Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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ALSにおけるうつの治療は生命予後を改善する可能性がある -患者報告アウトカムを用いた検討-

2016年02月27日 | 運動ニューロン疾患
筋萎縮性側索硬化症(ALS)では,病名の告知,病状の進行に伴い喪失する機能,人工呼吸器といった医療処置の選択など,さまざまな問題に直面するため,反応性のうつを生じやすい.うつの頻度については,医師が診断基準に照らし合わせて調査すると5~15%と低いものの,患者自身が質問票を用いて回答すると頻度が高くなることが知られ,検討の方法により乖離が生じる.また少数例の検討ながら,うつはALSにおける生命予後に悪影響を与える可能性が指摘されている.

今回,1,067名のALS患者さんを対象として,うつの頻度,長期的な経過,生命予後への影響を調査した大規模観察研究が米国Cleveland clinicから報告されたのでまとめたい.まず方法としては,近年注目されている患者報告アウトカム(patient-reported outcome;PRO)を用いている.PROは患者さんから直接得られた症状やQOLに関する測定値である.患者さん自身が判定し,その結果に医師やその他の誰も関与しない.対象となる疾患は,患者自身の症状やQOLの変化が重要な疾患であり,すべての疾患が該当するものではない.つまりPROは,臨床的有用性を患者さんの視点で捉えることができる.本研究では, Patient Health Questionnaire-9 (PHQ-9)とその他の自己報告指標を,タブレット端末を用いて評価している.PHQ-9は点数が高いほど,うつが重症である(0~27点).

さて結果であるが,8年をかけて1,067名の患者さんが参加,うち964名が少なくとも1回以上PHQ-9を施行した.中等症(PHQ-9 ≥10),やや重症(PHQ-9 ≥15),重症(PHQ-9 ≥20)のうつの頻度はそれぞれ33%(健常対照では6.8%),14%,5% であった.中等症以上のうつを合併する群(PHQ-9 ≥10)と,非合併群(PHQ-9<10)を比較すると,<font color="blue">うつは死亡率を増加させる因子となるものと考えられた(ハザード比1.041,95%信頼区間1.018-1.065).さらにPHQ-9はQOLとも負の相関をした.そしてうつに影響する因子として,病初期からALSが重症であること,および情動調節障害(pseudobulbar affect)が同定された.長期的な検討として,587名が複数回のPHQ-9の評価を行ったが,うつの増悪・進行は認められなかった.

以上より,ALSにおいて,PROによる評価では中等症以上のうつが1/3に合併し,初診時,重症であるほどうつを合併しやすいことが分かった.しかし意外なことに経過中,運動症状が増悪してもうつの増悪は認められなかった.特に重要なことは,うつは生存率やQOLに有害な影響を及ぼすことが明らかになった点であり,今後の新薬の臨床試験でもうつが予後に影響をおよぼすことを認識する必要があると言えよう.よってALSでは,うつを治療することが推奨されるが,これにより生命予後が改善するかについては不明である.今後,うつに対する治療介入研究が望まれる.

Depression in ALS in a large self-reporting cohort. Neurology. 2016 Feb 17. [Epub ahead of print]
 



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