当地で一番大きなイベント会場は、
『だて歴史の杜カルチャーセンター』大ホールである。
座席数は約1000だ。
人口3万少々の地方都市のその会場には、
年に数回、演劇や音楽の公演がやってくる。
その公演を招致するのは、
主に私も会員になっている『伊達メセナ』である。
会員の特典として、チケットの優先販売がある。
先日行われた小椋佳のコンサートも、
それを使って前列の席を確保した。
それにしても、都会とは大違い・・。
その会場での公演の多くは、午後6時半に開演する。
なので、私は、いつもよりやや早い夕食を摂り、
車で5分もかからず、会場近くの駐車j場へ。
会場着席まで15分もあれば十分。
電車と徒歩で会場入りまで、
1時間以上かかる都心のホールとは全く違う便利さだ。
さて、久しぶりの小椋佳サウンドに、
心が揺れた。
もうラブソングなんて無縁と思っていたが、
どうやら年齢の方が、無関係のようだ。
会場で聴いた78歳になる声の『めまい』『揺れるまなざし』が
耳から離れない。
「ときめき・・!」。
ちょっと面はゆいが、
まだしばらくは大事にしたいと感じた。
そろそろ本題に入る。
伊達に移住して10年が過ぎた。
数々の出会い、エピソードがあった。
それを思い出すまま、語録として綴る。
その3回目である。
4.超 高 齢 者
① 今 も 散 歩
5年前まで、家内と一緒の朝ランは、
自宅前を6時半にスタートした。
嘉右衛門坂通りを下りはじめて5分もしない辺りで、
反対側の歩道を散歩する女性と、よく出会った。
見かけると私たちは、すぐに「おはようございます」と、
声をかける。
すると、その方は、私たちを確認してから、
右手を高く挙げ、朝の挨拶を返してくれた。
当初は、名前も住まいも分からなかった。
だから、家内とは「手を挙げるおばさん」と言っていた。
私たちの朝ランも次第に不規則になった。
冬やコロナで、走る頻度も減った。
だから、その方と出会うことが無くなってしまった。
もう3年も会っていなかったろうか。
春先のことだ。
お昼時に、家内と自宅前の歩道を掃除していた。
すると、似た歩き格好の方が、
嘉右衛門坂通りを進んできた。
家内が手を振った。
私たちに気づくと、ゆっくりとその方は近づいてきた。
「あら~、久しぶりですね」。
家内とは何回か言葉を交わしたことがあるらしい。
でも、随分とフレンドリーな感じ・・。
その方は、続けた。
「今も走っていらっしゃるのですか。
私は朝は止めて、昼間時々、こうしてゆっくり歩いているの」。
「毎日ではないけれど、時々は走ってます。
お元気でしたか」。
家内は訊いた。
「一応、元気ですよ。
脳梗塞で病院に運ばれたこともありましたが、今はもう大丈夫。
でも、私も歳だから・・、いつ、どうなるか・・」。
「お幾つになられましたか?」。
私が口をはさんだ。
「もう93ですよ」。
ビックリした。
急いで逆算した。
「手を挙げるおばさん」と言っていた頃には、
もう85歳を越えていたことになる。
さて、その年齢になった私に、
『手を挙げる』あの元気があるだろうか。
ただただ「あやかりたい!」と願った。
② 今 も 運 転
それはゴルフからの帰り、
その交差点を左折すると自宅に到着する所でのことだ。
6,7名の人が集まっていた。
そして、交差点の先で1台の乗用車が、
歩道の縁石に車輪をのり上げて、停止していた。
自宅に車を止め、その場へ急いだ。
反対側の車線に、高所作業車と同じカラーの車が駐車していた。
その作業員らが、乗り上げた車からジャッキを取り出し、
縁石から車を移動させようとしていた。
幸い人手は足りていた。
作業員らは、キビキビとタイヤの下に厚い板を挟んでいた。
ハンドルを切り間違えての事故だと思った。
ドライバーを探した。
忙しく動いている作業員のそばに、
腰の折れ曲がった男性が、前かがみのままでいた。
まさかと思ったが、
車の後ろには色あせた『もみじマーク』が張ってあった。
車を縁石から動かす準備ができた。
作業員がその老人に運転を促した。
「いや、無理です。
もう91になる。車を動かすのも頼みます」。
その老人は、小さく言った。
作業員の1人が黙って運転席に座り、ハンドルを握った。
ゆっくりと縁石から車を移動させた。
歩道から車道へ移った車には大きな傷もなかった。
その安堵とは別に、91歳のドライバーへの不安は膨らんだ。
いつまで運転するのだろう・・?
