・・・「pacem(平安)」・・・
先日、シュナイト・バッハ合唱団&オーケストラによる
J.S.バッハ作曲《ロ短調ミサ曲》の演奏会が
オペラシティー・コンサートホールにて行われました。
この演奏会は、合唱団の指揮者・指導者である
ハンス・マルティン・シュナイト先生の引退ということで、
約12年続いたシュナイト・バッハ合唱団の最後の演奏会となりました。
ここに私は合唱のテノールとして参加いたしました。
前回の同合唱団によるブラームス作曲《ドイツ・レクイエム》にて
初めて参加させていただいて以来の、二回目の本番、そして
最後の公演をご一緒させていただいたこととなります。
ハンス・マルティン・シュナイト先生は、齢80を超えた
ドイツ・クラシック音楽の伝統を引き継ぐ名匠の一人。
幼少の頃はライプツィヒ・聖トーマス教会合唱団にいらっしゃり、
すなわちそれは、バッハ音楽の伝統に世界中で最も身近である
人間の一人といっても間違いではないでしょう。
トーマス教会とは、J.S.バッハその人が後半生20年以上を過ごし、
音楽活動したその場所なのです。
そんな一人の人間にとっての最後の(引退を宣言されている故)
J.S.バッハ最後の大作《ロ短調ミサ曲》のコンサート・・・
我々合唱団は力の限りを歌いました、少なくとも僕は、
いや、そんなことを言うのはおこがましい!!コーラス団員皆、
そうだったのだと僕は信じます。その手応えが
あの日の演奏にはあったはず、あの音楽にはあったはず。
皆それがきっと分かったはず、感じられたはず、
会場で聴いていた人達だってきっと。
実際に本番が終わって、
「コーラスがよかった」という意見が多数聞かれました、
それもそのはず、だって、長い年月をかけて
シュナイト先生のもとに集まった、彼の合唱団の
全力投球だったのですから。
「飴と鞭」を巧みに使い分けるシュナイト先生の厳しく甘い指導は、
全て、音楽が・演奏がどうあるべきかを熟知しての指示の数々、
若輩者の私のような音楽家にとって、それを目の当たりにすることは
非常に大きな経験となったと強く思っております。
9月4日の演奏会終わって二日後、都内のホテルにて
合唱団主催のレセプションがあったのですが、
私は体調を崩して38度の熱を出してしまったため、
そこに参加することが出来ませんでした・・・
よって、
シュナイト先生の姿を最後に見たのは
舞台上、カーテンコールでコーラスの前を
満面の笑みを浮かべてゆっくり歩きながら下手へ着いて
「バイバイ」と手を振ってステージ裏へ消えていった姿・・・
もちろん!!シュナイト先生は健在、お元気なはずです。
まだまだ、機会があれば復帰公演だってあるかもしれない。
でも、事実上引退宣言をされていることも
明記して間違いではないのです・・・
そう、だから、
あれはやはり確かに、一人の指揮者の・音楽家の・人間の
最後の大仕事であったのです、そうここに断言しましょう、勇気を持って。
そして、そこに居合わせた人々、密接に関わった人々、皆、
その真(まこと)を各自の胸に抱き、
それを今後の糧としてゆき、
先生が最後に発された舞台上での言葉、
「Pacem(平安)」を大切に
胸に抱き続けてゆければと思うのです。
我々はあの演奏会にて、J.S.バッハの音楽を通して
世界平和という永遠の至上の理想を歌い上げたのですから。
現実社会の、そして魂の世界における「平和・平安」を。 アーメン。
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