10月 某日
昨年11月、5歳違いの姉は、
横浜の大きな病院で,心臓の手術を受けた。
そこは、姉の娘が看護師をしており、
それを頼っての療養だった。
手術は当初予想よりも時間がかかったが、
その後は順調な経過だった。
しかし、年齢が年齢である。
一時は、もう1度若干の手術が必要かもと、
医師から告げられたこともあった。
しかし、激減した体重も徐々に回復し、
今夏には、投薬もゼロになり、定期的な診断のみに。
そして、遂に10月、全快にこぎ着けた。
手術前の姉は、登別温泉の有名旅館で事務スタッフをしていた。
女将は、「お姉様は私の片腕同然、頼りにしてるんですよ」と私に言った。
とは言え、11ヶ月に及ぶ病休である。
仕事復帰は、難しいと私は思い込んでいた。
ところが、旅館からは1日でも早く復帰してほしいとのこと。
1週間程前、連絡を受け、
新千歳空港まで、迎えに行った。
横浜での日常品は全て宅配便で送り、
姉はハンドバック1つで、到着ロビーから現れた。
そして、「明日から、働く」と言った。
私は、5人兄弟である。
長女と長男はすでに他界しているが、
86歳の二男は、今も毎朝、魚市場に出向き、
仕入れた魚の身下ろしをし、開店と同時に接客に立っている。
そして、健康を回復した81歳の二女は、
休む間もなく、明日から仕事に出ると・・。
2人は口を揃えて明るく言う。
「何もしないで、家でブラブラしているよりもいいもん」
私は、何もしないでブラブラと毎日を過ごしている訳ではないが、
2人を見てると、少し恥ずかしくなる。
11月 某日 ①
ここ2,3年のことだが、
道内では名の通ったラーメンの暖簾がかかる店で、
ラーメンではなく、あんかけ焼きそばをよく注文する。
その店では、ずっと味噌ラーメンだが、
いつ頃からか、家内は特別メニューのような
あんかけ焼きそばを食べ始めた。
ここはラーメンで有名な店だ。
なのに違う注文をすることに、当初私は不快な気分だった。
だが、「そんなに美味しいのなら」と、
一度だけのつもりでオーダーしてみた。
以来、私もラーメンから方針転換をした。
しかし、あんかけ焼きそばを他店で食べたことがなかった。
そこで、東京に来た貴重な機会だと、
デパートの最上階にあった高級中華料理店で食べてみることにした。
メニューを見て、まずその価格の違いに驚いた。
いつも食べている約3倍の値がした。
そして、出てきたあんかけ焼きそばの美味しいこと。
その値段に十分納得した。
さて、家内と私がその中華料理店へ入ったのは、
まだランチメニューの時間帯だった。
やや空席はあったが、多くのお客さんで席が埋まっていた。
窓側の席に案内された私の所から、
丁度、2人用のテーブル席が2つ並んでいるのが見えた。
そこに、初老の男性と女性が1人ずつ着席していた。
注文したものを待つ間に、2人が注文した昼食が届いた。
やや遠慮しながら2人の様子を見た。
高級中華料理店で、
1人で中華を食べていることが気になった。
テーブルがやや離れていたので、当然2人は別々の客である。
その2人が、同じ方向を向いて食べていた。
やや不思議な気持ちで、
美味しそうに食べる2人を遠慮しながら、ちら見した。
東京でも、高齢化は間違いなく進んでいる。
だから、このような高級店でも高齢の単身者が食事を楽しんで当然だ。
なのに、見慣れない私には、異様な光景のように映ってしまった。
同時に、そんな目で見ていることに、申し訳ない気持ちにもなっていた。
11月 某日 ②
高級中華料理店での昼食の翌日だ。
コロナ禍前まで、年に1回は一緒にゴルフをしていたOご夫妻と、
夕ご飯を共にすることになっていた。
お酒の好きなお二人だった。
夕方、錦糸町のおそば屋さんで待ち合わせをした。
1週間ほど前、4人のグループLINEに、
待ち合わせ時間とおそば屋の名前の知らせが届いた。
そのおそば屋は現職の頃、よく利用した。
落ち着いた雰囲気で、居酒屋とは違い、
数人で飲むには最高の店だった。
しかし、2年前からそこには店がなくなっていた。
でもOさんは、その店を指定してきた。
もしかしたら、近くに移転したのかもと思い、
ネットで検索してみた。
案の定であった。
駅の反対側のビルに、その店はあった。
さて、待ち合わせ時間の少し前に店に着いた。
でも、Oさん夫妻がなかなか現れない。
5分が過ぎた。
LINEメールが来た。
「おそば屋さんが無くなっています。
今、どこにいますか?」
移転に気づかず、店を指定したのだ。
「お店は、移転しました。
駅の反対側Rビルの2階にあります。
店の前にいます」
メールで返信しながら、笑いがこみ上げた。
だって、移転にいち早く気づいたのは、
東京に住む現地の方ではなくて、
北海道の私たちだったのだもの・・・。
その後の4人でのお酒を囲んでの食事は、
しばらくの間、このことで盛り上がった。
晩秋の色・ナナカマドの実
