Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(7月7日)

2023年07月07日 | COVID-19
今回のキーワードは,long COVIDに特徴的な症状が特定され,診断のためのPASCスコアが開発された,SARS-CoV-2ウイルスは神経細胞を融合させる,迷走神経機能障害はlong COVIDの病態機序において重要な役割を果たしている,メトホルミンはlong COVID予防薬としての効果が期待される,ワクチン接種はlong COVID発症を予防する,です.

Long COVIDの病態機序としてとくに持続感染が注目されていますが,持続感染がどのように神経障害を引き起こすかは十分解明されていません.今回,SARS-CoV-2ウイルス感染が,神経細胞同士を融合させてしまい(Cyncytiaといいます),機能障害を引き起こし,ブレインフォグや認知症をもたらす可能性が示されました(図1).まだヒト患者脳では証明されていませんが,今後,事実かどうか明らかにされると思います.またlong COVIDの予防薬として期待されていた糖尿病治療薬メトホルミンの有効性が第3相試験でも確認されました!さらにmRNAワクチンもCOVID-19の重症化予防のみならず,long COVIDの予防にも有効であることが大規模研究で確認されました!



◆long COVIDに特徴的な症状が特定され,診断のためのPASCスコアが開発された.
米国からlong COVID,もしくは PASC(post-acute sequelae of SARS-CoV-2)に特徴的な症状を見出し,診断のためのPASCスコアを作ること,ならびにワクチン接種や感染回数がPASCに及ぼす影響について検討した大規模前向き観察コホート研究が報告された(NIHが指揮するRECOVER研究の第一弾).RECOVER研究の目的は3つで,PASC の臨床症候と病態生理を定義すること,自然史と有病率を決定すること,後遺症の機序を明らかにすることである.9764人の参加者が選択基準を満たした.初感染後30日以内に登録された2231人のうち,6カ月後にPASCと診断されたのは10%(224人)であった.感染者と非感染者を比較し,37の症状が調整オッズ比1.5以上となった.PASCスコアに採用された症状としては,労作後倦怠感,疲労,ブレインフォグ,めまい,胃腸症状,動悸,性的欲求・能力の変化,嗅覚・味覚障害,口渇,慢性咳嗽,胸痛,運動異常症であった.最も重症の群は,労作後倦怠感と中枢神経系機能障害を主徴とし,最も軽症の群では嗅覚障害を主徴とした.各症状に重み付けした値をつけ,その合計で算出されるPASCスコアのカットオフ値は12で(図2),SARS-CoV-2感染者全体の23%に合致するものとなった(感染の既往がない人の4%がこのカットオフ値を満たした).この定義によるPASCはワクチン接種を受けていない参加者で頻度が高く,Omicronコホートでは,複数感染者が1回感染者より頻度が高かった.
JAMA. May 25, 2023.(doi.org/10.1001/jama.2023.8823)



◆SARS-CoV-2ウイルスは神経細胞を融合させる
SARS-CoV-2ウイルスが特定の細胞同士を融合させる可能性が指摘されていた.具体的には重症患者の剖検肺で,シンシティア(Cyncytia)と呼ばれる大きな多細胞構造を認め,呼吸器障害の一因である可能性が指摘されていた.このような細胞融合をきたすウイルスとしてHIV,狂犬病,日本脳炎,麻疹,単純ヘルペスウイルス,ジカウイルスが知られていた.オーストラリアからこのシンシティアが脳内で生じるかを検討した研究が報告された.遺伝子組換えで赤もしくは緑の蛍光を発するマウス神経細胞を培養し,SARS-CoV-2ウイルスに感染させると融合し,黄色を示す細胞が観察された.マウスおよびヒト脳オルガノイド(ミニ脳)を用いた実験でも,ニューロン間およびニューロンとグリア間の融合が観察された.ただし肺と異なり融合は細胞体のみでなく,樹状突起や軸索で主に生じていた(図3).また通常,神経細胞は独立して発火し信号を伝達するが,融合した神経細胞の90%は同時に発火し,10%は活動しなかった.さらにスパイク蛋白を発現するように神経細胞を操作したところ,ACE2を発現している細胞とのみ融合が生じた.つまり感染細胞に発現するスパイク蛋白が,他の細胞上のACE2に結合し融合を誘導する可能性が考えられた.
Sci Adv. 2023 Jun 9;9(23):eadg2248.(doi.org/10.1126/sciadv.adg2248)



