① 毎年のことだが、宿根草の庭に、
次々といろんな新芽が顔を出した。
これまた、毎年だが、先の尖ったその芽が、
一日一日背を伸ばし、去年と同じ容姿になっていく。
自宅に居ながら、「春 到来!」を実感する一コマである。
それに加え、2年前からになるが、
新しい「春 到来」が登場した。
朝食を済ませ、窓越しに見た庭から、
雀の鳴き声がする。
新芽の緑色が、徐々に広がりつつある庭で、
3羽がゆっくりと動き回っていた。
そのうちの2羽の動きに目がいく。
あきらかに小雀なのだ。
動きも心許ない。
親らしいのが飛び立ち、我が家の物置屋根に止まった。
そして、しきりに鳴いた。
「ここまで飛んでおいで」と、言っているよう・・。
1羽の小雀が、私の車のボンネットで一度止まり、
その後、物置屋根まで羽を忙しくばたつかせながら、
親雀の近くまでたどり着いた。
次に、親雀はもう1羽からよく見える位置まで移動し、
そこで再び、しきりに鳴き続けた。
しばらくして、庭の小雀は羽をばたつかせた。
やっと車のボンネットまで飛んだ。
変わらず親雀は休みなく鳴き、小雀も鳴き声で応じ、
ついに物置屋根へ向かって羽ばたいた。
途中から、その様子を見始めた家内も一緒に、
小雀の動きに固唾を飲んだ。
屋根のひさしまでもう少しだった。
だが、小雀は失速し、物置脇の通路にゆっくりと舞い降りた。
春のドラマはここから・・・。
次の瞬間、今度は屋根にいた小雀が、通路まで舞い降りてきた。
そして、すぐに物置の外壁沿いに、
羽をばたつかせながら屋根まで飛び上がった。
下の小雀にだろう。
屋根に着くと何度も何度も鳴いた。
しばらく間があったが、
通路の小雀が、飛び立った。
先の小雀と同じような早さで羽を動かした。
物置の外壁沿いに、これまた同じような経路で、
屋根を目指した。
やっとひさしまでたどり着くと、
そこには先の小雀が待っていた。
2羽は、チュンチュンと鳴き交わしたようだったが、
すぐに屋根の上を小さく飛びはねた。
その後は、同時にもう1度通路まで降り、
さっきよりも簡単そうに屋根まで飛び上がった。
気づくと、親雀はやや離れたテレビのアンテナに止まり、
静かに2羽の方を向いていた。
雀は、民家の軒下でも、
わずかな隙間があれば巣をつくるらしい。
2年前から、この季節になると、
お隣さんの屋根付近に、よく数羽の雀の姿がある。
きっとそこで子育てをしているのだろう。
その巣立ちの時を、今年も見させてもらった。
さて、数日後のあの小雀だが、遙か先の電線にいた。
成長の早さに、つい目を細めてしまう。
② 5月5日はこどもの日だ。
私たちには、まったく無縁な祝日になってしまったが、
この日くらいは、かしわ餅でもと、
⒉人で伊達の銘菓店へ立ち寄った。
レジ近くの棚に、いつもより多いかしわ餅といっしょに、
北海道のご当地銘菓である「べこ餅」も並んでいた。
「かしわ餅とべこ餅を2つずつ」。
私の希望通りに、家内は店員さんに注文した。
この店には、年に数回は来る。
だから、3,4人の店員さんだが、
なんとなくなじみの顔だった。
ベテラン店員の1人が、やけに明るい表情で注文を受け、
早々に4つの餅をパック詰めし、支払いレジへ進んだ。
私はその場からやや離れ、店の出入り口付近で、
家内の会計を待った。
やや時間がかかっていたので、振り向いてレジを見た。
その店員さんはレジから離れ、
家内と立ち話をしていた。
時折、その目が私を見ているようだった。
ちょっと気になり、⒉人に近づいた。
「走っているご主人、かっこよかったです」。
突然、早口で私に向かって言った。
訳がわからず、家内に説明を求めた。
数日前の朝、店員さんは車を運転し、
信号待ちしていた。
その交差点を、私と家内が朝ラン姿で走り過ぎたらしいのだ。
「2人で一緒に、子ども達が通学する前の道を、
走っているなんて、すごいなあって驚きまして・・・」。
私たちの後から、次々と来店者があった。
注文を待つ方もいた。なのに、構わず、
「すいすいと走っていて・・・、
ご主人、かっこよかった。」
と、また繰り返す有様。
「それは、それは」
と、返すのか精一杯だった。
年齢を忘れ、私は照れていた。
