標題の学会(大会長.東京大学.戸田達史先生)が7月20日から3日にかけて行われました.私は「免疫性疾患と不随意運動アップデート ―新規抗体と治療可能性―」という教育講演をさせていただきました.以下のようなスライドを使用しました(下記からDL可能です).
スライドへのリンク
そして私のMDSJの一番の楽しみは,学会員が経験した貴重な患者さんのビデオを持ち寄り,その不随意運動や診断・治療について議論するビデオセッションです.今年の11症例の一覧をご紹介します.久しぶりに対面で開催されましたが,非常に楽しく,勉強となるdiscussionになりました.
症例1.ふらつきが強く歩行困難となった高齢男性
82歳.主訴は歩行困難.既往歴に部分てんかん(フェニトインで治療).急性発症のめまい,後方に倒れる転倒.ろれつ緩慢.認知機能低下.左優位の筋強剛,注視方向性眼振.体幹と下肢に強い運動失調.姿勢保持障害.手を動かすと足が動くsynkinesis(共同連合).頭部MRIで異常なし.
診断:フェニトイン中毒(血中濃度46.7μg/mL)
症例2.書字の際に力が入ってしまうという症状で初発した40歳代女性
母が50歳代で脊髄小脳変性症と診断されている.9年前から書字の際に力が入るようになる.6年前から歩行時のふらつき.神経学的には書字の際のジストニア.上肢に目立つ運動失調を認める.頭部MRIでは小脳萎縮を認める.
診断: SCA14 (PRKCG遺伝子変異)(全エキソーム解析)
症例3.可逆性の片側性パーキンニズムを呈した30歳代男性
36歳男性.5ヶ月前から右上肢に振戦を認める.発達遅滞があり.家族歴や内服歴なし.眼球運動は衝動性.右側に強い運動緩慢と安静時振戦(3-5Hz).
診断:蝶形骨洞の髄膜腫
症例4. 顕著な左上肢の不随運動で発症した49歳男性例
突然発症の疲労,左上肢の振戦.両手のしびれ.当初,脳卒中が疑われた.左側優位の振戦は運動時および姿勢時に認められた(Holmes振戦).腱反射亢進.歩行の不安定性.CD4細胞↓.頭部MRIで歯状核,中小脳脚,視床に異常信号.JCV陽性.
診断:進行性多巣性白質脳症(PML)
症例5.亜急性の失調性歩行で発症した68歳男性
一ヶ月の経過で歩行が不能になった.糖尿病あり.上下肢・体幹の運動失調.構音障害.注視方向性の眼振.sIL2R,CEAの上昇を認めた.頭部MRIで小脳萎縮は目立たない.肺に腺がん,またシェーグレン症候群も認めた.抗神経抗体はグリアジンIgAが弱陽性以外すべて陰性.免疫療法を行ったが無効.
診断:シェーグレン症候群?グルテン失調症?(未確定)
症例6.ある治療により低緊張・無動症状が改善した運動異常症の6歳男児例
成長発育遅延を認めた.2歳で立てなくなった.日内変動,睡眠効果もあった.3歳3ヶ月で低緊張・運動緩慢,仮面様願望を認めた.腱反射亢進しクローヌスを認めるがバビンスキー徴候陰性.頭部MRI異常なし.脳脊髄液のHVA↓HVA/5-HIAA↓↓6歳で開始したl-dopaが著効.
診断:チロシン・ヒドロキシラーゼ欠損症
症例7.ふらつきを主訴とし,手指の不随意運動とsplit handを認めた70歳代女性
母親に類症を認めた.5年前から階段が降りにくくなった.3年前からRBDを認めた.2年前から歩行障害が顕著になった.Split handの手指萎縮を認めた.上肢の姿勢時のこまかいふるえを認めた(ポリミニミオクローヌスないし線維束性収縮).神経伝導検査で運動・感覚ニューロパチー.表面筋電図はミオクローヌス・パターン.小脳・橋の軽度の萎縮.
