Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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平成18年度の診療報酬改定とリハビリテーション ―原文を読む―

2006年04月16日 | 医学と医療
 平成18年度の診療報酬改定で,今月から,発症から180日を上限に医療機関でリハビリテーションを受けることができなくなった.これまで医療機関で,保険診療として無期限に受けられたリハビリテーションが,一部の疾患をのぞき,上限期間を過ぎると打ち切られるというわけだ.患者さんがリハビリを続けたいと思ってもそれができなくなり,また,医師が「必要あり,効果あり」と判断しても,そのような裁量が奪われてしまったわけである.この期間を過ぎると,介護保険を使って,自宅で訪問リハビリを受けるとか,自費で整骨院に通うぐらいしかできない.
 診療報酬に疎い私でも,さすがに今回のリハビリテーション改革には疑問を持ち,「まず原文を読もう」というポリシーに則って,「平成18年度の診療報酬改定における主要改定項目」を読んでみた(37ページあたりから記載が始まる).
 まず,リハビリテーションは「疾患別体系」へ見直しされるそうである.「理学療法,作業療法,言語聴覚療法を再編し,新たに4つの疾患別リハビリテーション科が新設」された.そして,それぞれ疾患群別に算定日数の上限が定められた.

脳血管疾患等リハビリテーション (180日)
運動器リハビリテーション (150日)
呼吸器リハビリテーション (90日)
心大血管リハビリテーション (150日)

そして以下の文章がつづく.
「長期間にわたって効果が明らかでないリハビリテーションが行われているとの指摘があることから,疾患の特性に応じた標準的な治療期間を踏まえ,長期にわたり継続的にリハビリテーションを行うことが医学的に有用であると認められる一部の疾患等を除き,算定日数に上限を設定する」

「リハビリテーション医療の必要度の高い患者に対し重点的にリハビリテーション医療を提供する観点から,集団療法にかかる評価は廃止し,個別療法のみにかかる評価とする」

 ・・・・はぁ??「長期間にわたって効果が明らかでないリハビリテーションが行われている」って誰が指摘しているのだろう?「疾患の特性に応じた標準的な治療期間」って誰が決めるのだろう?そして「長期にわたり継続的にリハビリテーションを行うことが医学的に有用であると認められる一部の疾患等を除き」とはどういうことだ?これはわれわれが初めて経験するEBMを治療切捨てのための道具として使用する「EBMの悪用」以外のなにものでもない.リハビリテーションが有効であるというエビデンスのない(もしくは,まだ検討できていない)疾患に対しては,リハビリテーションは打ち切らねばいけないと言っているのである(神経難病もこれに含まれてくる危惧さえある).

 そして一番大きな変化は,「PT,OT,STによるリハビリ」から,「4つの疾患群に分類したリハビリ」へという大きなパラダイム・シフトをむりやり起こしたことである(プロ意識を持っているPT,OT,STさんはさぞ悔しかろう).「疾病や傷害の特性に応じた評価体系に変える」そうだが,みんな納得できるのであろうか?リハビリをされているひとであれば,もしくは医療に関わっているものであれば,リハビリに要する治療期間や必要性は,疾患の種類によってのみ決まるという単純なものではなく,個々の状況とか意欲とかさまざまな要素によって決まることは知っているはずだ.もちろん,今回定められた上限で,リハビリテーションが十分なひともたくさんいるだろう.でも私が強調したいのは,上限を定めることによって,リハビリテーション医療を本当に必要としているひとから奪ってはいけないということだ.

 そのほかにも,回復期リハビリテーション病棟入院料も見直しされ,「脳血管疾患,脊髄損傷等の発症または手術後2ヶ月以内の状態」が算定対象になるそうだ(現行は3ヶ月以内).つまり急性期病院からの転院が発症から2ヶ月を越えてしまったら,回復期リハビリ病棟でのリハビリの機会が奪われてしまうことになった.幸い回復期リハビリ病院に転院できたとしても,発症後180日までしかリハビリは許されない.つまり嚥下障害による誤嚥性肺炎になんてかかっている暇はないのだ.患者・家族にしても,主治医にしても時間との戦いになるわけだ.

 医療ミスがどんどん糾弾される昨今だが,こんな医療政策ミスは放っておいていいのだろうか?国家財政が苦しいときほど,本当に医療やリハビリテーションを理解している人に政策の舵取りを取ってもらいたい.今回の改訂により患者,医療現場が受けるダメージはきわめて大きい.

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11 Comments

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Unknown (時田紫川)
2006-04-16 18:26:24
 こんにちは。整形外科クリニックのリハ室に勤務する鍼灸師・あん摩指圧マッサージ師です。今回の診療報酬改定はそれほど遠くない未来にまた改定されるような気はします。そう感じさせるほど今回の改定は現場とのギャップが大きいですね。ご存じとは思いますが、今回の改定で必ずしもリハ室にPTやOTは要らないという解釈ができるようになりました。実際にはリハ室で働いていない看護師や准看護師に運動器セラピストという資格?を取らせ、リハスタッフとして名前を借りてることになります。これまで黙認されていた無資格者によるリハ行為も保険点数上認められなくなりました。加えて国家資格を有する鍼灸師、柔道整復師も今回の運動器セラピストの受講資格が与えられていません。つまり無資格者と同様、リハスタッフとして保険点数上カウントできなくなりました。今回の運動器セラピストの受講料で運動器リハ学会は既に数億の収入を上げていることと思います。これも不思議な光景です。運動器リハは150日毎に疾患名を変えなくてはならないので、例えば腰椎椎間板ヘルニアから始まって、脊柱管狭窄症、変形性腰椎症+坐骨神経痛、腰椎圧迫骨折など言うように実際の状態と関係なく疾患名を変えていかなくてはなりません。これも本来、不要な作業で腹立たしいです。質問の窓口は各地域の保険事務局ですが、彼らも状況をよく把握できておらず、回答も曖昧なものばかりです。周辺の整形外科では4月に入って15%程度の収入ダウンだそうです。私の勤務するクリニックでは知恵を出し合い、前年度と比較して5%ダウンでとどめています。どちらにしてもこれからも大変です。患者さんの理解を得にくいのが困りますよね。厚生労働省がどういう構成メンバーで話し合っているのか見てみたいものです。臨床やっている人はおそらく居ないのでしょうね。
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ありがとうございました (pkcdelta)
2006-04-17 00:11:29
時田紫川さん,コメントありがとうございました.勉強になりました.

