Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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Long COVIDの病態の本質はセロトニンレベルの低下であり,既報の4つの病態仮説を結びつける!

2023年10月18日 | COVID-19
PASC(=Long COVID)の病態機序として,ウイルスの持続感染,神経炎症,凝固亢進,自律神経機能障害などいくつかの仮説があります.米国ペンシルバニア大学等から,これら4つの仮説すべてを1つに結びつける病態仮説が提唱されました.

まず研究チームはPASCを発症した1500人以上のコホートを追跡調査し,PASC患者と完全に回復した感染者を区別できるバイオマーカーの同定を目指しました.この結果,血漿セロトニンが,急性期COVID-19(中等症,重症)とPASCで減少し,回復した感染者では保たれていることを示しました(図1).



このセロトニン減少は,SARS-CoV-2ウイルス感染に特有のものではなく,他のウイルス感染の急性期あるいは慢性期のヒトやマウスでも観察され,またウイルスRNA模倣物質であるポリ(I:C)を投与したマウスでも観察されました(図2).



ここでウイルス感染がどのようにしてセロトニンの減少をもたらすかにテーマが移りました.チームは,ウイルスの感染,つまりウイルスRNAの自然免疫受容体Toll-like receptor 3(TLR3)への結合→1型インターフェロンの誘導→セロトニンの減少という経路を考えました.I型インターフェロンがセロトニンの減少が引き起こす機序として,①セロトニン貯蔵に影響を与える血小板の活性化亢進(=凝固亢進)と血小板減少,②セロトニンの前駆体である必須アミノ酸トリプトファンの腸管吸収の低下,③モノアミン・オキシダーゼ(MAO)を介したセロトニンの代謝亢進を示しました(図3).



腸はセロトニン産生・分泌に重要な役割を果たしているようです.図4は腸内分泌細胞のひとつである腸クロム親和性細胞の透過電顕像で,セロトニンを含む顆粒(緑色)が豊富に含まれていることが分かります.これが減少してしまいます.



そして末梢のセロトニン欠乏は,迷走神経の活性化の抑制を招き,腸脳連関の結果,認知機能障害に繋がっていきます.これが正しいか確認するために,ポリ(I:C)を投与し認知機能低下マウスに,セロトニンレベルを上昇させるトリプトファン(5-HTP)やカプサイシンを投与すると記憶障害が抑制されました(図5).



以上より,冒頭で記載した4つの病態が,セロトニン減少によってつながる一連の病態である可能性が示唆されました(図6).これらの知見はlong COVIDにおける認知機能障害の病態の説明となるだけでなく,他のウイルス感染後症候群にも当てはまる可能性があります.



Wong AC et al. Serotonin reduction in post-acute sequelae of viral infection. Cell. Oct 16, 2023.(doi.org/10.1016/j.cell.2023.09.013


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