音楽家ピアニスト瀬川玄「ひたすら音楽」

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ドビュッシー作、オペラ《ペレアスとメリザンド》を解釈① ~ 登場人物のキャラクターについて

2018年12月08日 | ドビュッシー Claude Debussy
ついに…明日が、
ドビュッシー唯一の完成されたオペラ
《ペレアスとメリザンド》サロン公演の本番の日となりました…

今をご活躍中の素晴らしい歌手の方々にご参加いただき、
この公演が出来ますこと、心より感謝の念で一杯です!!
よろしくお願いいたします♪

明日と明後日、ご来場のお客様には、
オペラ音楽芸術としてお楽しみいただけますよう、皆で頑張る次第です♪


さて、そんな本番前日の練習の最中、ふと、
明日の演目《ペレアスとメリザンド》についての
「解釈」(=解説?)をここに文章にまとめてみるのはどうかと…思い付きました。

明日は幕間にピアノ弾き(=私…)が解説をはさみながらの上演となりますが、
話しが長過ぎて上演時間が無駄に伸びてしまうことを避けるべく…
台本を作って話すことにしています。

よって、そこでは限られた時間、そこで説明し足りない部分を、
ひとつここに書いてみようかしら!?と思い至りました。


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●まずは登場人物メリザンドについて。
メリザンド役の清子さんとも相談の結果、年齢は17歳くらいでどうだろうか?となりました。…とても若い!?

歌詞にも、ゴローが「貴女は若く見える…何歳ですか?」と問うシーン【1幕1場】があります。メリザンドが全くその質問に答えずに無視(笑)するのが面白いです。(まぁ、レディに対して失礼な質問ではありますが…あるいは年齢不詳の魅力が強すぎて、問わずにはいられなかったとか!?)

そう…メリザンドは頻繁に、聞かれたら質問に答えずに、あらぬ方向に話を切り出すクセがあるようです(笑)
これを、意図的に答えたくないことから逃げていると解釈するのか、はたまた、素で・天然でそうしているのか…
今回は考えてみた結果、後者の「素で・天然で、全く悪気なく」人の言葉が耳を素通りするメリザンド、と思われました。

「もらった王冠」を水の中に沈めて放っておく【1幕1場】は、彼女が「姫」であろうこと…更には推測の粋を出ませんが、おそらくは「水の世界の出身」ではないだろうか?とも私は思っています…
ようするに、オンディーヌみたい!?

まとめると、この世界の住人ではなく(水の世界から逃げ出してきた!? そういえば、「逃げ出してきた」というセリフが確かにあります…)、姫で、美人で(ゴローが彼女の顔を初めて【1幕1場】見るやいなや「おぉ、貴女は美しい!」と感嘆します。一方のメリザンドは「触らないで!触ったら水に飛び込みます」と、ドン引き…)、まだ二十歳にもなっていない…
だから、素で・天然で、なんの悪気もなく、自分の素直な感情で言葉を発し、行動しているのではないだろうかと…

そんな不思議ちゃん!?メリザンド像を、私は思い描いています。

そういえば、メリザンドのことを言い現わす決定的な言葉がありました!
老アルケル国王が【4幕2場】で言う「偉大なる無垢innocence」は、
彼女の本質を的確に表しているのでしょう。

指輪を無くしたことをゴローに指摘され、言い訳をし、あらぬ嘘を思い付いたかのように並べ立てる(少年イニョルドのために貝を拾いに行った、という嘘…本当はペレアスと一緒だった…)メリザンドは、まだまだ青臭い娘と思われる…そんなシーン【2幕2場】もあります。

何かというと「私は幸せではない」というセリフで幕が閉じる…【2幕2場】【4幕2場】…なんとも悲しげな言葉です…

一方では、【4幕4場】にては、ペレアスを前に、お互いの愛の告白の後、「私は幸せ」と言います!「でも、私は悲しい」…と直後に続くのが、また意味深でもあり、メリザンドの素直かつ複雑な胸のうちが垣間見れる、印象的なシーンもあります【←城の門が閉じる直前】


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●次に男性陣、ペレアスとゴローについて書いてみたいと思います。
この二人のキャラクターについては、メリザンドほど謎に満ちてはなく、
私には分かりやすく感じられています。

なぜかといと、それはこのオペラの作曲者ドビュッシー本人を投影してみると、
一致する点が多いよう思われるからです。ようするに、ドビュッシーが
どんな人物であったかを知れると、色々と納得できるという!?

