音楽家ピアニスト瀬川玄「ひたすら音楽」

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◆ベートーヴェン《ピアノソナタop.110》に運命が戸を叩く

2007年04月24日 | 《31番op.110》
ベートーヴェンの《交響曲第5番 op.67》は
「運命」という通称の普及の名作、
あの「♪じゃじゃじゃじゃ~~~ん!!!」の冒頭は
西洋クラシック音楽のジャンルにおいて
抜群の知名度を誇っていることに、疑いはありません。

あの冒頭の4つの音は、
「運命が戸を叩く音」というモティーフ(動機)として、
この《交響曲“運命”》を先陣に、様々な楽曲に
顔をのぞかせる音楽の素材となります。

ちなみに、この「運命」のモティーフと呼ばれる由来は、
ベートーヴェンの無給の秘書アントン・シントラーが
作曲者に直接たずねたところ、この冒頭の4音は
「運命はこのようにして戸を叩くのだ」
と答えたというところから来るそうです。


そんな「運命」のモティーフが現れる例を、
後期の三つのピアノソナタの内の一つ、
《ピアノソナタ31番 op.110》に、このモティーフを
見出すことができそうです。

それは、
III楽章、ベートーヴェン自身の記載による
「嘆きの歌Klagender Gesang」にて。


左手の和音の伴奏に支えられて、
朗々と歌われる旋律は、まさに
「嘆き」を彷彿させます。


・・・希望も虚しく・・・


うたが終わりを告げようとするとき、

「運命」のモティーフらしい音が
内声に静かに聴こえてくるのです。



 と と と とん・・・


《交響曲“運命”》のような力強い響きではありません。
静かに、
あまりに静かで
ほとんど気付かれないくらい静かに
運命を告げているかのよう・・・


一体、嘆きの歌はどんな運命を告げているというのでしょうか


その後の低音(2オクターブ3音)のユニゾンは、
地の底から嘆きに答えるよう、不気味に鳴り響きます。




「運命」は、一体何を告げたというのでしょうか・・・


P.S.
ちなみに、この「運命」のモティーフは、
ベートーヴェンのみならず、他にも多くの作曲家が
これを使って作曲している作品が数多くあるようです。

この「運命」のモティーフが、
いつ・いなかる時に使われているか、
このモティーフが聴こえてきたのなら、
それは一体、いかなる「運命」を暗示しているのか、
音楽に耳を傾けながら想像を膨らませることは、
我々が生きることは何たるかを実感するのに
少なからず一役買ってくれるのかもしれません。

西洋クラシック音楽をより深く愉しむにあたっての
ちょっとしたキーワードのひとつと考えてみるのは
いいかもしれません。


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