どんぴんからりん

昔話、絵本、創作は主に短編の内容を紹介しています。やればやるほど森に迷い込む感じです。(2012.10から)

よみがえった良心

2022年01月08日 | オー・ヘンリー

     最後のひと葉/オー・ヘンリー・作 金原瑞人・訳/岩波少年文庫/2001年初版

 

 ジミー・ヴァレンタインは、四年の懲役を十か月で釈放され、自分の部屋にもどると、東部一の泥棒道具をスーツケースからとりだします。特注の鋼鉄でつくったドリル、穴あけ機、金ねこ、締め具、らせん錐など最新式のものでした。

 刑務所長に、金庫破りなんかやっていないと うそぶいていたジミーでしたが、釈放の一週間後、インディアナ州リッチモンドで800ドル、それから二週間後は1500ドル、そしてジェファソン・シティ銀行から5000ドルが消えていました。驚くほどに似かよった手口に、以前ジミーを捕まえたベン・プライス刑事が動きます。

 ジミーがつぎに目をつけたのが、アーカンソー州の田舎町エルモアの銀行でした。その銀行の前で出会った娘を見たとたん、われをわすれ、まったくの別人になったジミーは、銀行の前の石段でぼうっとしている少年から娘のことをききだします。娘の名前はアナベルで、父親アダムズは銀行の持ち主。

 ジミーは、刑務所の靴工場ではたらいた経験を活かし、名前をラルフ・D・スペンサーとかえ靴屋をはじめます。

 靴屋をはじめてから一年後、ジミー(ラルフ氏ですが)の靴屋は大繁盛し、町の人たちとのつきあいもうまくいって、アナベルとの結婚を二週間後にひかえていました。

 金庫破りを考えなくなったラルフは、商売道具を友人に譲って、世界でいちばんすてきな女の子と結婚し、店を売り西部で暮らすことにしていたのです。

 一方、ベン・プライス刑事は、こっそりエルモアへやってくると、目立たないように町を探って、知りたい情報を手に入れると、通りの向かいにある靴屋をじっくり観察していました。

 ジミーが結婚式のときに着る服をあつらえ、アナベルへ贈り物を買うつもりで、一年ぶりにエルモアの町を離れよとした日、ジミーはスーツケースをもち、アナベルの父、アナベル、アナベルの姉と二人の子と銀行にむかいます。エルモアの銀行ではつい最近、アダムズ氏が自慢する新しい金庫室をつくり、だれでも見ていってくれと勧めていました。

 ここで事件が発生します。アナベルの姉の九歳のメイが、茶目っ気を起こし、五歳のアガサを金庫室に閉じ込めると、数字の刻んであるつまみを回してしまったのです。最新式のドアで、鉄のかんぬき三本、開閉の時間設定も可能という金庫があけられなくなって、大騒ぎ。アナベルの姉は気も狂わんばかり。

 自分の尊敬している男に不可能はないと信じているアナベルは、ジミーに、助けをもとめます。

 このときベン・プライス刑事は、銀行の入り口のカウンターにひじをつけ、何気なく奥をのぞき込んでいました。

 ジミーが金庫にむかって自分自身の記録を破る十分後、金庫に閉じこけられていたメイは、救出されました。

 ジミーが入り口に向かうと、ドアの前には大きな男。ベン・プライス刑事の姿をみたジミーは、逆らうことなく捕まろうとします。ところが刑事は、ジミーが思ってもいない反応をみせました。

 「だれかとおまちがえじゃありませんか。スペンサーさん。おあいしたことはないはずですが。さあ表で、馬車がまっているんでしょう?」

 

 正体がばれることを恐れず、婚約者にいいところを見せようと、金庫をあけるジミー。そして、もう金庫破りはしないだろうと見抜いた刑事の粋な計らい。映像表現ならどんな風な表情でしょうか。


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