音楽家ピアニスト瀬川玄「ひたすら音楽」

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◆《革命》に見るショパンの叫び=『シュトゥッテガルトの手記』後半部分

2008年02月26日 | ショパン Frederic Chopin
前回の記事に書きました、
《ポロネーズ ハ短調 op.40-2》は
曲の冒頭の不気味な静けさとは裏腹に、
予想外を裏切る終わりを告げます。


・・・柔らかな雰囲気の中間部では、
ショパンの祖国ポーランドを思い起こさせる
《マズルカ》のようにも聞こえるリズムが時折、
遠くから鳴り渡ってくるかのようです。


しかし、最後に待っているのは・・
不穏な空気に伴われて音量を増し(cresc.)、
「ff(フォルティシモ)」で鳴り響く あの
「死者の声」、 そして上声部の「嘆き」・・・

ふたつの声が相重なるあまりにもドラマティックな楽曲の最後は、
まさに「壮絶」という言葉が相応しいものです・・・

ショパンには珍しい「fff」というダイナミクスで
最後の和音が鳴り響くのも、それは
彼の心の奥底からの叫びの表れなのかもしれません・・・




しかし、
ショパンの嘆きは、死者との対峙ではいよいよ済まなくなります・・・
『シュトゥッテガルトの手記』の本当に重要な部分は
後半部分にあります。すなわち、
祖国ポーランドがロシアからの侵略を受ける報せを聞いた時の
ショパンの・一人のポーランド人青年の
身も心も切り裂かれんばかりの痛み


――――――――――――――――――――――――――――――

シュトゥットガルト。・・・これまでのところ、敵がわが家まで来ていることを知らずに書いていた。郊外は破壊され―――焼かれてしまった。ヤシュ!君はどこにいるのだ。ヴィルヘルムはきっと城壁の上で討ち死にしたのだろう。マルセルはとらわれの身だろう!好漢ソヴィンスキは、やつら悪党どもの手におちたか!おお、神よ、汝はおわすや。神はおわすも、復習せず!神よ、あなたはこのロシア人どもの犯罪をあきるほどごらんになったのではないでしょうか―――それとも―――それともあなた自身がロシア人なのですか?哀れな、親切な父上!あなたはきっと飢えていられる、そして母上にパンも買っておやりになれない。姉妹たち、欲情に乱れ狂うロシアの野郎どもの餌食にされたのかも知れぬ。パスケヴィッツ―――このモヒレブからきたやくざもの―――がヨーロッパ第一の王国の宮殿の主人におさまる!ロシア人が世界に君臨する。おお、父上、これがあなたの老年に待ちもうけた喜びとは!哀れな、悩めるやさしいママ、あなたの娘の骨がロシア人の足もとにふみにじられるのを見るためにのみ、またあなたが奴隷にされるためにのみ生きながらえられたことになるのですか。おお、ポウオンスキの墓地(妹エミリアの葬られているところ)よ!彼女の墓は守られたろうか。やつらはその上を踏み荒らした。―――幾千の屍がつみ上げられている。街は焼き払われた!おお、どうしてぼくはたった一人のロシア人も切り殺すことができなかったのか。おお、ティトゥス、ティトゥス!・・・(略)・・・それなのにぼくはここにいる―――無為、腕ぐみして、ただ、ため息をもらし、悲しみをピアノに向かってはき出すばかりで、気も狂わんばかりだ―――これ以上ぼくに何ができるのだ。おお、神さま、神さま!この地球をうち震わせ、この世代を地のなかにのみ込んで下さい!

――――――――――――――――――――――――――――――



音楽家としての高い志を胸に
自らの意思で祖国を離れたものの、
戦火に巻き込まれた祖国の報せを受け、
遠く離れた家族、友人、祖国の人々、そして恋人を思う
孤独な彼の心境とは、いかなるものであったか・・・

一人の人間の壮絶な心の叫びが書き記されている
それが『シュトゥッテガルトの手記』
そして、
その手記にある通り「腕ぐみして、ただ、ため息をもらし、
悲しみをピアノに向かってはき出すばかりで、
気も狂わんばかり」の姿が、
●《エチュード(練習曲) ハ短調 op.10-12“革命”》
に現れているのではないかと思えて仕方ありません・・・


この手記の最後を締めくくる言葉もまた、
音楽《革命エチュード》に相通ずるものがあります。

すなわち、
「おお、神さま、神さま!この地球をうち震わせ、
この世代を地のなかにのみ込んで下さい!」



《革命エチュード》は、
怒涛のごとく荒れ回った音の波が
最後には静かになったと思いきや、
再び流れ落ちる滝のような下降音型に導かれて、
四つの低い和音が、まさに
「地の底まで飲み込まれん」と、
叩きつけられます・・・




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