介護現場に外国人拡大 処遇低下の懸念根強く 技能実習生法成立
行政・政治 2016年11月21日 (月)配信共同通信社
介護現場への外国人技能実習制度拡大につながる技能実習適正化法など2法が18日、参院で可決、成立した。人手不足に悩む介護事業者は歓迎する。しかし、事実上「安価な労働力」として活用されてきた実習生は今後介護分野でも数万人規模で広がるとの見方もあり、介護サービスや職員の処遇低下を招きかねないとの懸念は根強い。
▽人手不足
「今日はそんなに寒くないね。もう入浴はしましたか」
愛知県武豊町の特別養護老人ホーム(特養)で、フィリピン人の介護福祉士レスリー・マンリゲズ・ハパイさん(27)が高齢者に笑顔で話し掛ける。経済連携協定(EPA)に基づき2011年に来日。昨年の国家試験に合格し、職場にすっかりなじんだ。
レスリーさんを含め、これまで約60人の外国人を受け入れた社会福祉法人「福寿園」の古田勝美(ふるた・かつみ)会長は「もはや国内だけで人材は補えず、海外の優秀な人材確保が不可欠だ」と実習生の受け入れに前向きだ。
ただ、一定レベルの日本語能力がないと高齢者や職員とトラブルになる恐れがあり、独自にフィリピンで来日前に日本語を基礎から教える支援を続ける。
▽賛成76%
介護現場は慢性的な人手不足が続き、政府は20年代初頭に全国で25万人が不足すると推計。現在、介護の外国人はEPAが中心だが、2法の成立により実習制度の職種に介護が追加され、大幅に増える可能性がある。人材サービス会社のニッソーネット(大阪市)が特養などに実施した調査では、制度拡大の賛成派が前年比15・6ポイント増の76・9%に急増。急速に注目が集まっている。
政府が介護にも拡大する背景は「人手不足対策だ」と政府会合の民間メンバーは言い切る。同時に「国際貢献の人材育成と介護ビジネスのアジアへの輸出もセットで安倍政権の成長戦略の一つだ」と強調する。
▽最悪のシナリオ
1993年に始まった技能実習の対象は現在74職種で約21万人に増加。ものづくり中心から初めて「対人サービス」の分野に踏み出す。
賃金が安い労働力として安易に呼び込めば、実習生はコストのかかる研修を受けられず技能が高まらない上、他業種より低い日本人職員の処遇も下げかねない。その結果、介護サービスの質は低下する。
実習制度はこれまでも劣悪な労働環境や人権侵害の問題が繰り返し批判されてきた。制度に詳しい法政大の上林千恵子(かみばやし・ちえこ)教授は「介護は人命に関わる仕事で、介護に適した人を丁寧に選ばないとトラブルになる恐れがある」と懸念する。
多くの実習生問題に取り組んできた指宿昭一(いぶすき・しょういち)弁護士は「実習生を集めようと先行した動きが既に出ている。数年後には数万人単位で入ってくるのではないか」と指摘。「技能実習生は『物言えない労働者』。彼らを、ただでさえ労働条件の悪い介護現場に大量に入れれば、さまざまな問題が生じて混乱する。最悪のシナリオへの第一歩になりかねない」と警告した。
行政・政治 2016年11月21日 (月)配信共同通信社
介護現場への外国人技能実習制度拡大につながる技能実習適正化法など2法が18日、参院で可決、成立した。人手不足に悩む介護事業者は歓迎する。しかし、事実上「安価な労働力」として活用されてきた実習生は今後介護分野でも数万人規模で広がるとの見方もあり、介護サービスや職員の処遇低下を招きかねないとの懸念は根強い。
▽人手不足
「今日はそんなに寒くないね。もう入浴はしましたか」
愛知県武豊町の特別養護老人ホーム(特養)で、フィリピン人の介護福祉士レスリー・マンリゲズ・ハパイさん(27)が高齢者に笑顔で話し掛ける。経済連携協定(EPA)に基づき2011年に来日。昨年の国家試験に合格し、職場にすっかりなじんだ。
レスリーさんを含め、これまで約60人の外国人を受け入れた社会福祉法人「福寿園」の古田勝美(ふるた・かつみ)会長は「もはや国内だけで人材は補えず、海外の優秀な人材確保が不可欠だ」と実習生の受け入れに前向きだ。
ただ、一定レベルの日本語能力がないと高齢者や職員とトラブルになる恐れがあり、独自にフィリピンで来日前に日本語を基礎から教える支援を続ける。
▽賛成76%
介護現場は慢性的な人手不足が続き、政府は20年代初頭に全国で25万人が不足すると推計。現在、介護の外国人はEPAが中心だが、2法の成立により実習制度の職種に介護が追加され、大幅に増える可能性がある。人材サービス会社のニッソーネット(大阪市)が特養などに実施した調査では、制度拡大の賛成派が前年比15・6ポイント増の76・9%に急増。急速に注目が集まっている。
政府が介護にも拡大する背景は「人手不足対策だ」と政府会合の民間メンバーは言い切る。同時に「国際貢献の人材育成と介護ビジネスのアジアへの輸出もセットで安倍政権の成長戦略の一つだ」と強調する。
▽最悪のシナリオ
1993年に始まった技能実習の対象は現在74職種で約21万人に増加。ものづくり中心から初めて「対人サービス」の分野に踏み出す。
賃金が安い労働力として安易に呼び込めば、実習生はコストのかかる研修を受けられず技能が高まらない上、他業種より低い日本人職員の処遇も下げかねない。その結果、介護サービスの質は低下する。
実習制度はこれまでも劣悪な労働環境や人権侵害の問題が繰り返し批判されてきた。制度に詳しい法政大の上林千恵子(かみばやし・ちえこ)教授は「介護は人命に関わる仕事で、介護に適した人を丁寧に選ばないとトラブルになる恐れがある」と懸念する。
多くの実習生問題に取り組んできた指宿昭一(いぶすき・しょういち)弁護士は「実習生を集めようと先行した動きが既に出ている。数年後には数万人単位で入ってくるのではないか」と指摘。「技能実習生は『物言えない労働者』。彼らを、ただでさえ労働条件の悪い介護現場に大量に入れれば、さまざまな問題が生じて混乱する。最悪のシナリオへの第一歩になりかねない」と警告した。