グラのきこり/山の上の火/クーランダー、レスロー・文 渡辺茂男・訳/岩波書店/1963年初版
むかし、ある村にシュムという男がいました。シュムのおかみさんは、とてもがんこで、いつでもだんなさんの反対のことばかりしていました。
「石をつかって、まるい家をたてたい」とうと、「ねんどをつかった四角い家のほうがいい」
「川の水は、くさりかけているから、水をくむなら泉の水がいい」というと、「川の水がいちばん」
「のどがかわいたから、コーヒーでもおくれ」というと、「ホットケーキがいい」という具合。
だんだんと、じぶんのやりたいことをおぼえたシュムは、肉をたべたければ やいたモロコシをたのみ、じぶんの両親にあいたくなったら、おかみさんの両親にあいたいといえばいいのです。
ある日、シュムとおかみさんが町へいって、村に帰ろうとすると大雨が降ってきました。ふたりが村の近くの川までくると、もう川は、渦をまいていました。シュムが、「川をわたるのは、あぶないぞ!」というと、おかみさんは、「なんの、あぶないことがあるもんですか!」「水がへるまでまったほうがいいな」「ばかげたことですよ」といいました。
そこで、シュムは足で浅いところを探りながら、やっと、向こう岸につきました。
シュムが、「水があわだっているところへ、足を入れないように」と言うと、おかみさんは、いつものとおり、水のあわだっているところへ足を入れました。シュムのいった通り、おかみさんは、水の中へおちこんで、急な流れにながされてしまいました。村人の助けをかりて、おかみさんを探そうとしますが、どっちに流れていったか わかりません。いつもはんたいばかりをいうおかみさんでしたから、川下でなく川上に行ったに違いないと、川上をさがしましたが、おかみさんの姿はみえません。とうとう日が暮れたので、村人たちは、ひきあげてしまいました。
シュムは、悲しそうに首を振ってこういいました。「・・・というわけです。じぶんかってにやることは、そんなにいつまでもつづくもんでないからなあ。
おかみさんが、どうなったのかはわからないまま。おかみさんだって、いいたいことがあったのかも!