二人の兄弟/アーサー・ランサムのロシア昔話/神宮輝夫 訳/白水社/2009年初版
「アーサー・ランサムのロシア昔話」は、英語によるロシアの昔話の再話とあります。かなり作者の独自の視点も盛り込まれているようです。
この「二人の兄弟」も、子どもにとっては少し入っていきにくい話かもしれません。
なかよくくらしていた兄弟。暮らしと言えば、地主のために働くばかりで、自分の畑などはのぞむべきもない生活(農奴ということばはでてこないが、封建制度のもとで、土地にしばりつけられて、地主のために働き続けた農民がいたという事実を反映しています)。
父親がなくなったあと、兄もなくなってしまう。一人残された弟は、一人暮らしにけりをつけようと、結婚することになる。
この結婚式を兄の墓に報告にいくが、突然、目の前の地面が口をあけ、地下におりていくと、兄がイスに腰掛けてほほえんでいます。
兄は、地下の部屋で、人が仲よく暮らし、貧富の差も、強いものも弱いものもいないそんな世界がかかれた重い本を弟に読んで聞かせる。
結婚式のことを思い出し、地上にもどるが、そこは浦島太郎の世界で、三百年たっていました。
弟は、あの世の人々の真のしあわせを、道いく人にはなすが、誰にも相手にされません。
そこでまた地下の世界に。
そして不幸と悪に満ちたこの世のありさまをにがにがしい気持ちで思い、人々が正しく楽しく暮らしていける本を読み続ける。
ここでは、ろうそくが一本燃え尽きるごとに、百歳年をとるが、何百年たっても、真の世界に気がつかない人間の愚かさを示しているかのようだ。