茨城のむかし話/茨城民俗学会編/日本標準/1975年
田植え時期というのに雨が降らない日がつづき、水不足に悩んでいたおっかさんが、たんぼのあぜ道にいると、目の前に大きな男が立っていた。
男は、おっかさんのところに三人の娘がいることを知っていて、ひとりくれるならおまえさんのたんぼに水をいっぱいいれてやるという。三人いるからひとりぐらいやってもいいから、田んぼに水をいれてくれといったおっかさんが、「いったいおまえはだれだ」と聞くと、男は、「今晩のうちに、おまえさんのたんぼに、水をいっぱいにしてやる。わしは普通の人じゃねえ。たまげねえでくれよ、わしは池の大蛇なんだ。」というと、さっとくらやみの中にきえてしまった。
上のふたりは、大蛇のよめになるなんて、とんでもねえと断るが、末娘は、たんぼに水をひけるならと、泣きながら、よめになることを承知した。次の朝、いままで一滴の水もなかった田んぼに、水がいっぱいあり田植えがおわった。
末の娘は、いよいよ約束通りよめにいくことになったが、「よめ入りの道具として、長持ちをひとつと、ふくべ(ひょうたん)を千個、針を千本買ってほしい」という。おっかさんとふたりの姉は、長持ちをひとつと、ふくべを千個、針を千本用意し、森の中へいくと、池に向かって、やくそくどおり よめをつれてきたと、さけんだ。すると池の水が急にざわざわして、池の中から大蛇がやってきた。
末の娘は、「いまこの池にふくべを千個まくけど、その中のどれでもいいから一つしずめられたらあんたのよめになる。」と、条件を出した。「ひとつぐらいしずめるのはなんでもねえ、はやくまけ」と大蛇がこたえ、ふくべをしずめようとすると、しずめたとおもったふくべが、全部うかびあがった。おどろいた大蛇は、別のふくべを五、六個口にふくみしずめたが、これもすぐうかびあがってきた。ふくべには針が一本ずつつきささっていて、その針が、大蛇の背中や腹をぶつり、ぶつりさすもんだから、大蛇は痛くてしょうがなくて、「大蛇のよめはやっぱり大蛇がいい。人間なんぞまっぴらだ。さっさと帰れ。」と叫んだ。
末娘は、「大蛇のよめになるつもりでここにきたんだから、約束ははたした。よめにしねえというんだから仕方があんめい。田植えもしたし、義理もたてたし、よかったな。さあけえろう、けえろう」といって、無事に家に帰ってきたんだと。だから、ふくべは縁起がいいんだそうだ。
大蛇のいいぶんが、なんともいえない。