茨城のむかし話/茨城民俗学会編/日本標準/1975年
ずっとむかし、筑波の裏山にさびしい村があって、そこにごんべえどんが、一人で住んでいた。ぼんべいどんは、ひとりぐらしでさびしかったのか、動物が大好きで、とくにいっぴきのネコをかわいがっていた。畑仕事がおわって家に帰ると、ネコに話しかけるのが楽しみだった。
ある日、ごんべいどんは、きゅうにさがしものをおもいだして、めったにあがったことのない物置にあがったが、いきなりネコがでてきて、ごんべいどんの足に絡みついた。ネコはごんべいどんがあがろうとするたびに、足に絡みついたので、ごんべいどんは、物置にいくことはやめにした。その晩、便所に行こうとしたら、また、ネコが出てきて、あとになったりしてついてきた。用をすませて、寝床にもどったら、ネコは安心したようにねてしまった。
どこへ出かけるにも、ネコがついてくるので、ネコをよんできいてみると、物置にはでっかいネズミがいて、おじいさんを食おうとしていたという。はじめてネコの心がわかったおじいさんに、「ひとりだけでは、この大ネズミをやっつけることはできねえ。」という。ちょうどいいことには、なかまのネズミが十一ぴきいるので、みんなにたのんでネズミを退治して見せるという。
ごんべいどんは、たいそう喜んで、とっておきの米で、赤飯をたいて、ごちそうし、ネコの好きなかつおぶしもいっぱいふるまった。せいぞろいしたネコは物置にいったようで、「ギャー、ギャゴーッ」「チ、チュー、キッ、キュー・・」「ガウ、ギャオー」と、ものすごい叫び声が聞こえてきた。ものの一時間ほどもたったころ、ごんべいどんが、物置にいってみると、大ネズミも、十二ひきのネコたちも、みんな血だらけになって死んでいた。
ごんべいどんは、死んでしまったら、敵も味方もない。いくら動物たちでも、命はとうといもんだと、ネコやネズミの墓を作ってやった。
いつのころからか、村の人たちは、この墓を十三塚とよぶようになったんだと。