魔女のパン/オー・ヘンリー ショトストーリーセレクション 千葉茂樹・訳/理論社/2008年
伯父の命令にさからって、ある女性とつきあったことから、あととりにすることを取り消され月々の背活費もすっぱり切り上げられ、にっちもさっちもいかなくなったバランス。
ポケットにはペニー硬貨のひとつもなく、アパートも引き払る羽目になったバランスがむかったのはマジソン・スクウエアの公園。
この公園であったのが、若いようにも、老けているようにもみえ、かび臭いにおいを身にまとい、ひげも髪も伸び放題の男。
あいさつがわりに、マッチを借りたいといってきた男が誰かと話さずにはいられないと調子で話し出します。
明日の十時にダウンタウンのどでかい弁護士事務所にいくという。そこで伯父貴のあとがまにすわって、三百万ドルを引き継ぎ、その上毎年一万ドルもらえることになって、おそろしくておそろしくてたまらないという。朝までに、木が倒れてきたり、馬車にはねられるかもしれない、屋根から石が落ちてきて頭にあたるかもしれない。
金とは縁がないってわかっているときは、噴水の水がはねる音を聞いたり、馬車がいったりきたりしているのをみているだけで幸せだった。もうちょっとで金に手がかかると考えただけで、十二時間も待つなんてとてもじゃないけど耐えられない。
目が見えなくなってしまうんじゃないか、心臓発作をおこすんじゃないか、金を手にするまえに、この世界がおわってしまうかも・・。
ベンチで一晩過ごした男が弁護士事務所にむかうと・・・。
オー・ヘンリーの結末がハッピーエンドでおわるはずがないと考えているとまさしく、そのとおりになります。
この浮浪者はアイドといいましたが、伯父のボールディングが今回の件を考え直し、相続権を移すという話はなかったことにしてほしいといわれるはめに。でもバランス氏は、伯父さんからすぐもどってきてほしい、例の娘さんの件も考え直すといわれ、気を失ったようですよ。
一万ドルは少なそうにもみえますが、20世紀初頭のストーリーというのを考慮すると大金になりそうです。ただバランスもアイドも相続財産で楽しようとはいただけません。
お金がない生活の方が幸せといえる心境になりたいものです。