
■ 金融の回復は実体経済を回復させるか? ■
アメリカの景気が回復したと主張する人達はこう語ります
1) 不良債権はとりあえず時価会計せずに「塩漬け」にする
2) 中央銀行が通貨を増刷して、流動性を供給する
3) 実体経済は回復していないので、供給された資金は金融市場を潤す
4) アメリカ人の資産運用は金融市場で行われているので
金融市場の回復は、個人資産の回復と同義である
5) 個人資産が回復すれば、消費が回復する
6) 消費が回復すれば、企業の投資意欲も向上し、雇用が回復する
7) 雇用が回復すれば、破産も減り、住宅市場が回復する
8) 住宅市場の信用が回復すれば債権の価格が回復する
9) 「塩漬け」にしていた不良債権の価格が持ち直す
10)アメリカの景気は見事に復活する
■ 損失は回復するのか? ■
一見、正しい意見の様に思えます。
しかし、このシナリオには重大な見落としがある様に思えます。
先ず、「損失は何処に行ったのか?」という点です。
AIJ問題を例にとるまでも無く、金融の世界は「オール or ナッシング」です。
個人が被った損失が、はたして回復するのかどうか疑問があります。
例えば住宅債権は、個人が破産した分は確実に損失が確定しています。
これは小さな損失です。
この他の「大きな損失」の考え方が楽天派と悲観はの分岐点です。
1) 債権金融は住宅ローンなどの実際の債権を商品化している
2) 組成された商品は、さらに新たな商品に組み込まれている
3) この様に本来1であった債権が何倍かの商品として取引されている
4) 本来返済は元の債権からしか生まれないので、利息は元の債務者しか払い手が居ない
5) これらの金融商品は、元の債務者が払う何倍かの利息が全体で支払われている
6) この過剰に支払われる利息は、金融商品購入者に支払いに支えられていた
7) 新たな金融商品購入者が現れなければ、金利の出所が無くなる
8) 当座不足する金利分を、中央銀行が貸してとなって経済を支えている
9) 中央銀行の資金供給が途絶えると金利の出所が無くない、このシステムは崩壊する
楽観派の人達は、やがて景気が回復すれば人々が再び金融商品に投資して
利息負担の連鎖が回復するので、
「塩漬け」になっていた債権の価値も回復すると考えます。
悲観派の人達は、「ネズミ講」と同様のシステムの破綻は当然であって、
その額の大きさからも、多少の回復ではその支払いを保証出来ない事を知っています。
もし、解約や満期によって元本の大量償還が始まれば、
現在の中央銀行の資金提供の規模では、市場が支え切れないと考えています。
■ タマゴから突然ニワトリが飛び出す「楽観論」 ■
楽観論者の意見には「スケール」が欠如している様に思えます。
損失が発生するにしても、その額が小額であればシステムは破壊されません。
しかし、その額があまりに大きくなれば、システムは破壊されます。
ギリシャ危機が便利なのは規模が小さいからであって、
ダラダラと時間を掛ける事で、債権者は損失を徐々に確定しています。
ところが全体の規模が小さいので、
ギリシャ危機による損失は、世界経済を破壊する程の力を持たないのです。
ところが、これがイタリア規模で発生すれば影響は絶大です。
ユーロは確実に崩壊し、世界は金融恐慌に転げ落ちます。
同様に世界が溜め込んだデリバティブの損失は、
例え「解け合い」などで圧縮されたとしても世界経済に大打撃を与える金額です。
「金融市場に中央銀行が潤沢な資金を供給すれば、景気が回復する」という説は
「タマゴを充分に温まれば、タマゴから直接ニワトリが生まれる」と言っているに等しい。
■ 暖め過ぎるとタマゴは腐る ■
しかし、暖め過ぎたタマゴは腐ります。
インフレがそれに相当するのでしょう。
Wallstreet Jounalの記事は冷静に現状を分析しています。
タマゴの腐敗の兆しが見えているのかも知れません。
「物価高が引き起こす錯覚に惑わされるな」(2012.03.22 Wallstreet Jounal)
