11月初旬のことだ。
伊達市青年会議所創立45周年記念として、トークライブがあった。
そのトークメンバー3人の中に、伊達・菊谷市長さんがおり、興味をもった。
会場は、用意された300余席に空席がない程で、
青年会議所の催しとあってか、若年層の参加も多く私を驚かせた。
トークテーマは、『人口減少問題と伊達市の20年後』となっていた。
テレビの報道番組などでも顔馴染みの、
日本総合研究所主席・藻谷浩介氏と
観光カリスマ・山田桂一郎氏が
主導する形でトークは展開した。
お二人の話は、ところどころに全国的視点がちりばめられ、
伊達市や他の地方都市の実情比較がありと、
私の興味を満たしてくれた。
このトークライブを通して、強く私を惹きつけたのは、
他でもない菊谷市長さんのある一言だった。
ご存じの方も多いと思うが、
藻谷氏はいわゆる『里山資本主義』を唱え、
安心のネットワークとお金が地域内を循環することの重要性を説いている。
このトークでも、随所にその主張があった。
こと伊達についても、その1例として
観光物産館で売れている地元農家産の野菜を、もっと高い値で売ってはどうかと発言した。
観光物産館に、伊達野菜を買いに来る旅行者は、
伊達の美味しい野菜を求めて来る。
新鮮で美味しければ、多少高くても買ってくれる。
だからもっと高値で売ればいい。
高く売れれば、その分だけ地元・伊達は潤うことになる。
私は、彼の話をそんな風に理解し、大いに納得した。
そんな藻谷氏の提案について、菊谷市長さんに意見が求められた。
それまで藻谷氏と山田氏の話に耳を傾けていた市長さんが静かな口調で、
「だけど高く売れば、ぼったくりになると、農家さんは思うんですよ。
安くて新鮮で安心な野菜を食べてもらいたいと、農家さんは頑張っているんです。」と。
記録をしっかりと取っていた訳ではないが、そんな風に市長さんは話されたように思う。
私は、一瞬頭を殴られたような衝撃を覚えた。
農業という物作りに従事する方々の心情を、改めて教えられた。
そして、そんな農家さんの思いに、
気づきもしない私の軽薄さと鈍感さが恥ずかしかった。
トークライブの翌日、観光物産館に行った。
なんとはなく真新しい気持ちだった。
我が家の食卓にのる野菜類の多くは、ここで買い求めた。
生野菜嫌いの私を改めさせてくれたのも、ここの野菜だった、
いつも新鮮で安い野菜が、豊富に並んでいる。
市長さんの言葉が、まだ耳に残っていた。
物産館の野菜売場は、約80戸の農家さんが
それぞれ農家ごとに割り当てられた陳列棚に作物を並べている。
その棚には農園名と農家さんの顔写真、
そして『こだわりポイント』と題するコメントが掲示されている。
それまで、そのコメントに私は気を止めていなかった。
この日初めて、出入口近くの棚のコメントを読んでみた。
“伊達市は北の湘南と呼ばれております。
その温暖な気候の中、私達農家が心を込めて作った野菜を販売いたします。
どの野菜も新鮮で安心、そして低価格です。
子供さんからお年寄りの方まで沢山食べて下さい。”
いつも素通りしていた所に、こんな素敵な思いが記されていた。
この棚だけでなく、隣にもその隣にも作り手の真心があった。
“農家を始めて50数年 食べて喜ばれる完熟野菜
農産物を減農薬で栽培 安心増量販売”
“出来るだけ農薬・肥料を抑え、有機肥料中心に使用して
「おいしくなぁれ」と願いながら、毎日花や野菜を育てています。
伊達の素晴らしい気候に合った農業を続けて行こうと思っています。”
“食卓に微笑みが出るような、
そんな一品一品が美味しくできるように心がけております。”
心を打つ一文が続いていた。
こんなコメントの棚も
“私は農家ではありません。脱サラをして趣味で野菜を作り山菜採りしています。
できる限り農薬に頼らず、有機肥料を使い安全安心な野菜作りに頑張っています。
見た目はアマチュアの作った野菜です。”
この方の作った漬け物のファンは少なくない。
「きっとこんなシャイな人柄が、あの味になるのだ」
と、思わず呟いていた。
そして、ついにこんなメッセージが
“ミネラルたっぷりの水産肥料を長年使用した土づくりにより、
安全はもちろん、人工的でない本物の味を追求して栽培をしています。
これから冬まで長い期間、伊達の旬をお届けします。”
私は、野菜作りへの熱い思いとその思いの深さ、
ねばり強さと力強さを、生きたコメントの言葉の力から感じることができた。
今、私の暮らしのすぐそばには、広大な畑が続いている。
ジョギングのコースや散歩道は、畑のすぐ横にある。
新鮮な野菜に恵まれた生活をしている。
それなのに、その野菜一つ一つに、
農家さんのこんなにも真っ直ぐな思いがあることに気づかずにいた。
市長さんの言葉と『こだわりポイント』から、私は学んだ。
「今年の枝豆は格別だ。」
「アスパラはLサイズが一番美味しい。」
と、軽口を叩いていた。
それはそれとして、
早朝の畑道をジョギングすると、
春から秋までは、トラクターのエンジン音がすでに轟いていた。
あれは「朝採りの美味しい野菜を。」と言う思いからのものだと実感した。
今度からは、「ご苦労さま。」に加えて、「ありがとうございます。」と挨拶することにする。
今、伊達は冬野菜が出回っている。
ほうれん草に甘みが加わり特に美味しい。
それにしても、私には昨年より美味しさが心にしみる。
