おカバさま/星新一ちょっと長めのショートショート/七人の犯罪者/理論社/2007年
AIの進化で、人間がしていた仕事がロボットなどにおきかわるのが現実になりました。そして膨大なデータを分析したコンピューターの判断が重要視されるようにもなりました。
星新一さんは1997年に亡くなられていますが、近未来をうつしだしたショートにどっきりします。
コンピューターが「これからはカバを大切にせよ。呼び捨てにしてはいかん。おカバさまと呼ぶのだ。この指示に逆らうものがあれば、厳罰にせよ・・」と指示を出してからは、車に食料をつんでいたらカバの前にさしださなければならないし、カバが車にぶつかりけがをした場合は、たとえ停車中であっても非は人間にあるとされてしまいました。
もちろんカバを尊敬し「おカバさま」とよぶのは、当たり前。
おカバさまがプールに入ったら水の温度を調節するのは人間の仕事。水が冷たいと急いでお湯を加え、適当な温度にしなければなりません。
<おカバさま省>という役所もつくられ、カバの繁殖をたかめるホルモン剤を製造したり、危害を加えようとする者を取り締まる警察機構でもありました。おカバさまを大事にしない者は逮捕され囚人部隊に編入されてしまいます。
おカバさまがどんどんふえ、さすがに人々が、これは少しおかしいんじゃないか、コンピューターがくるっているんじゃないかと かすかに疑問をもちかけたとき、世界に異変がおこりました。家畜の伝染病が大流行し、家畜のほとんどが全滅してしまったのです。
コンピューターの次の指示は、カバを食えという。おまけに、おカバさまをおいしく食べる料理法も指示。指示された料理法でカバを食べると、とてもおいしい。カバだけは伝染病にやられなかったので、栄養失調で大量の死者もでずにすみました。
人類の危機を未然に防いでくれたコンピューターへの人々の信頼は、さらに高まりました。
この事件の後、コンピューターの配線にかすかな狂いがでました。
次の指示は<人間はこれからは、たってあるいてはいかん。よつんばいであるくべである>と。
しかし、だれもが、この指示を無茶だとは思う人はいませんでした。
この小説、別にカバでなくてもよさそうですが”カバ”を逆に読むと”バカ”。意味深です。物語の世界ですが、妙に現実的です。