http://jp.wsj.com/Finance-Markets/node_411950?mod=WSJ3items
<引用開始>
インフレが加速し始めた今、現実とインフレが引き起こしている錯覚を見分けることがきわめて重要だ。そうしないと、実際は違うのに、景気回復が本格化しているという印象を持ってしまうかもしれない。
たとえば小売売上高である。2月の売上高はこの5カ月間で最高の伸び率を示したので、表面的には朗報に見える。小売売上高は個人消費支出の半分を占め、その個人消費支出は米国の国内総生産(GDP)の3分の2を占めるので、最悪期は過ぎ去ったと結論づけたくなる人もいるだろう。
しかし、それは間違いである。第1に、こうした数字は金額であり、季節調整済みだが、インフレ調整済みではない。第2に、伸び率のほとんどは、ガソリン価格の6%上昇を反映したものである。
ガソリンを除くと、小売売上高の伸び率はずっと控えめなものになる。さらに灯油、食糧、ヘルスケアなどの価格上昇分を考慮すると、小売売上高の前月からの伸び率は実質ゼロということになる。
価格上昇の効果を除外し、実販売数に注目することが大切だ。というのも、実質消費が実質生産高を決定し、その実質生産高が実際に雇用を創出しているからだ。最終的に、米国経済にとって最も重要なのは雇用である。
もちろん、中には信頼できる統計もある――数量(戸数、人数)表記で価格上昇の影響を受けないもの、たとえば雇用者数、失業者数、失業率などである。
さらに工業生産高、設備稼働、住宅着工件数、住宅販売戸数、住宅在庫数もこのグループに入る。消費者心理、消費者信頼感といった指標についても問題はない。
ところが、他の重要な統計は、価格上昇と数量をはっきりと区別していない。たとえば企業収益(と米企業のほぼすべての財務諸表)、在庫高、先行指標などである。
小売売上高に話を戻すと、ガソリン価格上昇の影響はこのカテゴリーだけにとどまらないということを肝に銘じるべきだろう。ガソリンは物資の輸送、機械の稼働、ブラスチック、衣類、その他の製品の原料油としても使われるので、その価格上昇の影響は経済全般に波及する――米連邦準備理事会(FRB)が進めた金融緩和政策によって市場に安いドルがあふれている状態ではなおさらである。
ガソリンの高騰はすでに人々の消費余力に悪影響を及ぼしている。2月のインフレ調整済みの平均週間収入は、1月の0.1%に続いてさらに0.3%減少した。消費者の購買力を測るものさしとして重要な平均週間収入は、この1年間で0.4%減少している。
購買力が伸びていないということは経済にとって良くない兆候である。つまり人々には、今日の上昇した価格はもとより、昨年の価格で商品を買うためのキャッシュや借入能力がないのである。
こうしたことから、ほとんどのエコノミストは第1四半期の経済成長率が1.7%に減速すると予想した。これは昨年の第4四半期の半分強の伸び率でしかなく、第2四半期についても急成長は望めないというのがエコノミストの見方である。
あいにくだが、これは錯覚ではない。
<引用終わり>
最近のWallstreet Jounalの記事は、ほとんど有料記事になっていますが、
これは無料の記事です。
私はどうもWallstreet Jounalの無料記事はプロパガンダの様な気がします。
書かれている事は正しいのですが、ガイトナーの発言を裏打ちする様で、
米景気の過熱感を抑えたいという思惑が透けて見えます。
・・・という事は、このまま米景気が拡大し始めると何かヤバイ事が起こる。
景気の好転で上がるのは株価です。
その反動で下がるのは債権価格です。
米国の長期債はFRBが買い支えていますが、
短期債は市場の影響を受け安い状況です。
FRBは19.7億ドルの国債買い入れを実行しました。
ガイトナーが好景気の火消しに必死な理由はこれでは無いでしょうか?
インフレと債権安は二重の金利上昇圧力になります。
未だ出口すら見えない状況下で、金利が上昇すれば、
債権金融システムで強大な巻き戻しが発生し、世界は恐慌に突入します。