[認知症のはてな](7)アルツハイマー型、進行遅らせる治療薬
2016年10月31日 (月)配信読売新聞
生活の改善・維持、副作用注意
認知症の中で最も多いアルツハイマー型の治療では、4種類の薬が使われる。症状の進行を遅らせて、生活を改善・維持するのに役立つ一方、食欲減退などの副作用が出る場合もあるため、患者の状態に応じて使い分けることが重要だ。
東京都内の男性(79)は、3年ほど前からもの忘れが激しくなり、日時も分からなくなるなどの症状が表れた。クリニックを受診すると、アルツハイマー型認知症と診断された。
それまでは、家では何もせずに過ごすことが多かったが、治療薬「ガランタミン」を飲み始めると活動的になった。空腹を感じると、自分で即席スープを作るなど、身の回りのこともできるようになった。
アルツハイマー型認知症は、脳に異常なたんぱく質がたまり、神経細胞が壊れて記憶力の低下などの症状が表れる。国内では、「ガランタミン」を含む4種類の治療薬が販売されている。
どの薬も認知症を完治させることはできないが、一時的に症状を改善させ、進行を遅らせる効果が期待できる。東京大学病院の亀山祐美助教(老年病科)によると、認知機能テストの点数には改善がみられない場合でも、身の回りのことができるようになったり、暮らしのリズムが整ったりして、生活が改善する効果が得られることがあるという。
亀山助教は、「治療薬は、初期のうちから使うと、効果がみえやすい。症状が軽いうちに進行を遅らせることで、家族がふれあったり、介護の態勢を整えたりなどの時間を持てる」という。
◇ ただ、これらの治療薬では、症状の進行を完全に止めることはできない。また、薬との相性により、副作用が強く出ることもある。
この男性の場合も、症状が進んで、妄想がみられるようになった。別の治療薬に変えたところ、今度は食欲が落ちて、体重が減ってしまった。飲み薬をやめて、胃腸への負担が少ない貼り薬の「リバスチグミン」を使うと、しっかりと食事をとれるようになった。今も症状は少しずつ進行しているが、健康状態は良好だ。妻は「最近は、デイケアに通って、筋トレに励んでいます」と話す。
4種類の治療薬のうち最初に発売されたのは、1999年の「ドネペジル」(商品名「アリセプト」)だ。その後、10年余りの間はこの1種類しかなかったが、2011年に、「ガランタミン」「リバスチグミン」「メマンチン」の3種類が加わった。薬剤の形態も、錠剤や粉薬、貼り薬などがあり、患者の生活習慣などに応じて、選ぶことができる。くるみクリニック(東京都世田谷区)の西村知香院長は、「2種類を併用することも可能で、治療の選択肢が広がった」と歓迎する。
副作用を抑えるため、4種類とも、少量から服薬を開始し、一定期間内に1・7~4倍まで増やすよう、定められている。だが中には、規定量まで増やすと、興奮や歩行障害などの副作用が強く表れる場合があるとの指摘もある。
昨年9月、高齢者医療に携わる医師らが一般社団法人「抗認知症薬の適量処方を実現する会」を設立した。副作用の実態調査を行い、症例をネットで公開している。同会は、規定量より少ない投薬を保険診療で認めるよう求めており、厚生労働省は今年6月、規定量未満の投薬については、保険適用すべきかどうかを症例ごとに判断するようにとの通知を出した。
亀山助教は、「医師が、効果や副作用を見極めて、薬の種類や量を調整する必要がある。残念ながら、規定量未満の投薬は、現時点では効果を立証するデータが得られていない。副作用が出たら他の薬に変えるなどして、なるべく規定量を使うのが望ましい」と話している。(飯田祐子)