鶴の家/白いおうむの森/安房 直子/偕成社/2006年/1973年の文庫化
安房直子さんの初期の短編集に収録されたもの。
漁師の長吉がよめさんをもらった晩。「おめでとさんです」と真っ白い着物を着て着て、頭にさざんかの赤い花をかざった女が、ひらべったいまるいものをお祝いにおいていきます。
安房作品の冒頭には見知らぬ人や動物が登場することが多い。
長吉は、すぐに丹頂鶴の化身ではないかときがつきます。
というのは三日まえに誤って、禁猟となっていた鶴を撃ち落としてしまい、深い穴をほって、埋めたばかりでしたから。
この秘密をだれにもいうなよと、よめさんに念をおします。
よめさんは疑心暗鬼でしたが、それでも女がおいていった青い大皿を戸棚の奥ふかくにしまいます。
何事もなく月日がすぎていくうち、よめさんは青い大皿におむすびをならべてみます。するとおむすびは、たちまちきりりと白くおいしそうに見えてきます。
はじめ、長吉は青いお皿に顔をしかめますが、もられたおむすびにひかれて、一口食べてみると、そのおいしさにびっくりします。
そいれからふたりは、毎日、青い皿で食事をしますが、どんなたべものでもおいしく思われました。
やがて、長吉には8人の息子が。青い皿は幸運を運んでくれたと喜んでいた長吉。
しかし、そのあと不思議なことがおきます。
息子達も成長して孫をもうけたころ、長吉さんはぽっくりなくなります。すると無地だったはずのお皿に丹頂鶴の姿が浮かび上がりました。
おばあさんは、すぐに長吉のたましいではないかと気がつきますが、家族には秘密にしておきます。
おばあさんの息子三人が戦争にでかけ、何の知らせもなかったとき、皿の丹頂鶴が三羽ふえ、四羽にふえ、おばあさんが「みんな死んだ。みんな死んだ」と繰り返します。
三人の息子の戦死の知らせがとどいたのは、それからまもなくでした。
この後長吉さんの一族のなかでひとり死ぬ者がでると、お皿の鶴の絵は、確実に一羽ずつ増えていきます。
この鶴のもようを気にする子どもがでてきます。ひまごの春子です。
おばあさんが亡くなったとき、先頭の長吉の鶴の下に、おばあさんの鶴がぽっと浮かびます。
やがて長吉さんの一族は最後の1人、春子だけが残されます。
春子の結婚式の朝、丹頂鶴でいっぱいになってしまったお皿が落ちて割れてしまいます。すると皿の鶴と同じ数だけ、同じ姿で東に飛びます。
婚礼の朝に、丹頂鶴が群れをなして飛んだことは、村の人は奇跡のようにおどろきます。
春子は、お皿のなかの鶴には、ひとつひとつの命があり、父や母、先祖の人たちみんなが、わたしの結婚を祝福してくれたのだと思います。
春子は、散らばった青い皿のかけらを大事にしまいます。そのかけらをつなぎ合わせると、無地の一枚の青い皿のかたちになります。
安房さんの初期の作品には、息子や娘、父親、母親の死がでてくることが多いようです。
ここでは絶滅したと思われた丹頂鶴がでてきますが、最後の鶴が飛ぶさまが春子の新しい旅立ちを予感させてくれます。
鶴の数がどんどん増えるあたりに家族の歴史がこめられているのも、他の作品にはみられないようです。
ミステリアスな感じがあって、他の作品より短めで、わかりやすいので語ってみてもよさそうですが、30分にはなりそうなのでどうでしょうか。じつは何度も繰り返して覚えようとしましたが、歯が立ちませんでした。
ついでにいえば、嫁ではなく”よめ”です。
嫁ということばが家と結びついて、嫌いというのをききました。