まほうのひょうたんいけ/文・柴野民三 画・小松 修/教育画劇/2000年
地主の十べえさんの屋敷には、ひょうたんの形をした大きな池があり、くびれたあたりに橋が架かっていました。十べえさんは、いつも橋の上から、ぱらっこ ぱらっこと、えさをまいていました。
ある日、いつものようにえさをやろうと、橋にやってくると、赤い色をした棒が 池に浮かんでいました。十べえさんが、棒をすくいあげてみると、それはうるしぬりの笛でした。口にあててふいてみると、池の中から女の人(おとひめさまでした)があらわれ、「いつも魚をかわいがってくださって ありがとう。なにか いりようの 道具があったら、その笛を吹いてください。すぐにとどけてあげましょう。けれど、使いおわったら すぐ かえしてください。」と、いいました。
それからしばらくたった 夏のこと、都の偉い坊さまが、十べえさんの家で、おはなしをくださることになりました。あちこちの村から千人もの人が お話を聞くに来るというのですが、さすがの地主さんの十べえさんも千人のお膳やお椀がありません。そこで笛を吹き、あらわれた おとひめさまに 千人分のお膳とお椀を 貸してくださいと お願いしました。すると次の日の朝、千人分のお膳とお椀が おいてありました。
さらに、みんなが休むための千人分の蚊帳が必要と、おとひめさまにお願いすると、すぐに、小さな包みが池に浮かびました。この小さな包みは、蚊帳を吊りだすと、ぐんぐん大きくなって千畳敷の大きな部屋に ぴったりの蚊帳になりました。そこで、みんなはゆっくりやすむことができ、つぎの朝、みんなは よろこんで かえっていきました。
十べえさんは、千人分のお膳とお椀は、きれいにあらって 池のふちに かえしておきましたが、めずらしい蚊帳は ほしくなり、引きだしに しまってしまいました。
冬になって、十べえさんの家に 村の人たちが 大勢集まることになって、十べえさんは、また お膳とお椀を 借りようと、笛を吹きますが、笛は ピーともブーとも なりませんでした。十べえさんは、はっと気がついて 蚊帳を池の中に 返しましたが、笛はどうしてもならず、おとひめさまも あらわれませんでした。