いちばんたいせつなもの/バルカンの昔話/八百板洋子:編・訳/福音館書店/2007年初版
あまり見かけない若い男がやってきたのをみたおかみさんが、どこからきたかときくと、「あの世からやってきた」という。
おかみさんの弟は亡くなっていて、あの世で弟のムーヤに会わなかったきくと、元気だが、おこずかいがなく、たばこも買えなくて、コーヒーも飲めなくてこまっているという。おかみさんが少しお金をもっていってくれないかというと、男はもちろん二つ返事でひきうけます。
この話を聞いた夫が、おかみさんがだまされたんだと若い男を馬にのって追いかけます。
若い男は水車小屋に逃げ込み、そこにいた粉屋に「乱暴なのがあんたを殺しにやってくる。わたしが食い止めめているすきに、逃げるよう」叫びます。
馬にのってやってきた夫が、粉屋がすごいいきおいで逃げ出すのをみて、水車小屋に馬をおいて、粉屋をおいかけます。
夫は粉屋に追いついて、首根っこをおさえつけ、おかみさんからうけとった金をかえすように、せまりますが、粉屋はなんのことかわかりません。粉屋は。若い男に「わたしを殺しにやってくるといわれ、水車小屋をにげだしたことを話します。
さんざんもめて言い争って、やっと若い男にだまされたことに気がついて水車小屋にもどると、若い男は、馬にのって逃げ去ったあとでした。
おかみさんが夫の馬がどこかにいったことに気がついて、馬の行方を尋ねると、夫は「お前の弟ムーヤが、どこにいくにもこまることのないよう馬をおくった」といいます。
昔から詐欺を働く者はいたのでしょうが、それにしても、あの世からきたという手口も考えたもの。
男は騙されたことを認めたくないのでしょう。おかみさんとどっこいどっこいです。
セルビアの昔話ですが、でてくるのはトルコ人の夫婦です。