誰か免許を返納させることはできないのか。
5.「今朝も散歩ですか」
夏から秋へ、季節の移ろいがやけに早い。
一日一日、山々には赤みが加わり、
街路樹の紅葉がどんどん進む。
春とはおもむきを変えた秋ならではの美しさが目を惹く。
散歩する歩調も、つい緩んでしまう。
そんな朝、アヤメ川自然公園入口の道路脇に立ち止まり、
散歩する私を見ている方がいた。
真っ白な愛犬と一緒だが、顔に見覚えがなかった。
近くまで行くと、挨拶を交わす間もなく声をかけられた。
「今朝も散歩ですか?」。
突然の問いに、私はやや驚きながら、
「アッ、ハイ」と応じた。
「いつも走ってましたよね?」
再び驚きながら、また、
「アッ、ハイ」と応じた。
その方は明るい表情で会釈をすると、
すぐに愛犬と一緒に公園の木道へ消えていった。
一方の私は、散歩を続けながら、
不思議な気分を引きずったまま・・。
「見覚えのない顔だが」と、ブツブツ、ブツブツ・・・。
街路樹の『山法師』が真っ赤っか
『だて歴史の杜カルチャーセンター』大ホールである。
座席数は約1000だ。
人口3万少々の地方都市のその会場には、
年に数回、演劇や音楽の公演がやってくる。
その公演を招致するのは、
主に私も会員になっている『伊達メセナ』である。
会員の特典として、チケットの優先販売がある。
先日行われた小椋佳のコンサートも、
それを使って前列の席を確保した。
それにしても、都会とは大違い・・。
その会場での公演の多くは、午後6時半に開演する。
なので、私は、いつもよりやや早い夕食を摂り、
車で5分もかからず、会場近くの駐車j場へ。
会場着席まで15分もあれば十分。
電車と徒歩で会場入りまで、
1時間以上かかる都心のホールとは全く違う便利さだ。
さて、久しぶりの小椋佳サウンドに、
心が揺れた。
もうラブソングなんて無縁と思っていたが、
どうやら年齢の方が、無関係のようだ。
会場で聴いた78歳になる声の『めまい』『揺れるまなざし』が
耳から離れない。
「ときめき・・!」。
ちょっと面はゆいが、
まだしばらくは大事にしたいと感じた。
そろそろ本題に入る。
伊達に移住して10年が過ぎた。
数々の出会い、エピソードがあった。
それを思い出すまま、語録として綴る。
その3回目である。
4.超 高 齢 者
① 今 も 散 歩
5年前まで、家内と一緒の朝ランは、
自宅前を6時半にスタートした。
嘉右衛門坂通りを下りはじめて5分もしない辺りで、
反対側の歩道を散歩する女性と、よく出会った。
見かけると私たちは、すぐに「おはようございます」と、
声をかける。
すると、その方は、私たちを確認してから、
右手を高く挙げ、朝の挨拶を返してくれた。
当初は、名前も住まいも分からなかった。
だから、家内とは「手を挙げるおばさん」と言っていた。
私たちの朝ランも次第に不規則になった。
冬やコロナで、走る頻度も減った。
だから、その方と出会うことが無くなってしまった。
もう3年も会っていなかったろうか。
春先のことだ。
お昼時に、家内と自宅前の歩道を掃除していた。
すると、似た歩き格好の方が、
嘉右衛門坂通りを進んできた。
家内が手を振った。
私たちに気づくと、ゆっくりとその方は近づいてきた。
「あら~、久しぶりですね」。
家内とは何回か言葉を交わしたことがあるらしい。
でも、随分とフレンドリーな感じ・・。
その方は、続けた。
「今も走っていらっしゃるのですか。
私は朝は止めて、昼間時々、こうしてゆっくり歩いているの」。
「毎日ではないけれど、時々は走ってます。
お元気でしたか」。
家内は訊いた。
「一応、元気ですよ。
脳梗塞で病院に運ばれたこともありましたが、今はもう大丈夫。
でも、私も歳だから・・、いつ、どうなるか・・」。
「お幾つになられましたか?」。
私が口をはさんだ。
「もう93ですよ」。
ビックリした。
急いで逆算した。
「手を挙げるおばさん」と言っていた頃には、
もう85歳を越えていたことになる。
さて、その年齢になった私に、
『手を挙げる』あの元気があるだろうか。
ただただ「あやかりたい!」と願った。
② 今 も 運 転
それはゴルフからの帰り、
その交差点を左折すると自宅に到着する所でのことだ。
6,7名の人が集まっていた。
そして、交差点の先で1台の乗用車が、
歩道の縁石に車輪をのり上げて、停止していた。
自宅に車を止め、その場へ急いだ。
反対側の車線に、高所作業車と同じカラーの車が駐車していた。
その作業員らが、乗り上げた車からジャッキを取り出し、
縁石から車を移動させようとしていた。
幸い人手は足りていた。
作業員らは、キビキビとタイヤの下に厚い板を挟んでいた。
ハンドルを切り間違えての事故だと思った。
ドライバーを探した。
忙しく動いている作業員のそばに、
腰の折れ曲がった男性が、前かがみのままでいた。
まさかと思ったが、
車の後ろには色あせた『もみじマーク』が張ってあった。
車を縁石から動かす準備ができた。
作業員がその老人に運転を促した。
「いや、無理です。
もう91になる。車を動かすのも頼みます」。
その老人は、小さく言った。
作業員の1人が黙って運転席に座り、ハンドルを握った。
ゆっくりと縁石から車を移動させた。
歩道から車道へ移った車には大きな傷もなかった。
その安堵とは別に、91歳のドライバーへの不安は膨らんだ。
いつまで運転するのだろう・・?
誰か免許を返納させることはできないのか。
5.「今朝も散歩ですか」
夏から秋へ、季節の移ろいがやけに早い。
一日一日、山々には赤みが加わり、
街路樹の紅葉がどんどん進む。
春とはおもむきを変えた秋ならではの美しさが目を惹く。
散歩する歩調も、つい緩んでしまう。
そんな朝、アヤメ川自然公園入口の道路脇に立ち止まり、
散歩する私を見ている方がいた。
真っ白な愛犬と一緒だが、顔に見覚えがなかった。
近くまで行くと、挨拶を交わす間もなく声をかけられた。
「今朝も散歩ですか?」。
突然の問いに、私はやや驚きながら、
「アッ、ハイ」と応じた。
「いつも走ってましたよね?」
再び驚きながら、また、
「アッ、ハイ」と応じた。
その方は明るい表情で会釈をすると、
すぐに愛犬と一緒に公園の木道へ消えていった。
一方の私は、散歩を続けながら、
不思議な気分を引きずったまま・・。
「見覚えのない顔だが」と、ブツブツ、ブツブツ・・・。
街路樹の『山法師』が真っ赤っか