もう少しで、伊達に来て7回目の冬を、
越えることができる。
それにしても、今年はいつになく冬が長い。
なぜだろう。
その答えは、何となく分かっている。
私のこの先がずっと長いのなら、
きっと、雪にとざされた1日1日を、優しく受け入れられるだろう。
「こんな季節も、またいいものさ。」
なんて、周りに言いながら、のんびりと。
あるいは、もう無理ができない歳と達観できたなら、
暖かな窓枠に切り取られた雪景色に、
いつまでも目を奪われているだろう。
「これはまるで絵画だ。」
なんて、1人呟きながら、ゆったりと。
だが、私の年齢は、すでに先細りの領域に入っている。
残された時間は、そんなに潤沢ではない。
でも、体はまだ動く。達観などできない。
使い方次第では、まだ可能性を秘めている。
雪にとざされたままは、イヤなのだ。
雪景色に、じっと目をこらす日々も無理だ。
「塚ちゃん、伊達で冬は何するの?」。
移住を決めた時、友人に訊かれた。
「決まってるサ。冬眠だよ。」
即答した後、こう胸張った。
「ただジッーと、春を待つ。
北の冬は、そんな時間をくれる大切な季節なんだよ。」
友人の呆れ顔をよそに、まったくよくも言ったもんだ。
後悔しきりの今年の冬である。
ジッーとなんかして居られない。
できることを探しながら、あと一息、越冬暮らしだ。
そんな日々、心さわぐワンカットを2つ。
① 体育館の温もり
風邪によって体調不良となった。
「走れない!」。
でも、少し体力が回復すると、
勇んでランニングを再開する。
するとまた風邪の症状が出る。
去年の冬は、そんなくり返しだった。
だから、「この冬は、同じことにならないように・・」。
そう決めて、本格的な冬となる12月を迎えた。
早々と、朝のジョギングは止めにした。
それに替えて、
総合体育館のランニングコースで汗を流すことに・・。
ランニングスタイルの上に、
厚手のウインドブレーカーを着て、
ニット帽に手袋と、完璧な防寒対策をする。
そして、マイカーでわずか5分の体育館へ。
週に3回ほど、1周200メートルのコースを
25周5キロ走。
時には、50周10キロを、体調と相談しながら走る。
館内は、暖房がきいていて、半袖と短パンでいい。
私は、夏と変わらず頭からも背中からも、大汗を流す。
ランニング後の、爽快感がいい。
でも、窓の外は、一面が雪。時には、吹雪だったり。
それを見ながら、
春から秋までの折々の山々、草花、田畑を思い出す。
その清々しい風を感じながらのジョギングが、脳裏に浮かぶ。
「憧れ」は大袈裟だが、「待ち遠しい!」。
そんな感情に似た想いになる。
その時、一瞬さめた心が、体を抜けていく。
だが、伊達の体育館はそんな私を、いつも温めてくれる。
階段を昇り、2階のランニングコースへ行く。
顔馴染みになった顔が、3人4人、
すでにマイペースで走っている。
明るい表情で会釈しながら、かけ抜けていく。
私は片手を挙げたり、笑顔になったりして、それに応じる。
時には、走り始めた私の後につき、
「足の運び方がよくなったね」などと、
アドバイスをくれる方が現れる。
「同じくらいの速さだから、ついて行ってもいいかい。」
うなずくと、息を弾ませながら、何周も伴走する方がいる。
前回は、もの凄い速さだった方が、
私よりもゆっくり淡々と走り続ける。
「きっと、マイプランがあってのことなんだ」。
無言で教えてくれる。
みな同世代と言っていい方々だ。
もう洞爺湖のフルは諦めたと言う方。
中学生や高校生のコーチをしている方。
全国で開催されるトライアスロン大会に出場し続けている方。
今度の『伊達ハーフ』を孫と一緒に走ると意気込む方。
その戦績・動機は様々だ。
だが、走る楽しさを知った人たちだ。
そんな方々といつも出会うのが、たまらなくいい。
② 練習場の熱風
伊達市内には、前後左右だけでなく、
上までネットでおおわれた小さなゴルフ練習場が1つある。
まるで「鳥かご」みたいで、好きになれない。
近くのゴルフ場が、雪でクローズになると、
その練習場も、時を同じくして冬期間は閉鎖になる。
ところが、自宅から車で30分、
室蘭市内の練習場は、冬期間も営業している。