診断:MJD/SCA3
症例8.頸部と上肢のふるえで発症した20歳代女性
1年前から頸部と右上肢のふるえが出現.一年前から不安障害.IQは70.右上肢の姿勢時振戦.頸部の細かい振戦はdystonic tremor.歩行もジストニア様.頭部MRI正常.DATスキャン低下.
診断:DYT28(KMT 2B遺伝子変異)
症例9.パーキンソンにズムに原因不明の呼吸不全を合併した一例
7年前から歩行障害.4年前パーキンソン病と診断され,当初l-dopa有効.2年前からいびき.1年前から幻覚,呼吸不全,CO2ナルコーシス.前傾姿勢,球麻痺,水平方向性の眼球運動制.バビンスキー徴候陽性.パーキンソニズム.吸気性喘鳴.%VC 48%.
診断:IgLON5抗抗体関連疾患
症例10.右肩が勝手に動いてしまう73歳女性
3年前から歩行障害.ベーチェット病の既往.右肩を連続して複数回持ち上げるような不随意運動.認知機能低下.腱反射亢進.LGI1,CASPR2抗体陰性.SPECTでCAPPARサイン.タップテストで歩行改善.
診断:iNPHに伴うバリズム・舞踏運動ないし機能性運動障害
症例11 左上肢の挙上を呈した50代女性の一例(当科経験例)
3年前からふらつきと構音障害.2年前から無意識に左上肢を頭上に伸ばし,手首を曲げる動作を繰り返すようになった.発症当初は1時間に数回であったが,徐々に増加し,当院入院時には15回/分となった.小脳性運動失調,パーキンソニズム.起立性低血圧.頭部MRIで両側のputaminal rim sign.機能性運動障害は考えにくく,手の挙上はarm levitationと考えられ,それに対応する対側頭頂~側頭葉の血流低下がある(ただし頭の上まで届くarm levitationは報告なし).MDS MSA診断基準のClinically Probable MSAを満たすが・・・MSAとは考えにくいとの意見が複数あり.OPCA-CBDのようなタウオパチーではないかという意見もあった.
診断:arm levitationを認めたclinically Probable MSA
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そして私のMDSJの一番の楽しみは,学会員が経験した貴重な患者さんのビデオを持ち寄り,その不随意運動や診断・治療について議論するビデオセッションです.今年の11症例の一覧をご紹介します.久しぶりに対面で開催されましたが,非常に楽しく,勉強となるdiscussionになりました.
症例1.ふらつきが強く歩行困難となった高齢男性
82歳.主訴は歩行困難.既往歴に部分てんかん(フェニトインで治療).急性発症のめまい,後方に倒れる転倒.ろれつ緩慢.認知機能低下.左優位の筋強剛,注視方向性眼振.体幹と下肢に強い運動失調.姿勢保持障害.手を動かすと足が動くsynkinesis(共同連合).頭部MRIで異常なし.
診断:フェニトイン中毒(血中濃度46.7μg/mL)
症例2.書字の際に力が入ってしまうという症状で初発した40歳代女性
母が50歳代で脊髄小脳変性症と診断されている.9年前から書字の際に力が入るようになる.6年前から歩行時のふらつき.神経学的には書字の際のジストニア.上肢に目立つ運動失調を認める.頭部MRIでは小脳萎縮を認める.
診断: SCA14 (PRKCG遺伝子変異)(全エキソーム解析)
症例3.可逆性の片側性パーキンニズムを呈した30歳代男性
36歳男性.5ヶ月前から右上肢に振戦を認める.発達遅滞があり.家族歴や内服歴なし.眼球運動は衝動性.右側に強い運動緩慢と安静時振戦(3-5Hz).
診断:蝶形骨洞の髄膜腫
症例4. 顕著な左上肢の不随運動で発症した49歳男性例
突然発症の疲労,左上肢の振戦.両手のしびれ.当初,脳卒中が疑われた.左側優位の振戦は運動時および姿勢時に認められた(Holmes振戦).腱反射亢進.歩行の不安定性.CD4細胞↓.頭部MRIで歯状核,中小脳脚,視床に異常信号.JCV陽性.
