ノルウエーの昔話/アスビョルンセン ヨーレン・モー 米原まり子・訳/青土社・訳/1999年
トロルは、北欧ではかかせない存在。ただ話によってイメージがかわってきます。
兄弟が、鷹匠がどんなふうにし鳥を捕まえるか見てみたいとヘダルの森へ出かけた。ところが秋も終わって、兄弟は休む場所を見つけられず、森の中で道に迷ってしまった。二人は小枝を集め、火をおこして、松の枝で夜の宿にする仮小屋をこしらえた。
横になっていると、くんくんというひどく大きな鼻息が聞こえてきた。兄弟は耳をそばだて、その音が動物たちなのか、話に聞いたことのあるトロルなのか一心に聞きとろうとした。すると、さっきよりも激しく鼻をならし、「ここはキリスト教徒の血の匂いがするぞ!」という。
大地を踏みつけるひどく重そうな足あとが聞こえ、あらわれたのはトロル。トロルはモミの木のてっぺんにとどくほどで、三人で一つの目玉を持っていた。トロルの額にはそれぞれ目玉をいれる穴が一つづつで、先頭を行くトロルが目玉をつけ、あとの者は、しっかり前の者にしがみついていた。兄はトロルの最後尾にまわり、足首を手斧で切りつけたものだから、トロルはおそろしい悲鳴をあげた。すると先頭のトロルがびっくり仰天して跳びあがり、その拍子に目玉をすとんと落としてしまった。兄はすかさず目玉をひろいあげた。目玉を取られ、仲間のトロルが傷つけられてしまったトロルは、目玉を返さないなら、ありとあらゆる不幸がふりかかるぞと兄弟を脅しはじめた。
兄弟が、そっとしてくれないなら、あんたたち三人ともきりつけてやると言い返すと、トロルはおびえ、目玉を返してくれるなら、金と銀、それにほしいものは何でもあげるからと、愛想よく言いました。兄弟は金と銀を荷物袋いっぱいにして、すばらしい鋼の弓二本くれるなら目玉を返そうといいます。トロルは目玉がないので歩くことができないと、トロルの一人が妻に大声でよびかけました。トロルたちは三人で一人の妻をもっていたのです。
妻は事情を知ると魔法をかけてやると、兄弟を脅しますが、トロルのほうがもっとおびえてしまい、妻も自分の目玉を取られることが絶対にないとは思えなかったので、金銀と鋼の弓を兄弟に投げつけると山の家に帰っていった。
その時以来、へダルの森でキリスト教徒の血を求めて鼻をならしてかぎまわるトロルたちのことを耳にする者は、絶えてなかった。
妻も、一つの目玉も三人で共有するユニークなトロル。だれも目玉を占有しようと思わない信頼関係が素晴らしい。人間にはできそうもありません。