それを知られないよう、早々に店から退散し、
急いで車に乗り込み、アクセルを踏んだ。
③ 視力の老化が気にかかり、眼科医を受診した。
すると、白内障に加え緑内障の点眼薬まで処方された。
それから、1ヶ月が過ぎ、薬の効果を診るため、
再び予約通院をした。
眼科の受診は、どこの医院も同じだろうが、
医師の診断前に、いくつも検査がある。
薄暗い部屋で検査機器を挟んで、スタッフと向き合う。
指示通りレンズをのぞくと、
「まばたきをしないで、動きません」などと言われる。
これも、2度目になると慣れたもんだ。
その後、医師による検査があり、
診断の結果は、
「お薬の効果で、改善が見られます。
このまま毎日、欠かさず続けてくだい」だった。
だから、2ヶ月分の処方箋を頂き、
「一安心!」な筈だが、
意に反し、私の気持ちは沈んでいた。
実は、診断結果を聞きに、
医師の待つ診察室に入った時のことだ。
医師と対面する私との間には、
検査用機器のテーブルが設置されていた。
その手前に、患者用の椅子がある。
診察室に呼ばれた私は、その椅子に座ればいいのだ。
それだけのことだ。
前回は、そうした。
ところが、今回は、手慣れた感じの看護師が、私を待っていた。
私の名前を確認した後、ゆっくりとていねいな口調で言った。
「椅子の背もたれが横を向いてます。
横を向いて座ってから、
体を先生のいる検査器械の方へ動かしてください」。
椅子の向きには気づいていた。
親切な言い方にやや不快な思いがしたが、
指示通りに座り、ゆっくりと向きをかえた。
すると、私の動きに合わせ、看護師は丸みのある声で続けた。
「そうです。そうです、横向きです」。
次に、「向きを先生の方へ、そうそう・・・」。
そして、ついに「それでいいです」。
医師と向き合った時には、もう不快感を超えていた。
敬老精神には感謝する。
でも、その恩恵を受けるほど老けていないと思っていた。
なのに、手慣れた看護師には、
それを求めているように見えたのだろうか。
眼科受診後は、車の運転はできない。
自宅まで20分余り、ずっとうつむいて歩いた。
八重桜の下は小学校の通学路だ
次々といろんな新芽が顔を出した。
これまた、毎年だが、先の尖ったその芽が、
一日一日背を伸ばし、去年と同じ容姿になっていく。
自宅に居ながら、「春 到来!」を実感する一コマである。
それに加え、2年前からになるが、
新しい「春 到来」が登場した。
朝食を済ませ、窓越しに見た庭から、
雀の鳴き声がする。
新芽の緑色が、徐々に広がりつつある庭で、
3羽がゆっくりと動き回っていた。
そのうちの2羽の動きに目がいく。
あきらかに小雀なのだ。
動きも心許ない。
親らしいのが飛び立ち、我が家の物置屋根に止まった。
そして、しきりに鳴いた。
「ここまで飛んでおいで」と、言っているよう・・。
1羽の小雀が、私の車のボンネットで一度止まり、
その後、物置屋根まで羽を忙しくばたつかせながら、
親雀の近くまでたどり着いた。
次に、親雀はもう1羽からよく見える位置まで移動し、
そこで再び、しきりに鳴き続けた。
しばらくして、庭の小雀は羽をばたつかせた。
やっと車のボンネットまで飛んだ。
変わらず親雀は休みなく鳴き、小雀も鳴き声で応じ、
ついに物置屋根へ向かって羽ばたいた。
途中から、その様子を見始めた家内も一緒に、
小雀の動きに固唾を飲んだ。
屋根のひさしまでもう少しだった。
だが、小雀は失速し、物置脇の通路にゆっくりと舞い降りた。
春のドラマはここから・・・。
次の瞬間、今度は屋根にいた小雀が、通路まで舞い降りてきた。
そして、すぐに物置の外壁沿いに、
羽をばたつかせながら屋根まで飛び上がった。
下の小雀にだろう。
屋根に着くと何度も何度も鳴いた。
しばらく間があったが、
通路の小雀が、飛び立った。
先の小雀と同じような早さで羽を動かした。
物置の外壁沿いに、これまた同じような経路で、
屋根を目指した。
やっとひさしまでたどり着くと、
そこには先の小雀が待っていた。
2羽は、チュンチュンと鳴き交わしたようだったが、
すぐに屋根の上を小さく飛びはねた。
その後は、同時にもう1度通路まで降り、
さっきよりも簡単そうに屋根まで飛び上がった。