私も今回の疾患群別リハビリはうまく行くような気が全然しません.でも「悪法も法なり」なので,現場はこれから本当に大変だと思います.少しでも早く良い方向に軌道修正できるよう,患者,医療従事者,みんなで声をあげていかねばならないと思います.



(今回のリハビリ改悪に対し,何かムーブメントは始まっているのでしょうか?)
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リハビリ打ち切り問題 (Unknown)
2006-04-17 05:10:32
CRASEED Rehablog <Dr. Domen's Blog for Medical Rehab>

http://blog.goo.ne.jp/craseedblog

ここは情報が豊富です.
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ありがとうございます (pkcdelta)
2006-04-18 00:50:02
Unknown さん,時田紫川さん,コメントありがとうございます.

CRASEED Rehablog を拝見しましたが,とても勉強になりました.今回のリハビリ打ち切り問題に関して,署名活動も計画中のようですので,私も賛同したいと考えております.
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元に戻して! (kaneko)
2006-06-13 20:10:42
初めまして、今までリハビリに通っていた方々が、体調維持をしてきたのに 維持の方法が絶たれてしまった今、症状が悪くなってしまわないうちに、対策はしてもらえないのですか?国の中で障害がある方々は国益としてみていないと言う事なのでしょうか?介護をする側、される側 色々居られますが、国会議員の先生方の身内には、そう言う方が居られないからこの様な仕打ちとも言える法律を創ってしまわれた様ですね!早く助けて下さい!お願いします。
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時田紫川さん嘘はいけませんよ! (柔整師)
2006-06-18 00:11:11
4/16に時田紫川さんの記事を読ませて頂きましたが時田さんはこの記事で「鍼灸師、柔整復師も今回の運動器セラピストの受講資格が与えられてません。」と記されていたようですが柔整師はちがいますよ!詳しくはhttp://www.jsmr.org/conntents/terapist.htmlをご覧ください!この時田さんの記事を読んで何人の柔整復師がこのセラピストを諦めた事でしょうか?そう考えると時田さんの罪は計り知れないと思います!
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時田紫川さん嘘はいけませんよ! (柔整師)
2006-06-18 00:18:36
先ほどのHPのアドレスを間違えてしまいました!正しくはhttp://www.jsmr.org/contents/therapist.htmlでした!ごめんなさい!
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ご指摘ありがとうございました (時田紫川)
2006-06-22 00:45:56
 柔整師さん、紹介いただいたHPを拝見いたしました。ご指摘のあった通り、私のコメントには間違いがあったようです。ご存じかもしれませんが、日本運動器リハビリテーション学会は3月には問い合わせを避けるため、HPおよび協会の電話をクローズしていました。当時(3月上旬)、私が問い合わせたのは社会保険局と運動器セラピスト講習会を主催している当該県の日本臨床整形外科医会です。「鍼灸師、柔道整復師は受験資格がない」と担当者より説明を受けました。ただ結果として誤りをネット上に載せてしまったのは大いに反省すべき点です。流動的な情報を確定しているように掲載したのは原著を読まずに孫引きするようなものです。上記のような経過報告をして、事実だけを載せるべきでした。現在は「鍼灸師はダメ」「柔整師はOK」となっているのですね。“あん摩マッサージ指圧師等”の等に結局、鍼灸師は入らず、柔整師は入ることができたのですね。今頃になってですが、現状および事実を確認できて良かったです。柔整師さん、ありがとうございました。
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リハビリ打ち切り問題 (R,T,マーちゃん)
2006-09-27 07:47:44
はじめまして、私は42歳の筋ジストロフィーです。

今年3月まで週1回でリハビリを受けていましたが、何の前触れもなく4月に入って突然リハビリをうちきられました。

病院に理由を尋ねましたが、制度が変わったからの一点張りでしまいには今の政治家を選んだ国民が悪い!とあたかも私たちの責任にさせられてしまいリハビリはおろか診察も打ち切られました。

しかたないので別の病院のケースワーカーさんに調べてもらったところ医療ポイントの改正もあり、それが原因ですべて打ち切られたとの事でした。

その後、私の体調はどうなったかはお察しのとうりです。

多分、私のような患者さんは、他にも多くおられるとおもいます。

10月からの自立支援法完全実施で1億の日本国民ほとんどがリハビリ難民になるでしょう。
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リハビリ全面打ち切り日 (pkcdelta)
2006-09-28 03:53:46
昨日,9月27日は,脳血管疾患のリハビリ全面打ち切り日でした.厚労省は44万人もの署名を無視し続けています.昨晩のNHKニュースウオッチ9では,いわゆる「リハビリ難民」の方々の病状の悪化や,重症例に対し費用持ち出しで対応している病院の取り組みを報道していました.厚労省の担当者の話はなんだか良く分かりませんでしたが,今回のリハビリ打ち切りの影響を調査するようでした.でも結果が分かるのは来年2月だそうです!何と悠長なことでしょう.厚労省は現状を速やかに把握し,対応すべきです(というか,影響をあらかじめよくアセスメントしてから実行すべきものでしょう?)
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