◆迷走神経機能障害はlong COVIDの病態機序において重要な役割を果たしている
Long COVIDの病態機序のひとつとして,SARS-CoV-2ウイルス感染に伴う迷走神経機能障害の可能性が指摘されていた.この可能性を検証するために,迷走神経障害を示唆する症状を有するlong COVID患者30人(迷走神経障害群)と,急性COVID-19から完全に回復した患者14人(回復群),および非感染者16人(非感染群)を対象として,種々の迷走神経機能検査を行った.まず最も多く認めた症状は,認知機能障害(83%),呼吸困難(80%),頻脈(80%)であった.回復群/非感染群に比べ,迷走神経障害群では頸部超音波検査で迷走神経の肥厚と高輝度を認める傾向があった(左迷走神経断面積: 2.4対2.0対1.9mm2,p=0.080).また横隔膜曲線の扁平化(47%対6%対14%,p=0.007),食道蠕動運動の低下(34%対0%対21%,p=0.020),胃食道逆流(34% vs 19% vs 7%,p=0.130),食道裂孔ヘルニア(25%対0% 対7%,p=0.050),機能的呼吸テストにおける最大吸気圧の低下(62%対6%対17%,p≦0.001)を認めた(図4).以上より,迷走神経機能障害はlong COVIDの病態機序において重要な役割を果たすものと考えられた.
Lancet preprint. Available at SSRN: https://ssrn.com/abstract=4479598 or http://dx.doi.org/10.2139/ssrn.4479598



◆メトホルミンはlong COVID予防薬としての効果が期待される
感染後すぐにメトホルミン,イベルメクチン,フルボキサミンによる外来治療を行うことで,long COVIDのリスクが低下するかを検討した研究が報告された.米国の6施設で無作為化四重盲検第3相試験(COVID-OUT)を実施した.対象は発症7日未満で,登録前3日以内に感染が証明された30~85歳の過体重または肥満の成人をとした.2×3の並行要因ランダム化により,メトホルミン+イベルメクチン,メトホルミン+フルボキサミン,メトホルミン+偽薬,イベルメクチン+偽薬,フルボキサミン+偽薬,偽薬+偽薬の投与群に割り付けた.1431人が無作為に割り付けられ,うち1126人が長期フォローアップに同意し,1126人中1074人(95%)が少なくとも9ヵ月の追跡を完了した.1126人のうち93人(8.3%)が300日目までにlong COVIDと診断された.300日目までのlong COVIDの累積発生率はメトホルミン投与群で6.3%,偽薬群で10.4%であった(ハザード比0.59;p=0.012)(図5).発症後3日以内にメトホルミンを開始した場合,HRは0.37であった.イベルメクチン(HR 0.99)またはフルボキサミン(1.36)は無効であった.以上より,メトホルミンは,偽薬と比較してlong COVID罹患率を約41%減少させ,絶対減少率は4.1%であった.メトホルミンは世界的に入手可能で,安価で,安全で,long COVID予防薬としての効果が期待される.機序としては抗ウイルス作用(mTOR阻害),抗酸化ストレス・抗炎症作用が推測されている.
Lancet Infect Dis. 2023 Jun 8:S1473-3099(23)00299-2.(doi.org/10.1016/S1473-3099(23)00299-2)



◆long COVIDはワクチン接種により抑制され,再感染により増加する
ワクチンはCOVID-19の重症化予防に有効であることが示されているが,long COVID予防の効果については不明である.このため英国,スペインのプライマリケア記録とエストニアの国民健康保険請求書を用いてコホート研究を行った.CPRD GOLD(英国),CPRD AURUM(英国),SIDIAP(スペイン),CORIVA(エストニア)から,1,618,395人,5,729,915人,2,744,821人,77,603人以上のワクチン接種者と,1,640,371人,5,860,564人,2,588,518人,302,267人以上のワクチン未接種者が組み入れられた.このうち,CPRD GOLDでは3,147例,CPRD AURUMでは36,490例,SIDIAPでは121,535例,CORIVAでは20,332例の長期COVID症例が同定された.部分分布ハザード比(sHR)はそれぞれ0.55,0.64,0.84,0.62であった.比較有効性解析では,BNT162b2(ファイザーワクチン)がChAdOx1(アストラゼネカワクチン)より良好な予防効果を示した(CPRD GOLDではsHR 0.77,CPRD AURUMでは0.73).またLong COVIDは再感染により増加した(図6).以上より,ワクチン接種により,long COVIDリスクは一貫して減少した.この結果はlong COVID予防におけるワクチン接種の重要性を示すものである.
Lancet preprint. Available at SSRN: https://ssrn.com/abstract=4474215 or http://dx.doi.org/10.2139/ssrn.4474215

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