Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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心疾患患者の睡眠障害の原因はなんと頸部の神経節にあった!

2023年07月22日 | 医学と医療
心疾患患者の約3分の1が睡眠障害に苦しんでいると言われています.また睡眠ホルモンであるメラトニン濃度が低下することや,睡眠・覚醒サイクルの乱れが生じていることも知られています.これらの原因は不明でしたが,ミュンヘン工科大学からの研究で,心疾患が頸部にある神経節を介して,メラトニンを生成する松果体に影響を及ぼすこと(図1)がScience誌に報告されました.臓器と臓器を結ぶというこれまで知られていなかった神経節の役割を明らかにしたもので非常に驚きました.



まず著者らは,心疾患マウスの上頸神経節に原因不明ながら,マクロファージが多数存在することを見出しました.このマクロファージは上頸神経節に炎症と瘢痕化を引き起こし,神経細胞を障害します.マウスおよびヒトでは,この上頸神経節から神経軸索が松果体へとつながっており(wildDISCO技術で,神経軸索を追っています),心疾患マウスの進行期では,神経軸索および松果体が大幅に減少し,その結果,メラトニンも減少して,昼夜のリズムの乱れるものと考えられました.また心疾患患者の上頸神経節をエコーにて評価したところ,瘢痕化によると推測される顕著な肥大が認められました(図2).この所見は今後,心不全の指標になる可能性があります.



本研究は,2つの点で重要と思われます.まず上頸神経節における炎症を抑制することで,心疾患後に生じる回復困難な睡眠障害を予防できる可能性があります.もうひとつは神経節を介してつながり障害を受けて発症する疾患が,心臓―松果体以外にも存在する可能性があり,そのような疾患の系統的な探索が始まり,新しい治療につながるかもしれません.神経節に今後,注目が集まるものと思います.
Ziegler KA, et al. Immune-mediated denervation of the pineal gland underlies sleep disturbance in cardiac disease. Science. 2023 Jul 21;381(6655):285-290. (doi.org/10.1126/science.abn6366)

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