▼ 『光の春』。
この時季を表現するのだろうが、
なんて素敵な日本語なんだ。
一日一日、陽が長くなる。
それだけで春を感じるのは、きっと私だけではない。
「冬の峠までもう少し・・!」。
そう思えるだけで、今までとは違う気持ちになる。
加えて、ここ数日、当地は穏やかな天候が続いている。
特に朝は、風もなく低い雲に覆われることも少ない。
7時頃、自宅前の歩道まで出てみると、
東山付近の空が次第に赤く染まり、
静けさに包まれた町に、
夜明けを告げているようで、素晴らしい。
「いい町に、住んでいる!」。
氷点下の冷たい外気を頬に感じながらも
しばらくたたずみ、そう実感する。
もう10年以上も前になるが、
リタイア後の先を、この地にした。
それまで全く縁もなく、知人友人も1人もいなかった。
ただただ私の直感だけで、ここを終の棲家に決めた。
朝日で明るさを増す東山の尾根を見ながら、
「間違ってなかった」と、独り胸を張る。
最近、この町で出会った、
さり気ない小さな出来事を、2つ記す。
▼ 人口3万数千のコンパクトシティーだ。
美味しいお店も、もうおおよそ見当がついている。
でも、まだ、行ってない店が数軒あった。
その中の1店だが、
特段、興味があった訳ではない。
国道沿いにあっていつも車を運転しながら、
横目で見ていた。
いつかは行ってみようと思いつつ、月日が過ぎた。
「オミクロンが怖いけど、ちょっと外食を」と、
思いついたのが、その店だった。
ファミリーレストランと銘打った店は、
住まいが兼用の建物のようだった。
ドアを開けると、落ち着きが感じられた。
ケバケバしさがなく、ゆっくりできそうな雰囲気だった。
椅子席と小上がり席があった。
椅子席を選んだ。
早々、オリジナルのグラスに氷の入ったお水と、
メニューが届いた。
セットメニューの全てに、その写真があった。
ファミリー向けらしく、定食はご飯と味噌汁だった。
私はハンバーグとエビフライの定食、
家内はしょうが焼き定食を、注文することにした。
人当たりのよさそうな若々しい女性が、
注文を受けてくれた。
些細なことだが、その応対が店の好感度を上げた。
彼女は、持参した伝票に、
私たちの注文を記録し、明るい声で言った。
「ハンバーグとエビフライの定食と、
しょうが焼き定食ですね。
ありがとうございます。
ご用意します」。
その後、私たちに深々と一礼し、厨房へ急いだ。
それだけだが、最近の多くの店とは明らかに違った。
注文の品を反すうした後、
「・・・で、大丈夫ですか」に慣れていた。
聞き流してよさそうだが、
「ありがとうございます。用意します。」とその後の一礼に、
妙に明るい気持ちになっていた。
その後の食事への期待が、自然と膨らんだ。
▼ 朝夕に1錠ずつ服用する薬のために、
2ヶ月ごとに、通院している。
1時間近く待たされ、診察室へ入る。
そこで、
「では、同じように薬を続けてください」と言われ、
処方箋を持って、調剤薬局へ行く。
そこで、8週間分の薬を受け取り、終了である。
通院なのだから、
定まった時間が淡々と流れるだけである。
何かを期待する場でないのは、当たり前のこと。
だがら、つい先日も、同様のパターンで薬局まで進んだ。
そこで、受付に処方箋を渡していた時だった。
突然、私の背後から、白髪の女性が走り寄った。
「すみません。私の薬の数が違ってるんです」。
調剤室へ向かって、大声で言った。
私への対応を中断し、店長らしい薬剤師さんが、
「Tさん、お願いします」と、調剤室へ言った。
すぐにTさんが、カウンターに進みでて、
その女性に対応を始めた。
やや遅れて、女性のご主人もそれに加わった。
私は、薬局の長いすで薬を待ちながら、
無関心を装いつつ、推移をうかがった。
女性は、2日前にこの薬局で薬を貰った。
そして、昨日一日、ご主人と一緒に、何回も薬の数を確認した。
どの錠剤も漢方薬も、間違いなく2週間分が足りなかった。
持参した薬の入った袋の表記を、Tさんに見せながら、
2人は、薬の不足を懸命に訴えた。
予告なしの老夫婦の来店だ。
そして、性急な訴えである。
なのにTさんは、すぐに応じた。
「薬をお渡ししたのは、2日前でしたね。
息子さんもご一緒でしたよね」。
2人がうなずくのを確認した後、
Tさんは、やや耳が遠い2人を知ってか、
大きめな声で続けた。
「家に薬がたくさん残っているから減らしてほしいって、
息子さんが言ったでしょう。
それで、全部の薬を2週間分少なくしたのよ。
その時、お2人もそれでいいって」。
そこまで聞くと、老夫婦は、顔を見合わせた。
そして、Tさんに言った。
「ごめんなさい。思い出しました。そうでした」。
丸い背中をさらに丸くし、2人は小さく頭を下げた。
「よかった。安心しましたね!」。
そう言い終わると、Tさんはすぐに調剤室へ入り、
次の仕事を始めてた。
一部始終を聞きながら、
私は、変哲のない通院場面での、
さり気ないやりとりに、小さな温もりを覚えていた。
快晴の冬空に ナナカマドの赤
