アミロイドβはアルツハイマー病(AD)治療の重要な標的分子です.脳では,アストロサイトの足突起に存在する水チャネル,アクアポリン4(AQP4)がアミロイドβのクリアランスに関与しており,ADでは血管周囲に存在するAQP4の割合が減少していることが分かっています.近年,ストップコドンリードスルーイベント,つまり終止コドンを読み飛ばしてペプチド鎖が長くなる変異によりAQP4のC末端が伸長した変異体(AQP4X)が生じること,そしてこのAQPXは血管周囲にのみ存在することが明らかになっています.これは「翻訳リードスルー」と呼ばれる現象で,リボソームが停止コドンをセンスコドンに変換することにより,同じmRNAから2種類のタンパク質が合成される現象を指します.しかしこのAQP4Xがアミロイドβのクリアランスに特異的に関与しているかどうかは不明でした.
Brain誌に非常に興味深い論文が発表されました.ワシントン大学のSapkotaらはこのAQP4Xを欠損するマウス(AQP4No_X)を作製し,ADを発症するAPP/PS1マウスモデルと交配すると,間質液中のアミロイドβレベルが,AQP4Xを発現しているマウスと比較して2倍に増加していることを明らかにしました.またヘテロ接合体でもアミロイドβのクリアランス障害が認められ,AQP4Xの比率がアミロイドβのクリアランスに重要であることが示されました.
さらに著者らはハイスループット薬物スクリーニングを用い,2560化合物の中からAQP4Xの翻訳リードスルーを促進する(すなわちAQPX発現を増加させる)2つの化合物として,ヒトにも使用されるアピゲニンとサルファキノキサリンを特定しました.そしてマウスを用いたin vivoの実験で,これらの化合物が8時間以内に間質液のアミロイドβレベルを低下させることを示しました.つまりAQP4Xの調節により,脳疾患におけるglymphatic systemを制御できる可能性を示したわけです.これらの薬剤は,アミロイドβのクリアランス促進のみならず,αシヌクレイン,タウ,TDP43など他の凝集タンパク質のクリアランスも促進する可能性があります.翻訳リードスルーを標的とした治療は神経変性疾患において新しい概念であり,低分子薬であり今後の臨床応用が進められる可能性も高く,とてもワクワクした論文でした.
Sapkota D, et al. Aqp4 stop codon readthrough facilitates amyloid-β clearance from the brain. Brain. 2022 Sep 14;145(9):2982-2990.(doi.org/10.1093/brain/awac199)
Brain誌に非常に興味深い論文が発表されました.ワシントン大学のSapkotaらはこのAQP4Xを欠損するマウス(AQP4No_X)を作製し,ADを発症するAPP/PS1マウスモデルと交配すると,間質液中のアミロイドβレベルが,AQP4Xを発現しているマウスと比較して2倍に増加していることを明らかにしました.またヘテロ接合体でもアミロイドβのクリアランス障害が認められ,AQP4Xの比率がアミロイドβのクリアランスに重要であることが示されました.
さらに著者らはハイスループット薬物スクリーニングを用い,2560化合物の中からAQP4Xの翻訳リードスルーを促進する(すなわちAQPX発現を増加させる)2つの化合物として,ヒトにも使用されるアピゲニンとサルファキノキサリンを特定しました.そしてマウスを用いたin vivoの実験で,これらの化合物が8時間以内に間質液のアミロイドβレベルを低下させることを示しました.つまりAQP4Xの調節により,脳疾患におけるglymphatic systemを制御できる可能性を示したわけです.これらの薬剤は,アミロイドβのクリアランス促進のみならず,αシヌクレイン,タウ,TDP43など他の凝集タンパク質のクリアランスも促進する可能性があります.翻訳リードスルーを標的とした治療は神経変性疾患において新しい概念であり,低分子薬であり今後の臨床応用が進められる可能性も高く,とてもワクワクした論文でした.
Sapkota D, et al. Aqp4 stop codon readthrough facilitates amyloid-β clearance from the brain. Brain. 2022 Sep 14;145(9):2982-2990.(doi.org/10.1093/brain/awac199)