気づくと、親雀はやや離れたテレビのアンテナに止まり、
静かに2羽の方を向いていた。
雀は、民家の軒下でも、
わずかな隙間があれば巣をつくるらしい。
2年前から、この季節になると、
お隣さんの屋根付近に、よく数羽の雀の姿がある。
きっとそこで子育てをしているのだろう。
その巣立ちの時を、今年も見させてもらった。
さて、数日後のあの小雀だが、遙か先の電線にいた。
成長の早さに、つい目を細めてしまう。
② 5月5日はこどもの日だ。
私たちには、まったく無縁な祝日になってしまったが、
この日くらいは、かしわ餅でもと、
⒉人で伊達の銘菓店へ立ち寄った。
レジ近くの棚に、いつもより多いかしわ餅といっしょに、
北海道のご当地銘菓である「べこ餅」も並んでいた。
「かしわ餅とべこ餅を2つずつ」。
私の希望通りに、家内は店員さんに注文した。
この店には、年に数回は来る。
だから、3,4人の店員さんだが、
なんとなくなじみの顔だった。
ベテラン店員の1人が、やけに明るい表情で注文を受け、
早々に4つの餅をパック詰めし、支払いレジへ進んだ。
私はその場からやや離れ、店の出入り口付近で、
家内の会計を待った。
やや時間がかかっていたので、振り向いてレジを見た。
その店員さんはレジから離れ、
家内と立ち話をしていた。
時折、その目が私を見ているようだった。
ちょっと気になり、⒉人に近づいた。
「走っているご主人、かっこよかったです」。
突然、早口で私に向かって言った。
訳がわからず、家内に説明を求めた。
数日前の朝、店員さんは車を運転し、
信号待ちしていた。
その交差点を、私と家内が朝ラン姿で走り過ぎたらしいのだ。
「2人で一緒に、子ども達が通学する前の道を、
走っているなんて、すごいなあって驚きまして・・・」。
私たちの後から、次々と来店者があった。
注文を待つ方もいた。なのに、構わず、
「すいすいと走っていて・・・、
ご主人、かっこよかった。」
と、また繰り返す有様。
「それは、それは」
と、返すのか精一杯だった。
年齢を忘れ、私は照れていた。
それを知られないよう、早々に店から退散し、
急いで車に乗り込み、アクセルを踏んだ。
③ 視力の老化が気にかかり、眼科医を受診した。
すると、白内障に加え緑内障の点眼薬まで処方された。
それから、1ヶ月が過ぎ、薬の効果を診るため、
再び予約通院をした。
眼科の受診は、どこの医院も同じだろうが、
医師の診断前に、いくつも検査がある。
薄暗い部屋で検査機器を挟んで、スタッフと向き合う。
指示通りレンズをのぞくと、
「まばたきをしないで、動きません」などと言われる。
これも、2度目になると慣れたもんだ。
その後、医師による検査があり、
診断の結果は、
「お薬の効果で、改善が見られます。
このまま毎日、欠かさず続けてくだい」だった。
だから、2ヶ月分の処方箋を頂き、
「一安心!」な筈だが、
意に反し、私の気持ちは沈んでいた。
実は、診断結果を聞きに、
医師の待つ診察室に入った時のことだ。
医師と対面する私との間には、
検査用機器のテーブルが設置されていた。
その手前に、患者用の椅子がある。
診察室に呼ばれた私は、その椅子に座ればいいのだ。
それだけのことだ。
前回は、そうした。
ところが、今回は、手慣れた感じの看護師が、私を待っていた。
私の名前を確認した後、ゆっくりとていねいな口調で言った。
「椅子の背もたれが横を向いてます。
横を向いて座ってから、
体を先生のいる検査器械の方へ動かしてください」。
椅子の向きには気づいていた。
親切な言い方にやや不快な思いがしたが、
指示通りに座り、ゆっくりと向きをかえた。
すると、私の動きに合わせ、看護師は丸みのある声で続けた。
「そうです。そうです、横向きです」。
次に、「向きを先生の方へ、そうそう・・・」。
そして、ついに「それでいいです」。
医師と向き合った時には、もう不快感を超えていた。
敬老精神には感謝する。
でも、その恩恵を受けるほど老けていないと思っていた。
なのに、手慣れた看護師には、
それを求めているように見えたのだろうか。
眼科受診後は、車の運転はできない。
自宅まで20分余り、ずっとうつむいて歩いた。
八重桜の下は小学校の通学路だ