この時季を表現するのだろうが、
なんて素敵な日本語なんだ。
一日一日、陽が長くなる。
それだけで春を感じるのは、きっと私だけではない。
「冬の峠までもう少し・・!」。
そう思えるだけで、今までとは違う気持ちになる。
加えて、ここ数日、当地は穏やかな天候が続いている。
特に朝は、風もなく低い雲に覆われることも少ない。
7時頃、自宅前の歩道まで出てみると、
東山付近の空が次第に赤く染まり、
静けさに包まれた町に、
夜明けを告げているようで、素晴らしい。
「いい町に、住んでいる!」。
氷点下の冷たい外気を頬に感じながらも
しばらくたたずみ、そう実感する。
もう10年以上も前になるが、
リタイア後の先を、この地にした。
それまで全く縁もなく、知人友人も1人もいなかった。
ただただ私の直感だけで、ここを終の棲家に決めた。
朝日で明るさを増す東山の尾根を見ながら、
「間違ってなかった」と、独り胸を張る。
最近、この町で出会った、
さり気ない小さな出来事を、2つ記す。
▼ 人口3万数千のコンパクトシティーだ。
美味しいお店も、もうおおよそ見当がついている。
でも、まだ、行ってない店が数軒あった。
その中の1店だが、
特段、興味があった訳ではない。
国道沿いにあっていつも車を運転しながら、
横目で見ていた。
いつかは行ってみようと思いつつ、月日が過ぎた。
「オミクロンが怖いけど、ちょっと外食を」と、
思いついたのが、その店だった。
ファミリーレストランと銘打った店は、
住まいが兼用の建物のようだった。
ドアを開けると、落ち着きが感じられた。
ケバケバしさがなく、ゆっくりできそうな雰囲気だった。
椅子席と小上がり席があった。
椅子席を選んだ。
早々、オリジナルのグラスに氷の入ったお水と、
メニューが届いた。
セットメニューの全てに、その写真があった。
ファミリー向けらしく、定食はご飯と味噌汁だった。
私はハンバーグとエビフライの定食、
家内はしょうが焼き定食を、注文することにした。
人当たりのよさそうな若々しい女性が、
注文を受けてくれた。
些細なことだが、その応対が店の好感度を上げた。
彼女は、持参した伝票に、
私たちの注文を記録し、明るい声で言った。
「ハンバーグとエビフライの定食と、
しょうが焼き定食ですね。
ありがとうございます。
ご用意します」。
その後、私たちに深々と一礼し、厨房へ急いだ。
それだけだが、最近の多くの店とは明らかに違った。
注文の品を反すうした後、
「・・・で、大丈夫ですか」に慣れていた。
聞き流してよさそうだが、
「ありがとうございます。用意します。」とその後の一礼に、
妙に明るい気持ちになっていた。
その後の食事への期待が、自然と膨らんだ。
▼ 朝夕に1錠ずつ服用する薬のために、
2ヶ月ごとに、通院している。
1時間近く待たされ、診察室へ入る。
そこで、
「では、同じように薬を続けてください」と言われ、
処方箋を持って、調剤薬局へ行く。
そこで、8週間分の薬を受け取り、終了である。
通院なのだから、
定まった時間が淡々と流れるだけである。
何かを期待する場でないのは、当たり前のこと。
だがら、つい先日も、同様のパターンで薬局まで進んだ。
そこで、受付に処方箋を渡していた時だった。
突然、私の背後から、白髪の女性が走り寄った。
「すみません。私の薬の数が違ってるんです」。
調剤室へ向かって、大声で言った。
私への対応を中断し、店長らしい薬剤師さんが、
「Tさん、お願いします」と、調剤室へ言った。
すぐにTさんが、カウンターに進みでて、
その女性に対応を始めた。
やや遅れて、女性のご主人もそれに加わった。
私は、薬局の長いすで薬を待ちながら、
無関心を装いつつ、推移をうかがった。
女性は、2日前にこの薬局で薬を貰った。
そして、昨日一日、ご主人と一緒に、何回も薬の数を確認した。
どの錠剤も漢方薬も、間違いなく2週間分が足りなかった。
持参した薬の入った袋の表記を、Tさんに見せながら、
2人は、薬の不足を懸命に訴えた。
予告なしの老夫婦の来店だ。
そして、性急な訴えである。
なのにTさんは、すぐに応じた。
「薬をお渡ししたのは、2日前でしたね。
息子さんもご一緒でしたよね」。
2人がうなずくのを確認した後、
Tさんは、やや耳が遠い2人を知ってか、
大きめな声で続けた。
「家に薬がたくさん残っているから減らしてほしいって、
息子さんが言ったでしょう。
それで、全部の薬を2週間分少なくしたのよ。
その時、お2人もそれでいいって」。
そこまで聞くと、老夫婦は、顔を見合わせた。
そして、Tさんに言った。
「ごめんなさい。思い出しました。そうでした」。
丸い背中をさらに丸くし、2人は小さく頭を下げた。
「よかった。安心しましたね!」。
そう言い終わると、Tさんはすぐに調剤室へ入り、
次の仕事を始めてた。
一部始終を聞きながら、
私は、変哲のない通院場面での、
さり気ないやりとりに、小さな温もりを覚えていた。
快晴の冬空に ナナカマドの赤