【群馬】菌まき散らすな・教諭は自殺した…差別やデマに苦しむ感染者ら、家族離散も
2020年9月20日 (日)配信読売新聞
新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、群馬県内でも感染者や関係者が、差別やインターネット上に書き込まれた中傷などに苦しんでいる。仕事への支障や家族の離散につながったケースもある。差別問題に詳しい専門家は「根拠のないことを言いふらして他人を傷つけたり、不利益を及ぼしたりすることはあってはならない」と訴える。
■SNSにデマ
「職員がどこのスーパーへ寄ったのか調べろ」「管理態勢は一体どうなっているんだ」――。
7月に東京の劇場を訪れた保育教諭ら職員3人の感染が判明し、一時休園となった伊勢崎市の認定こども園「二葉こども園」には、40件以上にもなる非難の電話が殺到した。
当時、県外への移動自粛要請は解除され、保育教諭らも感染防止策を取っていた。SNS上にこの保育教諭が「自殺をした」とのデマまで書き込まれ、保護者には動揺も広がり、職員らは説明などに追われた。
相手の電話番号、中傷の内容などをノートにつづってきた男性園長(52)は「一方的に責められ、謝るしかなかった。どうすればよかったのか今も悩んでいる」と1ページずつ振り返る。
■陰性でも
家族が濃厚接触者となった県内の70歳代男性は「心ない差別で、家族の生活が一変した」と肩を落とす。
今夏、息子夫婦と孫(4)と暮らしていた男性のもとに、近所の知人から「孫を(義理の)娘の実家へ連れて行け」と突然電話がかかってきた。
保育園の職員が感染し、孫は自宅待機となった。検査で陰性と確認されたことを伝えても、知人は「うつったら責任を取れるのか」とまくし立てた。
受話器から漏れるどなり声は、遊びに来ていた息子の妻の母の耳に入り、「こんな場所に置いてはおけない」と息子の妻と孫を連れ、県内の自宅へ帰ってしまった。今も別居状態は続いている。
数日後、知人宅を訪れると、「菌をまき散らすな」と言われた。男性は「悔しくて眠れない」と嘆く。
群馬弁護士会の古平弘樹副会長は「未知のものに対する防衛意識が、行き過ぎた差別につながっている」と指摘。被害者に対しては法的措置に向けて、事実関係を記録しておくことを助言する。
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前橋地方法務局(027・221・4466)は、新型コロナウイルスに関する差別や中傷の被害相談を受けている。
医療機関の公表 慎重さ求める声
職員が新型コロナウイルスに感染した医療機関の公表について、業務への支障や医療従事者への偏見につながる懸念があるとして、県に対して、一部機関には慎重な姿勢を求める声もある。
高崎市の黒沢病院では、職員が抗原検査で陽性となったが、その後のPCR検査では陰性が確認された。しかし、同病院によると、病院名が明らかになったことで患者の転院ができなくなったり、医師が派遣されなかったりする事態が生じた。運営する医療法人社団美心会の黒沢功理事長は、「医療を続ける上で困難がある。病院名の公表には慎重になってほしい」と言う。
これに対し、県は県民の不安を取り除くため、原則公表する方針。山本知事は「あり方についてはケースごとに検討する」と語る。
中傷相談窓口 県が設置へ…来月末までに
県は10月末までに、インターネット上での中傷や差別に苦しむ人の専用相談窓口を設ける。被害者支援に取り組むための条例の制定も目指していく。
相談窓口は、県生活こども課内に開設し、専属の相談員が電話、メール、面会のいずれかで対応する。必要に応じて、弁護士による加害者特定のための手続きや証拠保全の助言、臨床心理士による精神面のケアも無料で受けられる。
新型コロナウイルス感染者らの相談も想定し、県は今年度一般会計補正予算案に関連費用400万円を盛り込んでいる。