診断:進行性多巣性白質脳症(PML)
症例5.亜急性の失調性歩行で発症した68歳男性
一ヶ月の経過で歩行が不能になった.糖尿病あり.上下肢・体幹の運動失調.構音障害.注視方向性の眼振.sIL2R,CEAの上昇を認めた.頭部MRIで小脳萎縮は目立たない.肺に腺がん,またシェーグレン症候群も認めた.抗神経抗体はグリアジンIgAが弱陽性以外すべて陰性.免疫療法を行ったが無効.
診断:シェーグレン症候群?グルテン失調症?(未確定)
症例6.ある治療により低緊張・無動症状が改善した運動異常症の6歳男児例
成長発育遅延を認めた.2歳で立てなくなった.日内変動,睡眠効果もあった.3歳3ヶ月で低緊張・運動緩慢,仮面様願望を認めた.腱反射亢進しクローヌスを認めるがバビンスキー徴候陰性.頭部MRI異常なし.脳脊髄液のHVA↓HVA/5-HIAA↓↓6歳で開始したl-dopaが著効.
診断:チロシン・ヒドロキシラーゼ欠損症
症例7.ふらつきを主訴とし,手指の不随意運動とsplit handを認めた70歳代女性
母親に類症を認めた.5年前から階段が降りにくくなった.3年前からRBDを認めた.2年前から歩行障害が顕著になった.Split handの手指萎縮を認めた.上肢の姿勢時のこまかいふるえを認めた(ポリミニミオクローヌスないし線維束性収縮).神経伝導検査で運動・感覚ニューロパチー.表面筋電図はミオクローヌス・パターン.小脳・橋の軽度の萎縮.
診断:MJD/SCA3
症例8.頸部と上肢のふるえで発症した20歳代女性
1年前から頸部と右上肢のふるえが出現.一年前から不安障害.IQは70.右上肢の姿勢時振戦.頸部の細かい振戦はdystonic tremor.歩行もジストニア様.頭部MRI正常.DATスキャン低下.
診断:DYT28(KMT 2B遺伝子変異)
症例9.パーキンソンにズムに原因不明の呼吸不全を合併した一例
7年前から歩行障害.4年前パーキンソン病と診断され,当初l-dopa有効.2年前からいびき.1年前から幻覚,呼吸不全,CO2ナルコーシス.前傾姿勢,球麻痺,水平方向性の眼球運動制.バビンスキー徴候陽性.パーキンソニズム.吸気性喘鳴.%VC 48%.
診断:IgLON5抗抗体関連疾患
症例10.右肩が勝手に動いてしまう73歳女性
3年前から歩行障害.ベーチェット病の既往.右肩を連続して複数回持ち上げるような不随意運動.認知機能低下.腱反射亢進.LGI1,CASPR2抗体陰性.SPECTでCAPPARサイン.タップテストで歩行改善.
診断:iNPHに伴うバリズム・舞踏運動ないし機能性運動障害
症例11 左上肢の挙上を呈した50代女性の一例(当科経験例)
3年前からふらつきと構音障害.2年前から無意識に左上肢を頭上に伸ばし,手首を曲げる動作を繰り返すようになった.発症当初は1時間に数回であったが,徐々に増加し,当院入院時には15回/分となった.小脳性運動失調,パーキンソニズム.起立性低血圧.頭部MRIで両側のputaminal rim sign.機能性運動障害は考えにくく,手の挙上はarm levitationと考えられ,それに対応する対側頭頂~側頭葉の血流低下がある(ただし頭の上まで届くarm levitationは報告なし).MDS MSA診断基準のClinically Probable MSAを満たすが・・・MSAとは考えにくいとの意見が複数あり.OPCA-CBDのようなタウオパチーではないかという意見もあった.
診断:arm levitationを認めたclinically Probable MSA