アジアの昔話6/ユネスコ・アジア文化センター・編 松岡享子・訳/福音館書店/1981年
人さらいにつれさられた男の子が、腹が痛くて痛くて動けないと人さらいに訴え、おんぶされて森の中を歩いていきました。男の子は、お話ししてくれたら腹が痛いのが忘れられるからと頼みました。人さらいが話したのは
・わしのでかい木は、世界中の木という木を全部合わせたより まだでかい
・ばかでかい斧があり、一方のはしは、東のおてんとうさまののぼるところ、もう一方は西のおひさまがしずむところ
・ばかでかい水牛がいて、世界中全部合わせたより大きい。こいつがピックとでも動こうもんなら、地面はガタガタ、大揺れさ。地震ってのは、このことよ
・ながいシュロがあった。七つの島と、七つの海をぐるっと ひとまきにできるぐらいの長さ
・大きな家があって、その家の屋根の上から卵を落としたら、途中でそれがえってヒヨコになって、それがまた地面につく頃には、メンドリになってしまう
お腹が少し良くなったといって、こんどは、男の子が話しはじめました。それは、大きな大きな太鼓の話でした。
「もしそれをたたいたら、世界中の人間じゃなくて、天にいる神さまの耳にも、音が聞こえたんだよ。」
人さらいが、そんな太鼓をつくれるほどの木はないだろうというと、人さらいがいう木を使ったと、かえします。どうやって木を切り倒すかとわれると、人さらいのいう斧を使ったといいます。
皮はでかい水牛、皮をはるシュロ、置く場所は、大きな家につるしたと、かえした男の子。
人さらいが、急に話をかえ、「おまえには兄弟がいるのか?」ときくと、男の子はこたえました。
「ぼくの兄さんには弟がふたりいるし、弟には兄さんがふたりいるんだ。ってことは、ぼくたちは何人兄弟で、ぼくが何人目か、わかる?」
この問いに、人さらいはこたえることができませんでした。人さらいは、知恵にかけてはこの子の方がうわてだとさとりました。この子をつれていっては、どんな難題をふきかけられるかもしれない、こんな子は、親のところにかえすにかぎると思った人さらいは、おおいそぎで、今来た道をもどって、この子を家まで連れて帰りました。
ほら話がおおい昔話ですが、ほら話にほら話でかえすという楽しさがあります。