道内のゴルフ場は全てクローズしている。
なら「誰も練習などしないのでは・・」。
私もそう思う1人だった。
伊達の「鳥かご」同様、冬期間は閉鎖でいいのでは・・。
ところが、今年のお正月のことだ。
新聞の地元記事欄に、そのゴルフ練習場の記事があった。
『新春の練習場 初打ちで賑わう』
そんな見出しだった。
4月上旬、そろそろゴルフ場オープンかと思える頃、
室蘭までクラブを振りに行くことがあった。
しかし、真冬はまったく関心がない。
だから、練習場が賑わっている写真に、驚いた。
新聞記事の翌日、氷点下だったが、風がない。
青空に誘われ、車にゴルフバックを積み込み、ハンドルを握った。
防寒対策には念を入れた。いくつもカイロを忍ばせた。
駐車場の混み具合、そして約50余りの練習打席の混雑。
どれも、記事通りだった。
家内と隣同士の席をとることができない。
仕方なく、2人で1打席を使うことにした。
それでよかった。
この時期、打席料金の他に、暖房料金が追加される。
わずかな額だが、北海道らしい料金設定だ。
2打席に1台ずつ、大型の暖房ファンの熱風が、
練習するゴルファーへ向けられている。
打席の先は、緑の芝生から一面の雪に変わっている。
前面の外気は氷点下だ。
どんな防寒でも、15分も打ち続けると寒さがこたえる。
家内と交替し、私はその熱風のそばに近づき、暖をとる。
丁度、温まった頃、今度は家内が練習を止め、温まりに来る。
周りの打席の方も、大同小異だ。
クラブを振っては、暖をとる。そしてまた打席へ。
「そうまでして・・」と思われることだろう。
しかし、私だけではない。
練習場を埋めていた人たちなら、みな同じ気持ちだろう。
寒さなどを越えて、春からのラウンドに心が向かうのだ。
2時間あまりの練習を終え、
帰りの車を走らせながら笑顔で言う。
「また、晴れた日に練習に来ようよ。」
私の提案に、家内は明るく同意してくれた。
あの熱風さえあれば、真冬でもクラブが振れる。
その体験が、春を待つ日々に、ちょっとした明るさをくれた。
雪がきえた秋蒔き小麦の畑に白鳥
越えることができる。
それにしても、今年はいつになく冬が長い。
なぜだろう。
その答えは、何となく分かっている。
私のこの先がずっと長いのなら、
きっと、雪にとざされた1日1日を、優しく受け入れられるだろう。
「こんな季節も、またいいものさ。」
なんて、周りに言いながら、のんびりと。
あるいは、もう無理ができない歳と達観できたなら、
暖かな窓枠に切り取られた雪景色に、
いつまでも目を奪われているだろう。
「これはまるで絵画だ。」
なんて、1人呟きながら、ゆったりと。
だが、私の年齢は、すでに先細りの領域に入っている。
残された時間は、そんなに潤沢ではない。
でも、体はまだ動く。達観などできない。
使い方次第では、まだ可能性を秘めている。
雪にとざされたままは、イヤなのだ。
雪景色に、じっと目をこらす日々も無理だ。
「塚ちゃん、伊達で冬は何するの?」。
移住を決めた時、友人に訊かれた。
「決まってるサ。冬眠だよ。」
即答した後、こう胸張った。
「ただジッーと、春を待つ。
北の冬は、そんな時間をくれる大切な季節なんだよ。」
友人の呆れ顔をよそに、まったくよくも言ったもんだ。
後悔しきりの今年の冬である。
ジッーとなんかして居られない。
できることを探しながら、あと一息、越冬暮らしだ。
そんな日々、心さわぐワンカットを2つ。
① 体育館の温もり
風邪によって体調不良となった。
「走れない!」。
でも、少し体力が回復すると、
勇んでランニングを再開する。
するとまた風邪の症状が出る。
去年の冬は、そんなくり返しだった。
だから、「この冬は、同じことにならないように・・」。
そう決めて、本格的な冬となる12月を迎えた。
早々と、朝のジョギングは止めにした。
それに替えて、
総合体育館のランニングコースで汗を流すことに・・。
ランニングスタイルの上に、
厚手のウインドブレーカーを着て、
ニット帽に手袋と、完璧な防寒対策をする。
そして、マイカーでわずか5分の体育館へ。
週に3回ほど、1周200メートルのコースを
