ベートーヴェン《ピアノソナタ第23番 op.57「熱情」》の終楽章は、
へ短調を構成する音階の内、トニカ、すなわち
主和音の「ファ、ラ♭、ド」以外の4つの音「ソ、シ♭、レ♭、ミ」を
長いペダルの中でffの大音量で連打する和音で始まります・・・
敢えて分析するならば、これは
「V(ドミナント)根音省略79」という和声なのでしょうが、
これはしかし「ドミナント」には正直あまり聴こえない・・・
実際に、この和音が解決の方向に向かう様子は、
無いと言えましょう(「解決」はドミナントたる由縁)。
もちろん、この楽章冒頭を序奏と言うならば、
序奏全体を通してドミナントで、ppの主題が現れるとき
それが解決されているとも言えるのでしょうが、
問題の冒頭の和音としては、これは解決せずに、
そのまま静かなpの右手のパッセージが始まるので、
やはり「ドミナント」にはあまり聴こえないと今は思われます。
(勉強を進めたら変わってくるのかも・・・!?)
すなわちこの和音は、冒頭に書いたように
「ドミナント(属和音)、トニカ(主和音)」という
クラシック音楽の根底に深く根差した音の摂理からちょっと離れた、
純粋に「トニカ以外の音を集めた和音」という意味を持つのかもしれない、
なぞと考えました。
そしてそれはあたかも
ベートーヴェンの代表作といって過言でない《第9》の歌詞の冒頭、
「Nicht diese Toene!(これらの音ではない!)」
という言葉と一致するよう、思えてしまいました・・・
《熱情》終楽章冒頭の和音の音は全て、
その音楽の主調に合っている音ではひとつもないのだから・・・
まさに、「Nicht diese Toene!(これらの音ではない!)」!?
「そうではない!」と、
この人ベートーヴェンは人生の内において
いったい何度叫んだことでしょうか・・・!?
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