Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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Hypodense MCA sign って知ってた?

2005年09月16日 | 脳血管障害
Hyperdense MCA signは言わずと知れたearly CT signのひとつである.early CT signは脳梗塞の超早期に見られるCT異常所見であり,①hyperdense MCA sign(閉塞した中大脳動脈が高吸収域を呈する) ②脳溝消失,③島の白質と皮質の境界の不明瞭化といったものが知られている.もちろん,これらの所見が有意な所見であるかの判断は実際の臨床の場では難しい.とくにhyperdense MCA signはヘマトクリット値が高い例や動脈硬化の高度の例では類似の所見を呈することがある(ただしこれらの例では一般に両側性になる).よって反対側との比較を行うことと,臨床所見を参考にすることが重要である.
さて今回の話題はHypodense MCA sign.Hyperの間違いかなと思ってCTを見たら,確かに左MCA(M1)が黒く抜けている.この患者さんは78歳女性で僧帽弁閉鎖不全に対し,弁置換術が行われた.術後1日目に,右麻痺,失語症を呈し,CTを撮ったら,MCA領域の広範な梗塞と上記の所見が認めたというわけだ.さて何が起こったのか?
 Hounsfield Unit(いわゆるCT値)を測定してみると-25Hとfat densityであった.すなわち術中に脂肪塞栓が頭蓋内に飛んだということになる.一般に,脂肪塞栓は長管骨骨折後などに認められ,その際,肺塞栓による呼吸障害や点状出血が認められる.またVenous to Arterial shuntを認める症例では脂肪塞栓によって脳梗塞が生じたという報告はあるが, 弁置換術後に脂肪塞栓による脳梗塞が生じたという報告はかなり稀のようだ.著者らは心臓内・心臓周囲の脂肪組織,もしくは大血管のfatty atherosclerotic plaqueが脂肪塞栓として脳へ飛んだのだろうと推測している.
病態については良くは分からないが,あまり知られていないCT所見なのでここで取り上げた.腕の良くない心臓外科医と一緒に働いている神経内科医には役に立つ知識かもしれない.

Am J Neuroradiol 26; 2027-2029, 2005
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