どんぴんからりん

昔話、絵本、創作は主に短編の内容を紹介しています。やればやるほど森に迷い込む感じです。(2012.10から)

そもそもオリンピック

2021年12月21日 | 絵本(日本)

     そもそもオリンピック/アーサー・ビナード・作 スズキコージ・絵/玉川大学出版部/2020年

 

 予定では2020年だったオリンピック開催年の2月発行。コロナ過で一年遅れで無観客開催となったオリンピック、パラリンピックでした。

 「風の ワタシは おぼえている。そもそも なん十万ねんも まえ イキモノが はしりだした。「ヒト」という イキモノ ほら、なかなか いいはしりだろう?」

 風が語り手になって、前半は古代オリンピックを駆け足で。そして「ヒトのやることは そもそも いつか おわる」と 皮肉たっぷり。

 後半は広島生まれのオダミキオの生い立ちをふりかえります。

 感想では織田幹雄のことを知らない人もいて逆にびっくりでした。三段跳びでは1928年の織田幹雄、1932年ロスアンゼルス大会の南部忠平、1936年ベルリン大会で田島直人が金と、日本のお家芸とよばれた時期があったというのは、いまでは想像もつかない。

 オダミキオは、1924年のパリ大会には船の上、川っぷち(セーヌ川?)では自転車で練習し、1928年のアムステルダム大会へはシベリア鉄道で停車の合間に練習し、何日もかけて現地入り。この年、三段跳びで金メダル。鉄道の汽車の中で、知らないヒトたちとしゃべって しゃべって しゃべって 気がつくと知り合いになっていたというおおらかさ。

 三段跳びで一番大切なのは風で、風とともに跳べるかどうかで記録がきまるという。

 「ワタシと ピョォォォン! がんばった じぶんが スルッと おちて・・ピョドォォォン! かちたい きもちが スルッと おちて・・ ドピョォォォンで ニッポンも おちて ドッズン!」

 風といっしょに跳ぶというのはどんな感じでしょうか。追い風、向かい風で記録が変わる競技。風が走りまわるようすは、スズキコージさんならではです。

 

 ただこの時期、1928には張作霖爆殺事件、1929年には世界恐慌、満州事変もはじまり、1930年は昭和恐慌と、日本の政治・経済は危険な時期。

 あとがきで織田氏の言葉が引用されている。
 「国威高揚だ、メダルをとったと、大騒ぎするのは、オリンピック精神に反すると思います」「国旗国歌はやめた方がいいと思う」「オリンピックは平和運動だとみんないうが、何にもやっていない。世界の若人が集まってプレーするから平和だ、というが負けた人は翌日帰国してしまう。これでは平和も何もあったものではない」
 
 ついメダルの数に一喜一憂したのを反省。
 
 これまでオリンピックの裏側はしるよしもなかったが、東京2020では、金にまつわる醜悪な面も露呈した。近代オリンピックがはじまり今回の東京大会は32回目。古代オリンピックの最後は、第293回というから千年は続いたことになるが、祖国が優勝者に支払う報奨金は跳ね上がり、褒章欲しさに、不正を働くもの、審判を買収するものが出て腐敗を生んだという。
 巨大化し、この先開催地に立候補する都市がないだろうともいわれるオリンピック。違った意味でオリンピックそのものが問われているようだ。

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