前回から、「トリル(tr.)」の演奏方法について
トリルの始まりを「上から」弾くのか「下から」弾くのか、
作曲家それぞれのケース・バイ・ケースで考察中ですが、
さて、
今度はショパンの場合を見てみたいと思います。
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ショパンは、19世紀のロマン派を駆け抜けた
「ピアノ弾きの、ピアノ弾きによる、ピアノ弾きのための音楽」
を多々書き残してくれた偉大な作曲家ですが、
彼の作品の一つを垣間見てみましょう。
これは、
ショパンの後期の作《ノクターン第17番 op.62-1 ロ長調》
の再現部なのですが、
ご覧の通り、長い長いトリルに彩られて
曲の冒頭の美しいメロディーが再び姿を現す
感動的な「再現部」です。
楽譜を詳細に見てみますと、
上声部のメロディー、「普通の大きさ」の黒玉で書かれた
八分音符のメロディーラインの前には
それぞれに小さな前打音が書かれています。
この「小さな音符」達は、通称「前打音」という名で通ってはいますが、
時として、言葉の通りの「前に打つ音」という意味に端的にとっては
ならないのが、大きな落とし穴といえましょう。
(★あらゆるクラシック音楽において「前打音」が書かれている際には、
それが「前に打つ音」なのか、
それとも「拍の上で弾かれる音」なのかを、随時検証することが
必要です。しかし、ある程度の経験と慣れを積むことで
そこまで難しい判断ではなくなってくるので、この問題に
関しては、そう恐れる必要はないでしょう)
この小さな音符は、
このショパンの《ノクターン》において、
トリルの前に「敢えて」書かれた意味を吟味するならば、
トリルの始まりの音が「その音から始まること」を
ショパンが意図して書かれているものと
読み取ることができます。
すなわち、
このトリルの音達は、「主音の前」に「敢えて」書かれた
「小さな音符」から始まるということは、音名で書くと
「レ~ミレミレミレ・・・・ド~レドレドレド・・・シ~ドシドシドシ・・・」
となり、
トリルに彩どられた自然なメロディーが、最初の音で浮き彫りになるという
ショパンの高い音楽性が記譜法として見事に書き込まれた
一例としてみることができるでしょう。
すなわち、
この譜例を検証するならば、
ショパンが「敢えて」トリルの始まりの音を
メロディーラインとなる主音の前に「重ねて」書いたということは、
ショパンにとって、「普通のトリル」というのは、
「主音から始まるものではない」ということが
明るみになるのではないでしょうか。
ゆえに、
ショパンにとってのトリルは「上から」
という具体的事例が、ここに示されるのではないでしょうか。
―――――――――――――――――――――――――――――――
残念ながら、19世紀の巨匠ルビンシュタインの残した
芸術的価値の高く素晴らしい《ノクターン》の録音では、
この意味においては、間違った演奏がされてしまっています。すなわち、
「ドドレドレドレド・・・シシドシドシドシ・・・」と、
「小さな音符」を一度弾いた上で、さらに同じ音を繰り返し、それから
トリルに入るという演奏をしているのです。
ルビンシュタインは、同じ間違いを、あの有名な
《英雄ポロネーズ》においてもしてしまっています。しかし
このために、
ルビンシュタインの《ノクターン》や《ポロネーズ》の
音楽的・芸術的価値が損なわれるということはほとんどないと
声を大にして言うべきでしょう。
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今日の21世紀になって、クラシック音楽のジャンルにおける研究が進み、
人々が過去の作曲家の真の姿を明るみにしようと切磋琢磨して見えてきた
さらに「美しい音楽」の姿を追おうとする試みのひとつとして、
この「トリルの解釈」という思索もまた
意義ある音楽・芸術の探求と信じて、
今後ともがんばってゆきたいものです。
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この記事に関するコメントやご連絡等ございましたら、
以下のアドレスまでメッセージをお送り下さい。
PianistSegawaGen@aol.com
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トリルの始まりを「上から」弾くのか「下から」弾くのか、
作曲家それぞれのケース・バイ・ケースで考察中ですが、
さて、
今度はショパンの場合を見てみたいと思います。
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ショパンは、19世紀のロマン派を駆け抜けた
「ピアノ弾きの、ピアノ弾きによる、ピアノ弾きのための音楽」
を多々書き残してくれた偉大な作曲家ですが、
彼の作品の一つを垣間見てみましょう。
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これは、
ショパンの後期の作《ノクターン第17番 op.62-1 ロ長調》
の再現部なのですが、
ご覧の通り、長い長いトリルに彩られて
曲の冒頭の美しいメロディーが再び姿を現す
感動的な「再現部」です。
楽譜を詳細に見てみますと、
上声部のメロディー、「普通の大きさ」の黒玉で書かれた
八分音符のメロディーラインの前には
それぞれに小さな前打音が書かれています。
この「小さな音符」達は、通称「前打音」という名で通ってはいますが、
時として、言葉の通りの「前に打つ音」という意味に端的にとっては
ならないのが、大きな落とし穴といえましょう。
(★あらゆるクラシック音楽において「前打音」が書かれている際には、
それが「前に打つ音」なのか、
それとも「拍の上で弾かれる音」なのかを、随時検証することが
必要です。しかし、ある程度の経験と慣れを積むことで
そこまで難しい判断ではなくなってくるので、この問題に
関しては、そう恐れる必要はないでしょう)
この小さな音符は、
このショパンの《ノクターン》において、
トリルの前に「敢えて」書かれた意味を吟味するならば、
トリルの始まりの音が「その音から始まること」を
ショパンが意図して書かれているものと
読み取ることができます。
すなわち、
このトリルの音達は、「主音の前」に「敢えて」書かれた
「小さな音符」から始まるということは、音名で書くと
「レ~ミレミレミレ・・・・ド~レドレドレド・・・シ~ドシドシドシ・・・」
となり、
トリルに彩どられた自然なメロディーが、最初の音で浮き彫りになるという
ショパンの高い音楽性が記譜法として見事に書き込まれた
一例としてみることができるでしょう。
すなわち、
この譜例を検証するならば、
ショパンが「敢えて」トリルの始まりの音を
メロディーラインとなる主音の前に「重ねて」書いたということは、
ショパンにとって、「普通のトリル」というのは、
「主音から始まるものではない」ということが
明るみになるのではないでしょうか。
ゆえに、
ショパンにとってのトリルは「上から」
という具体的事例が、ここに示されるのではないでしょうか。
―――――――――――――――――――――――――――――――
残念ながら、19世紀の巨匠ルビンシュタインの残した
芸術的価値の高く素晴らしい《ノクターン》の録音では、
この意味においては、間違った演奏がされてしまっています。すなわち、
「ドドレドレドレド・・・シシドシドシドシ・・・」と、
「小さな音符」を一度弾いた上で、さらに同じ音を繰り返し、それから
トリルに入るという演奏をしているのです。
ルビンシュタインは、同じ間違いを、あの有名な
《英雄ポロネーズ》においてもしてしまっています。しかし
このために、
ルビンシュタインの《ノクターン》や《ポロネーズ》の
音楽的・芸術的価値が損なわれるということはほとんどないと
声を大にして言うべきでしょう。
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今日の21世紀になって、クラシック音楽のジャンルにおける研究が進み、
人々が過去の作曲家の真の姿を明るみにしようと切磋琢磨して見えてきた
さらに「美しい音楽」の姿を追おうとする試みのひとつとして、
この「トリルの解釈」という思索もまた
意義ある音楽・芸術の探求と信じて、
今後ともがんばってゆきたいものです。
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