Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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難分解性有機汚染物質はALSの発症リスクを増大させ,生存期間を短縮する!

2024年03月21日 | 運動ニューロン疾患
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は,遺伝要因と環境要因の双方によって引き起こされると考えられています.ALSのみならずアルツハイマー病,パーキンソン病,多発性硬化症,自閉症などの神経疾患でも環境要因との強い関連が報告されています.しかし環境要因の研究は,農薬を曝露したといった申告や職業環境から推測される曝露に頼るもので,想起バイアスの影響を受けやすいという限界がありました.しかし今回紹介するミシガン大学の研究は,血漿中の難分解性有機汚染物質(persistent organic pollutants;POPs)の濃度を直接定量することで,より正確に曝露を直接評価し,想起バイアスを克服しています.著者らは過去にALSとPSPsの関連を報告しており,今回は別のコホートを用いて結果を再確認するという研究です.

対象はミシガン州のALS患者164人と対照105人です,血漿サンプルを用いてPOPs濃度を測定しました.この結果,22種類のポリ塩化ビフェニル(poly chlorinated biphenyl;PCB)のうち8種類,10種類の有機塩素系殺虫剤(organochlorine pesticide;OCP)のうち7種類など,複数のPOPsがALSと有意に関連していました(図).ちなみにポリ塩化ビフェニルは電気機器の絶縁油として,変圧器やコンデンサー,カーボンレスカーボン紙,ポリマーやコーティング剤,接着剤の添加剤などで使用されたもので,人体に蓄積し有毒です.現在は製造・輸入ともに禁止されています.歴史的にはカネミ油症事件が有名です.



また発症リスクは有機塩素系殺虫剤のうち,α-ヘキサクロロシクロヘキサン,ヘキサクロロベンゼン,トランス-ノナクロール,シス-ノナクロールの混合効果によって最も強くなり,環境リスクスコア(ERS)の四分位数間の増加によってALSのリスクは2.58倍高まりました(p<0.001).生存率にも影響があり,POPsの混合物は死亡率を1.65倍増加させました.上記有機塩素系殺虫剤の作用機序はまだ十分解明されていませんが,すべて神経毒であり,電位依存性ナトリウムチャネルやGABA受容体依存性クロライドチャネルなどのイオンチャネルを標的とするものもあるそうです.今後,ミシガン州以外のコホートで再現することや,POPsによるALS発症の機序を明らかにする必要があります.いずれにしてもPOPsや有機塩素系殺虫剤の削減計画を行なっていく必要があります.
Goutman SA, et al. Environmental risk scores of persistent organic pollutants associate with higher ALS risk and shorter survival in a new Michigan case/control cohort. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2024 Feb 14;95(3):241-248.(doi.org/10.1136/jnnp-2023-332121

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