と注文した。
ふとガラス張りの2階から外を見た。
人通りが絶えない道をはさんだ喫茶ルノアールからは、
いつもと同じ明かりがこぼれていた。
そして、満席で賑わう店内に目を移すと、
カウンターの一角で、仕事帰りと思われる女性が1人、
肩肘をつきながらビールグラスを手にしていた。
30歳代から時々利用していた店である。
刻一刻と進化する銀座だが、
知った当初からずっと、ちょっと小洒落た都会の空気感があった。
きっとそれに今も惹かれているのだと思った。
③ 独身の長男が、世田谷区内にマンションを購入して4年になる。
5泊6日の内、3泊をさせてもらうことにした。
初めてのことだ。
小田急線沿線の住宅街だが、ベランダのすぐ前には農園があった。
地元の農家さんが、様々な青果を栽培し、
一角にはコイン販売機まで置かれていた。
エプロン姿の女性が自転車を止め、野菜を買っていた。
ところが、マンションの玄関前はと言うと、
道幅の狭いバス通りで、ガードレールで区切られた歩道は、
人がやっとすれ違える広さしかなかった。
そこを車が頻繁に行き交い、
通勤通学の自転車が忙しく通り過ぎていた。
長男は言う。
「隣りはセブンイレブン。
向かいにはコインランドリーとクリーニング屋。
買いだめなんていらない。
洗濯物は干す手間もいらない。
便利なもんさ」。
マンション内は、都会のけんそうが遮断され、
部屋では2匹の愛猫が待つ暮らしである。
伊達と変わらないゆったりとした時間が、室内を流れ、
毎晩、なんの違和感もなく眠りについた。
ところが、早朝散歩へと玄関を一歩出ると、
そこは、すでに車と自転車が途切れることなく流れていた。
隣のコンビニ駐車場には、
工具を積んだ車や小型トラックが何台も並び、
作業着姿の人たちが、足早に店を出入りしていた。
東京は、目覚めと共に活気づき、
人々は違和感なくそのエネルギーに従っているところだった。
そして、暮らしの中にあるオンとオフが、
隣り合わせなところだとも・・。
そんな都会の刺激がちょっと懐かしく感じたり・・。
もうはや 咲き始めた!
5年間、小学校に併設されていた幼稚園の
園長を兼任していた。
その園が50年の節目と共に閉鎖することになった。
公立私立を問わず、S区内幼稚園の無償化が始まった。
その影響で、2年保育の公立園から、
3年保育の私立園へと、選択の流れが一気に加速したようだ。
それで、園児数が激減し、今年度をもって閉園となった。
なので、幼稚園と教育委員会連名の閉園式案内状が届いた。
その封筒には、小さな短冊が入っていた。
『新型コロナ感染予防のため、
式は30分程度の予定・・』とあった。
「30分の式へ列席!」。
そのための上京に、若干のためらいがあった。
しかし、『閉園』の重みを感じた。
もう2度と立ち寄れない。
園児もいない。
園舎にも入れない。
そう思うと、50年の一端を刻んだことを偲びたくなった。
3月18日午前10時の開式に合わせ、
小学校の正門を通り、受付に行った。
そこで、式次第と閉園記念誌を頂いた。
てっきり来賓控室へ案内があるものと思っていたが、
そのまま式場へと言われた。
これも、コロナ対応の簡素化なのかと思った。
式場中央の席には、在園児と保護者、
区内公立幼稚園の現職員・旧職員がすでに座っていた。
来賓席は、右手に10数脚ずつ3列あり、
それぞれに名札が貼ってあった。
卒園式や周年式典の場合、
歴代園長の席は来賓席の最前列にあった。
ところが、ここでは3列目に私たち7人の名札があった。
違和感があった。
その上、他の来賓は控室で待機し、
開式直前に入場してきたのだ。
あきらかにコロナ対応ではなかった。
どうしてこんな差別化をしたのだろうか。
園児が大きな声で歌う『ありがとう ようちえん』を聞き、
心動くまで、閉園を偲ぶことも忘れ、
釈然としない疑問を引きずっていた。
② 3年ぶりに夜の銀座へ行った。
向かうは、『キリンシティー』だ。
70才を過ぎた夫婦の来店だ。
店員さんに空席へ案内されると、すかさず訊かれた。
「お客様、当店へは初めてでしょうか」。
着席しながら私は「いえ、でも久しぶりです」と。
すると彼は丁寧な口調で、
「当店では、ご注文頂いたビールを3回に分けて、
グラスに入れます。
従いまして、しばらくお時間を頂戴することになります」。
懐かしいフレーズだった。
うなずきながら、何故が嬉しくなった。
この店は、キリンビールのビアホールレストランだ。
「キリンラガー」や「一番搾り」が定番だが、
このチェーン店でしかお目にかからない
「ブラウンマイスター」と言う銘柄が私は好きだった。
店内は以前と変わらないが、
タッチパネルで注文することだけが違っていた。
季節のメニューからホタルイカの和え物、
他に鯛のカルパッチョ、ジャーマンポテトなども一緒に注文した。
案の定、しばらく待った。
そして、キリンシティーオリジナルのグラスに注がれた
「ブラウン~」が2つ、テーブルにきた。
すぐにグラスを掲げ、
「グイッグイッ! グイッグイッ。
ううん、美味い!」。
3年ぶりの美酒に、のども心も潤った。
この店ならではのホタルイカ、鯛、ポテトの味を、
ゆっくりと堪能し、2杯目3杯目と注文した。
ふとガラス張りの2階から外を見た。
人通りが絶えない道をはさんだ喫茶ルノアールからは、
いつもと同じ明かりがこぼれていた。
そして、満席で賑わう店内に目を移すと、
カウンターの一角で、仕事帰りと思われる女性が1人、
肩肘をつきながらビールグラスを手にしていた。
30歳代から時々利用していた店である。
刻一刻と進化する銀座だが、
知った当初からずっと、ちょっと小洒落た都会の空気感があった。
きっとそれに今も惹かれているのだと思った。
③ 独身の長男が、世田谷区内にマンションを購入して4年になる。
5泊6日の内、3泊をさせてもらうことにした。
初めてのことだ。
小田急線沿線の住宅街だが、ベランダのすぐ前には農園があった。
地元の農家さんが、様々な青果を栽培し、
一角にはコイン販売機まで置かれていた。
エプロン姿の女性が自転車を止め、野菜を買っていた。
ところが、マンションの玄関前はと言うと、
道幅の狭いバス通りで、ガードレールで区切られた歩道は、
人がやっとすれ違える広さしかなかった。
そこを車が頻繁に行き交い、
通勤通学の自転車が忙しく通り過ぎていた。
長男は言う。
「隣りはセブンイレブン。
向かいにはコインランドリーとクリーニング屋。
買いだめなんていらない。
洗濯物は干す手間もいらない。
便利なもんさ」。
マンション内は、都会のけんそうが遮断され、
部屋では2匹の愛猫が待つ暮らしである。
伊達と変わらないゆったりとした時間が、室内を流れ、
毎晩、なんの違和感もなく眠りについた。
ところが、早朝散歩へと玄関を一歩出ると、
そこは、すでに車と自転車が途切れることなく流れていた。
隣のコンビニ駐車場には、
工具を積んだ車や小型トラックが何台も並び、
作業着姿の人たちが、足早に店を出入りしていた。
東京は、目覚めと共に活気づき、
人々は違和感なくそのエネルギーに従っているところだった。
そして、暮らしの中にあるオンとオフが、
隣り合わせなところだとも・・。
そんな都会の刺激がちょっと懐かしく感じたり・・。
もうはや 咲き始めた!