音楽家ピアニスト瀬川玄「ひたすら音楽」

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◆ベートーヴェンの「強い思い入れ」を「楽譜の指示」に見る

2009年02月12日 | ベートーヴェン Beethoven
西洋クラシック音楽においては、
楽譜に記された色々な指示が
大きな意味を持っているものです。

実に多種多様な指示があります。


●「Cantabile(カンタービレ)」
とくれば、
「歌うように」


●「dolce(ドルチェ)」
とくれば、
「甘く、やわらかな」


●「espressivo(エスプレッスィーヴォ)」
とくれば
「表情豊かに、感情を込めて」


このような指示は
それぞれ単独で使われることが基本的に多く見られるようですが、
しかし時には、そのいくつかが組み合わさって指示されることもあります。

しかし、
よりにもよって、上記に挙げたこの三つが
同時に使われるということがありましょうか!?



・・・あるのです・・・



それは、ベートーヴェンの大作、
《ピアノソナタ第29番 op.106“ハンマークラヴィア"》にて



第1楽章の提示部、
小終結部のあたりと言えましょうか。


その直前に、一度
「ff(フォルティシモ)」まで盛り上がった音楽が、
突如、
無情に美しいこの聖域(!?)に達する喜びを現し、
心一杯に感じている様子とでも言えましょうか・・・


「p cantabile dolce ed espressivo」
「静かに 歌って 甘く そして表情豊かに」


作曲者ベートーヴェンの
この旋律・この部分に対する「思いの強さ」が
切々と込められているようです。


この《ピアノソナタ第29番op.106“ハンマークラヴィア”》においては、
例えば第3楽章にも、
楽譜に記された指示から、
ベートーヴェンの思いの強さを確認できる部分があります。

 

「con grand' espressione」
「巨きな情感をもって」


ここは、この第3楽章をソナタ形式として捉えるならば、
第1テーマの終わった後の「推移部」といえましょうか。

左手のゆっくりなダンスのようなリズムにのって、
痛切な右手のメロディーが、まさに
「嘆きの歌」と言って過言ではないような、
切々と、溢れ出んばかりの強い情感を込めて歌うよう
指示されているのです・・・

ちなみに、
「Klagender Gesang(独) Arioso dolente(伊)嘆きの歌」とは、
ベートーヴェンがこの《op.106》の後、
《ピアノソナタ第31番 op.110》の第3楽章において実際に使った言葉で、

この音楽における音型、あるいは音楽的な表情は
上記の《ハンマークラヴィア》第3楽章のそれと
非常に近いものがあるといえましょう。


いやはや・・・こんな表記をする作曲家が、
果たしてそれまで(19世紀)の西洋クラシック音楽史上において
いたでしょうか?

ベートーヴェンにより広げられたクラシック音楽における表現の幅は、
こうした具体的な楽譜に指示された端々から
見受けられるような気もいたします。


最後に、
ひとつのエピソードとして、
ベートーヴェンが非常に多感な人物であったことを
痛切に思い知らされるある証言をご紹介したく思います。


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(ロマン・ロラン著『ベートーヴェンの生涯』より)

1825年頃に、
ベートーヴェンがピアノを弾いているのを見た英国の
一旅行者ラッセルのいうところによると、
ベートーヴェンが静かに弾いているつもりのとき、
音は少しも鳴ってはいなかった。そして、
ベートーヴェンが生気づけている感動の様子を、
彼の表情と力をこめている指とに見つめつつ、
しかも音楽は少しも鳴っていないその光景の中にいると、
胸をしめつけられるような気持ちがしたという。



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