台本の作者はメーテルランク…しかし、オペラとして音にしたのはドビュッシー…すると、オペラ作品としてこの《ペレアスとメリザンド》を念頭に置く身の上としては、男性の主役・準主役(主役二人といっても過言ではない!?)は、どちらもドビュッシーその人の様々な面をそれぞれに表しているよう、感じられるのです。

では具体的に、登場人物とドビュッシーの性格とを見比べてゆきますと…

●ペレアスは、若かりし頃のドビュッシーその人のようです。
(…この作品を作曲当時は、正に「若いドビュッシー」の時期であります)
具体例を挙げるならば、
・面食いの美女好き…(恋人のギャビー、最初の結婚相手となるリリーはどちらも長髪の美女…)
・繊細で破滅的な女性も好み!?(自作のカンタータ《選ばれし乙女》の主人公もそう…)、
・相手のいる女性ばかりを好きになってしまう危険な性質…
・パルコニーから忍び込んで逢引きしたこともあったとか!?

…以上は、実際のドビュッシーの女性遍歴だそうです…

ペレアスの、兄ゴローの妻であるメリザンドを好きになってしまい、
ことある毎に彼女に近づいては、あるいは遠ざかり…
若年ゆえにか周囲が見えず、自分勝手な振舞いを…しかし
全ては悪気なく、素直な心情と行動ゆえに…
これは、メリザンドにも同じような「若さ・無垢さ」があるよう、
その点で二人は似た者同士とも言えましょうか。

【2幕1場】では、無邪気にもメリザンドを自分のお気に入りの公園の泉に誘う様子、
ゴローとの関係が気になっているようで…そんな聞きにくいであろうことを
直に問いかけてしまうストレートさは…初心(うぶ)!?それとも無謀!?

「P:彼のことが好きなの?」
「M:いいえ…彼は私にキスしようとしてきました」(←それを言う…!?)
「P:貴女はしたくなかったの?」
「M:したくなかった…」
「P:それはどうして?」

…なんとも微妙なやりとり…最後の問いにメリザンドは答えず、

「M:あぁ!水の中に何かが輝いている!」と
突然話を切り替えてしまうのは…わざとなのか、素なのか?は、
上記メリザンドの項にて触れました。

【3幕1場】にて、
塔の上から落ちてきたメリザンドの髪の毛に夢中で戯れるペレアス…
「P:貴女の髪が、落ちてきたよ~~~!!!」
「P:見て、僕は貴女の髪を抱きしめ、首に巻き付け、唇にあてるよ…」
「P:まるで空から落ちてきたかのよう、貴女の髪を透かしても空はもう見えない…」
「P:僕の手の中で震えている、金色の小鳥みたいに、そして僕をこんなに愛おしんでくれる!」
「P:いや…離さない…髪は枝に結び付けた、貴女は今夜は私の奴隷…一晩中…」

…そしてゴローが近づいてくるのが分かったところで、

「P:ちょっと待って…髪が枝に絡まって離れない…待って…」

…というピンチに…
二人でいるところを、ついにはゴローに見付かってしまう、というわけです…

「G:ここで貴方達は何をしている?」という問いに
「P:何をしているかって?僕は…」

言い訳もできずに口ごもるペレアス…



●一方のゴローは、ペレアスよりも年長者。
二人は兄弟だそうで、父は老アルケル王、母はジュヌヴィエーヴといって、
両親はともに劇中に登場します。(今回のサロン公演では両者欠席…)