昨年11月、5歳違いの姉は、
横浜の大きな病院で,心臓の手術を受けた。
そこは、姉の娘が看護師をしており、
それを頼っての療養だった。
手術は当初予想よりも時間がかかったが、
その後は順調な経過だった。
しかし、年齢が年齢である。
一時は、もう1度若干の手術が必要かもと、
医師から告げられたこともあった。
しかし、激減した体重も徐々に回復し、
今夏には、投薬もゼロになり、定期的な診断のみに。
そして、遂に10月、全快にこぎ着けた。
手術前の姉は、登別温泉の有名旅館で事務スタッフをしていた。
女将は、「お姉様は私の片腕同然、頼りにしてるんですよ」と私に言った。
とは言え、11ヶ月に及ぶ病休である。
仕事復帰は、難しいと私は思い込んでいた。
ところが、旅館からは1日でも早く復帰してほしいとのこと。
1週間程前、連絡を受け、
新千歳空港まで、迎えに行った。
横浜での日常品は全て宅配便で送り、
姉はハンドバック1つで、到着ロビーから現れた。
そして、「明日から、働く」と言った。
私は、5人兄弟である。
長女と長男はすでに他界しているが、
86歳の二男は、今も毎朝、魚市場に出向き、
仕入れた魚の身下ろしをし、開店と同時に接客に立っている。
そして、健康を回復した81歳の二女は、
休む間もなく、明日から仕事に出ると・・。
2人は口を揃えて明るく言う。
「何もしないで、家でブラブラしているよりもいいもん」
私は、何もしないでブラブラと毎日を過ごしている訳ではないが、
2人を見てると、少し恥ずかしくなる。
11月 某日 ①
ここ2,3年のことだが、
道内では名の通ったラーメンの暖簾がかかる店で、
ラーメンではなく、あんかけ焼きそばをよく注文する。
その店では、ずっと味噌ラーメンだが、
いつ頃からか、家内は特別メニューのような
あんかけ焼きそばを食べ始めた。
ここはラーメンで有名な店だ。
なのに違う注文をすることに、当初私は不快な気分だった。
だが、「そんなに美味しいのなら」と、
一度だけのつもりでオーダーしてみた。
以来、私もラーメンから方針転換をした。
しかし、あんかけ焼きそばを他店で食べたことがなかった。
そこで、東京に来た貴重な機会だと、
デパートの最上階にあった高級中華料理店で食べてみることにした。
メニューを見て、まずその価格の違いに驚いた。
いつも食べている約3倍の値がした。
そして、出てきたあんかけ焼きそばの美味しいこと。
その値段に十分納得した。
さて、家内と私がその中華料理店へ入ったのは、
まだランチメニューの時間帯だった。
やや空席はあったが、多くのお客さんで席が埋まっていた。
窓側の席に案内された私の所から、
丁度、2人用のテーブル席が2つ並んでいるのが見えた。
そこに、初老の男性と女性が1人ずつ着席していた。
注文したものを待つ間に、2人が注文した昼食が届いた。
やや遠慮しながら2人の様子を見た。
高級中華料理店で、
1人で中華を食べていることが気になった。
テーブルがやや離れていたので、当然2人は別々の客である。
その2人が、同じ方向を向いて食べていた。
やや不思議な気持ちで、
美味しそうに食べる2人を遠慮しながら、ちら見した。
東京でも、高齢化は間違いなく進んでいる。
だから、このような高級店でも高齢の単身者が食事を楽しんで当然だ。
なのに、見慣れない私には、異様な光景のように映ってしまった。
同時に、そんな目で見ていることに、申し訳ない気持ちにもなっていた。
11月 某日 ②
高級中華料理店での昼食の翌日だ。
コロナ禍前まで、年に1回は一緒にゴルフをしていたOご夫妻と、
夕ご飯を共にすることになっていた。
お酒の好きなお二人だった。
夕方、錦糸町のおそば屋さんで待ち合わせをした。
1週間ほど前、4人のグループLINEに、
待ち合わせ時間とおそば屋の名前の知らせが届いた。
そのおそば屋は現職の頃、よく利用した。
落ち着いた雰囲気で、居酒屋とは違い、
数人で飲むには最高の店だった。
しかし、2年前からそこには店がなくなっていた。
でもOさんは、その店を指定してきた。
もしかしたら、近くに移転したのかもと思い、
ネットで検索してみた。
案の定であった。
駅の反対側のビルに、その店はあった。
さて、待ち合わせ時間の少し前に店に着いた。
でも、Oさん夫妻がなかなか現れない。
5分が過ぎた。
LINEメールが来た。
「おそば屋さんが無くなっています。
今、どこにいますか?」
移転に気づかず、店を指定したのだ。
「お店は、移転しました。
駅の反対側Rビルの2階にあります。
店の前にいます」
メールで返信しながら、笑いがこみ上げた。
だって、移転にいち早く気づいたのは、
東京に住む現地の方ではなくて、
北海道の私たちだったのだもの・・・。
その後の4人でのお酒を囲んでの食事は、
しばらくの間、このことで盛り上がった。
晩秋の色・ナナカマドの実