25周5キロ走。
時には、50周10キロを、体調と相談しながら走る。
館内は、暖房がきいていて、半袖と短パンでいい。
私は、夏と変わらず頭からも背中からも、大汗を流す。
ランニング後の、爽快感がいい。
でも、窓の外は、一面が雪。時には、吹雪だったり。
それを見ながら、
春から秋までの折々の山々、草花、田畑を思い出す。
その清々しい風を感じながらのジョギングが、脳裏に浮かぶ。
「憧れ」は大袈裟だが、「待ち遠しい!」。
そんな感情に似た想いになる。
その時、一瞬さめた心が、体を抜けていく。
だが、伊達の体育館はそんな私を、いつも温めてくれる。
階段を昇り、2階のランニングコースへ行く。
顔馴染みになった顔が、3人4人、
すでにマイペースで走っている。
明るい表情で会釈しながら、かけ抜けていく。
私は片手を挙げたり、笑顔になったりして、それに応じる。
時には、走り始めた私の後につき、
「足の運び方がよくなったね」などと、
アドバイスをくれる方が現れる。
「同じくらいの速さだから、ついて行ってもいいかい。」
うなずくと、息を弾ませながら、何周も伴走する方がいる。
前回は、もの凄い速さだった方が、
私よりもゆっくり淡々と走り続ける。
「きっと、マイプランがあってのことなんだ」。
無言で教えてくれる。
みな同世代と言っていい方々だ。
もう洞爺湖のフルは諦めたと言う方。
中学生や高校生のコーチをしている方。
全国で開催されるトライアスロン大会に出場し続けている方。
今度の『伊達ハーフ』を孫と一緒に走ると意気込む方。
その戦績・動機は様々だ。
だが、走る楽しさを知った人たちだ。
そんな方々といつも出会うのが、たまらなくいい。
② 練習場の熱風
伊達市内には、前後左右だけでなく、
上までネットでおおわれた小さなゴルフ練習場が1つある。
まるで「鳥かご」みたいで、好きになれない。
近くのゴルフ場が、雪でクローズになると、
その練習場も、時を同じくして冬期間は閉鎖になる。
ところが、自宅から車で30分、
室蘭市内の練習場は、冬期間も営業している。
道内のゴルフ場は全てクローズしている。
なら「誰も練習などしないのでは・・」。
私もそう思う1人だった。
伊達の「鳥かご」同様、冬期間は閉鎖でいいのでは・・。
ところが、今年のお正月のことだ。
新聞の地元記事欄に、そのゴルフ練習場の記事があった。
『新春の練習場 初打ちで賑わう』
そんな見出しだった。
4月上旬、そろそろゴルフ場オープンかと思える頃、
室蘭までクラブを振りに行くことがあった。
しかし、真冬はまったく関心がない。
だから、練習場が賑わっている写真に、驚いた。
新聞記事の翌日、氷点下だったが、風がない。
青空に誘われ、車にゴルフバックを積み込み、ハンドルを握った。
防寒対策には念を入れた。いくつもカイロを忍ばせた。
駐車場の混み具合、そして約50余りの練習打席の混雑。
どれも、記事通りだった。
家内と隣同士の席をとることができない。
仕方なく、2人で1打席を使うことにした。
それでよかった。
この時期、打席料金の他に、暖房料金が追加される。
わずかな額だが、北海道らしい料金設定だ。
2打席に1台ずつ、大型の暖房ファンの熱風が、
練習するゴルファーへ向けられている。
打席の先は、緑の芝生から一面の雪に変わっている。
前面の外気は氷点下だ。
どんな防寒でも、15分も打ち続けると寒さがこたえる。
家内と交替し、私はその熱風のそばに近づき、暖をとる。
丁度、温まった頃、今度は家内が練習を止め、温まりに来る。
周りの打席の方も、大同小異だ。
クラブを振っては、暖をとる。そしてまた打席へ。
「そうまでして・・」と思われることだろう。
しかし、私だけではない。
練習場を埋めていた人たちなら、みな同じ気持ちだろう。
寒さなどを越えて、春からのラウンドに心が向かうのだ。
2時間あまりの練習を終え、
帰りの車を走らせながら笑顔で言う。
「また、晴れた日に練習に来ようよ。」
私の提案に、家内は明るく同意してくれた。
あの熱風さえあれば、真冬でもクラブが振れる。
その体験が、春を待つ日々に、ちょっとした明るさをくれた。
雪がきえた秋蒔き小麦の畑に白鳥