ゴローの風貌については、
既に白髪交じりで髭も白いことをメリザンドに指摘されます【1幕1場】
その直前、ゴローはメリザンドに初めて「貴方は誰ですか?」と問われて
「私はゴロー、アルモンド国の王アルケルの息子、王子です」と答えたところ、
王子であることに驚きもせずスルーして、彼の白髪を指摘するメリザンド…その心理やいかに!?
彼女自身が姫であるなら、相手が王子であろうと、驚くには値しなかった、
ということになるでしょうか!?

ゴローの性格として挙げるべきは、彼の怒りっぽさ・癇癪もち!?というところでしょうか。
【2幕2場】では、狩で落馬し傷ついて、部屋のペットで休んでいるところ、
メリザンドが看病しようとするのをことごとく辞退するマイペース(俺様!?)っぷり…
そこに悪気は無さそうなのですが、
しまいにはメリザンドは泣き始めてしまいます…

「G:なぜ泣く?なんの理由が?王のせい?母?それともペレアス!?それとも、私から離れたいのか!?」
全ての質問に「M:そうではありません!」と答えるメリザンド…
「G:この城と国土が陰湿なのが気に入らないのか?いずれ慣れるさ…」と慰めるゴロー…
「M:そうです…ここには光が届かないのです」
「G:そんなことで泣くものではない…まるで子供だよ…私に出来ることならなんでもしよう!」

そしてメリザンドの手を取り、しかしその指には結婚の際にあげた指輪が無いことに気付き、
徐々に豹変してゆく…
真夜中であるにも関わらず、「いますぐ取りに行ってこい!」と命令…
「闇夜が怖いのならば、ペレアスを連れてゆくがよい!あいつは、やるときはやる男だ」と、
恋敵!?の可能性あるペレアスを指名し同伴させようとする、盲目的激高!?

…実際のドビュッシーも、気難しい性格の持主であったようです…
人に対して愛想がいいとは全く言えず、初対面は苦手で基本的には無口…
相手に心が許せるようになってくると饒舌になるそうですが、
そうすると機知に富んだ皮肉が飛び交うとのこと…
一人娘シュシュが言うには「私、もうピアノを弾きたくない…だってお父さんが怒りだすから…」
とのこと…

ゴローの気難しさに、ドビュッシーは自身を投影してはいないでしょうか?
またある別の面では、ペレアスに?

ゴローは徐々に疑心暗鬼となり、
今回のサロン公演では出来ませんが、【3幕4場】では、
自分の息子である少年イニョルドを肩車して窓から覗かせ、
室内にいるペレアスとメリザンド二人の様子を報告させようとします。
二人は何もしておらず佇んでいるだけ…しかしそれを信じることが出来ず、
激高しながら二人の様子をイニョルドに問い続けるゴローの錯乱っぷり!?
イニョルドは痛がり、怖がり、「お父さん、降ろして!」と懇願…
これもまた心痛い悲劇的なシーンです…

【4幕2場】にて、メリザンドの髪を掴んでは引きずり回す…
傍若無人な振舞いは実に恐ろしいものです…ドメスティック・ヴァイオレンス…
ドビュッシーも、まさかこんなことを…!?(いや、そこまではきっとなかったでしょう、と私は想像します…。)

…なんだか、すっかりゴローは悪人のような風に書いているかもしれませんが、
物語では、その最後にフォローがなされているかのように【5幕】があるのです。(今回は割愛…)
そこでは、弱り果て、起き上がることの出来ないメリザンドの周囲に集まる
老アルケル王と医師、そしてゴローがやってきての最終シーン…
ゴローは謝罪し、メリザンドは「貴女を憎んではいない」という…
メリザンドは赤ん坊を出産し、そのまま帰らぬ人に…

…いずれにせよ、悲劇です…


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