庭先から見た 朝焼け
伊達市青年会議所創立45周年記念として、トークライブがあった。
そのトークメンバー3人の中に、伊達・菊谷市長さんがおり、興味をもった。
会場は、用意された300余席に空席がない程で、
青年会議所の催しとあってか、若年層の参加も多く私を驚かせた。
トークテーマは、『人口減少問題と伊達市の20年後』となっていた。
テレビの報道番組などでも顔馴染みの、
日本総合研究所主席・藻谷浩介氏と
観光カリスマ・山田桂一郎氏が
主導する形でトークは展開した。
お二人の話は、ところどころに全国的視点がちりばめられ、
伊達市や他の地方都市の実情比較がありと、
私の興味を満たしてくれた。
このトークライブを通して、強く私を惹きつけたのは、
他でもない菊谷市長さんのある一言だった。
ご存じの方も多いと思うが、
藻谷氏はいわゆる『里山資本主義』を唱え、
安心のネットワークとお金が地域内を循環することの重要性を説いている。
このトークでも、随所にその主張があった。
こと伊達についても、その1例として
観光物産館で売れている地元農家産の野菜を、もっと高い値で売ってはどうかと発言した。
観光物産館に、伊達野菜を買いに来る旅行者は、
伊達の美味しい野菜を求めて来る。
新鮮で美味しければ、多少高くても買ってくれる。
だからもっと高値で売ればいい。
高く売れれば、その分だけ地元・伊達は潤うことになる。
私は、彼の話をそんな風に理解し、大いに納得した。
そんな藻谷氏の提案について、菊谷市長さんに意見が求められた。
それまで藻谷氏と山田氏の話に耳を傾けていた市長さんが静かな口調で、
「だけど高く売れば、ぼったくりになると、農家さんは思うんですよ。
安くて新鮮で安心な野菜を食べてもらいたいと、農家さんは頑張っているんです。」と。
記録をしっかりと取っていた訳ではないが、そんな風に市長さんは話されたように思う。
私は、一瞬頭を殴られたような衝撃を覚えた。
農業という物作りに従事する方々の心情を、改めて教えられた。
そして、そんな農家さんの思いに、
気づきもしない私の軽薄さと鈍感さが恥ずかしかった。
トークライブの翌日、観光物産館に行った。
なんとはなく真新しい気持ちだった。
我が家の食卓にのる野菜類の多くは、ここで買い求めた。
生野菜嫌いの私を改めさせてくれたのも、ここの野菜だった、
いつも新鮮で安い野菜が、豊富に並んでいる。
市長さんの言葉が、まだ耳に残っていた。
物産館の野菜売場は、約80戸の農家さんが
それぞれ農家ごとに割り当てられた陳列棚に作物を並べている。
その棚には農園名と農家さんの顔写真、
そして『こだわりポイント』と題するコメントが掲示されている。
それまで、そのコメントに私は気を止めていなかった。
この日初めて、出入口近くの棚のコメントを読んでみた。
“伊達市は北の湘南と呼ばれております。
その温暖な気候の中、私達農家が心を込めて作った野菜を販売いたします。
どの野菜も新鮮で安心、そして低価格です。
子供さんからお年寄りの方まで沢山食べて下さい。”
いつも素通りしていた所に、こんな素敵な思いが記されていた。
この棚だけでなく、隣にもその隣にも作り手の真心があった。
“農家を始めて50数年 食べて喜ばれる完熟野菜
農産物を減農薬で栽培 安心増量販売”
“出来るだけ農薬・肥料を抑え、有機肥料中心に使用して
「おいしくなぁれ」と願いながら、毎日花や野菜を育てています。
伊達の素晴らしい気候に合った農業を続けて行こうと思っています。”
“食卓に微笑みが出るような、
そんな一品一品が美味しくできるように心がけております。”
心を打つ一文が続いていた。
こんなコメントの棚も
“私は農家ではありません。脱サラをして趣味で野菜を作り山菜採りしています。
できる限り農薬に頼らず、有機肥料を使い安全安心な野菜作りに頑張っています。
見た目はアマチュアの作った野菜です。”
この方の作った漬け物のファンは少なくない。
「きっとこんなシャイな人柄が、あの味になるのだ」
と、思わず呟いていた。
そして、ついにこんなメッセージが
“ミネラルたっぷりの水産肥料を長年使用した土づくりにより、
安全はもちろん、人工的でない本物の味を追求して栽培をしています。
これから冬まで長い期間、伊達の旬をお届けします。”
私は、野菜作りへの熱い思いとその思いの深さ、
ねばり強さと力強さを、生きたコメントの言葉の力から感じることができた。
今、私の暮らしのすぐそばには、広大な畑が続いている。
ジョギングのコースや散歩道は、畑のすぐ横にある。
新鮮な野菜に恵まれた生活をしている。
それなのに、その野菜一つ一つに、
農家さんのこんなにも真っ直ぐな思いがあることに気づかずにいた。
市長さんの言葉と『こだわりポイント』から、私は学んだ。
「今年の枝豆は格別だ。」
「アスパラはLサイズが一番美味しい。」
と、軽口を叩いていた。
それはそれとして、
早朝の畑道をジョギングすると、
春から秋までは、トラクターのエンジン音がすでに轟いていた。
あれは「朝採りの美味しい野菜を。」と言う思いからのものだと実感した。
今度からは、「ご苦労さま。」に加えて、「ありがとうございます。」と挨拶することにする。
今、伊達は冬野菜が出回っている。
ほうれん草に甘みが加わり特に美味しい。
それにしても、私には昨年より美味しさが心にしみる。
庭先から見た 朝焼け