アジアの昔話6/ユネスコ・アジア文化センター・編 松岡享子・訳/福音館書店/1981年
日本やグリムの昔話の要素がつまった昔話。タイトルからはちょっと想像できません。
たったひとりで、子どもたちを育てていたお母さんが、留守中、知らない人がきても戸を開けないようにと言い残して、金持ちの家の手伝いにでかけました。仕事をおえ、やさしい金持ちのおくさんがくれた大きなお餅九つをもって大急ぎで家に向かいました。
最初の丘にさしかかったとき、トラがあらわれ、お母さんを食べようとしました。子どもたちのことを考え食べないように懇願しますが、トラは、いうことをきかず、餅を一つよこすようにいいました。お母さんは餅を一つ投げ、トラがそれを食べているうちに、逃げ出しますが、二番目の丘にさしかかったとき、また目の前にトラがあらわれたので、二つ目の餅をなげてやりました。これだけではおわりませんでした。三つ、四つ・・九個目で餅がすっかりなくなると、十番目の丘に、トラがまたあらわれてお母さんを食べてしまいます。
これでも満足できないトラは、こんどは留守番をしている子どものところへ出かけました。兄と妹は、声や手をださせ、母親でないことが分かったので戸をあけませんでした。しかし着ている着物ををみるようにいわれ、戸をあけてしまった兄妹。着物の裾から ながいトラのしっぽを見て井戸のわきに生えている高い木にのぼって枝にかくれました。ところが井戸の中の水に、子どもの影を見つけ、トラは木の上にのぼろうとします。
足の裏に油を塗ってのぼったという兄のことばをまにうけたトラは、足の爪に油をぬってのぼりますが、なんどやってもツルツルおちてしまいます。妹はこの様子を見ておかしくなり、「斧で、木にだんだんをつけたら、すぐのぼってこられのに。」と、いってしまいます。
トラが斧をつかんでのぼってくると、兄妹は上へ上へ。木のてっぺんに来ると、天の神さまに、丈夫な綱をおろしてくださいとお願いすると、すぐに真新しい綱がおりてきました。トラも天の神さまにお願いすると、おりてきたのは、古い、くさった綱でしたから、途中でぶっつりきれて、トラは地上へまっさかさま。地面にからだをうちつけて、血を流して死んでしまいました。
子どもたちが天につくと、神さまは、男の子を太陽に、妹は月になるようにいいます。一日たつと、妹は、みんながじぶんのことをじっと見るので、恥ずかしいといいだしました。やさしい兄は、妹が太陽になるようにして、じろじろ見られないようにします。そして、今でも女の子はお日さま、男の子はお月さまでいます。
トラが血を流してたおれた場所には、ひろいコウリャン畑ができました。コウリャンの穂のさきが、まっかなのは、そのときのトラの血がついたからだといわれています。
朝鮮半島は、二つの国に分断していますが、松岡さんはあえて、朝鮮の昔話としたのでしょうか。