今もう一度この素材と向き合う意味が見えてこない。だいたいミヒャエル・ハネケがハリウッド映画を作るだなんて全然そこに意義を感じない。上映時間は少し長くなっているが、それはティム・ロスとナオミ・ワッツの見せ場を(と、いうほどのものでもないが)作ったからであろう。97年作品のセルフ・リメイク。ここまでオリジナルに忠実である必要があったのか、と思う。そのぶん冗長になった気がする。ラスト直前で犯人の2人が . . . 本文を読む
この小さな映画の魅力は主人公の少女の瞳にある。媚びない。でも、決して強くはない。ふつうの女の子だ。そんな女の子に映画はしっかりと寄り添う。だが、彼女を甘やかすのではない。ただ静かに彼女を見守るだけだ。
予告編を見たとき、なんだか『ミツバチのささやき』のような話だなぁ、と思い興味を持った。主人公の少女が姉と2人で人の住まなくなった屋敷の探検に行く。門をくぐり、庭を通り、玄関先までやってくる。す . . . 本文を読む
写真批評やルポルタージュを書く大竹昭子さんの小説集だ。10篇の短編からなる。彼女の視点から世界が描かれる。それは一人称ということではなく、カメラアイ自体が筆になる、という感じだ。エッセイのような軽やかさで静かに語られるさまざまなお話の虜になる。
どんどんその世界にはまり込む。そして、そこでまどろむ。これは旅の感覚に近い。題材は直接旅を扱うわけではない。だが、なんとなくそんな雰囲気に包まれる話 . . . 本文を読む
ここまで地味な映画に仕上げても大丈夫だと思ったのか。作り手には不安はなかったか。これだけの大作である。見せ場は、城作りの現場を忠実に再現することだけでは、15億円を注ぎ込んだ時代劇大作としてアピールできないと製作会社が難癖をつけてきても不思議ではない。東映は絶対もっと派手な見せ場を用意して欲しかっただろう。興行に多大な不安が残る。
でも、こういう映画として完成させた。それは田中監督を始めとす . . . 本文を読む
この秋、ついに映画化された『風が強く吹いている』が公開される。脚本家として数々の傑作を書いてきた大森寿美男がこの作品で監督デビューする。ずっと前から楽しみにしていたが、なかなか公開が決まらなかった。ようやくである。原作は1昨年の広瀬のベストワン小説だ。箱根駅伝を舞台に弱小陸上部(駅伝に出れるだけの部員すらいない!)の挑戦が描かれる。あのすごい小説がどんな映画になるのか、一刻も早く見たい。
さ . . . 本文を読む
河瀬直美監督最新作。奈良を離れて、タイに行く。今回のヒロインは30歳の女(長谷川京子)、たぶん恋に破れた傷心旅行。たったひとりで見知らぬアジアの国にいく。バンコク(たぶん)の繁華街に佇み途方に暮れる。このオープニングがいい。マーケットを大きな旅行カバンを転がして、ふらふらする。バカではないか、と思う。なぜさっさと予約しておいたホテルに入らないのか。理解に苦しむ。だいたい空港からホテルに直行すれば . . . 本文を読む
昨年ひっそりと何の宣伝もなく公開されて、ほとんど誰にも知られず公開を終えた吉村昭原作『休暇』をようやく見た。無名の監督(門井肇)、脚本(佐向大)、地味を絵にかいたような内容、キャスティング。山梨日日新聞、山梨放送の製作。ここまで注目を集めないような映画はなかろう。
だが、この映画はたぶん昨年公開されたすべての日本映画のなかでも白眉であろう。こんなにも心動かされる傑作はない。すべてがあのラスト . . . 本文を読む
1900年上海。日本人街にあるキャバレー「ラ・ルージュ」を舞台にして、ここで生きる男女の物語が描かれる。店にやってくる馴染みの常連たちと、海千山千の女たち。夜の上海、日本人租界。華やかなネオンの先で、繰り広げられる狂騒。真紅組らしい大作だ。
歌やダンスを交えた豪華できらびやかな大作だ。そして、このお芝居は、見てる分には全然悪くはない。だが、お話としてはちょっと単調で、見ていてだんだん退屈する . . . 本文を読む
劇場公開時には残念ながら見逃してしまった塚本晋也監督の新作。前作がなかなかおもしろかったから楽しみにしていたのだが、なんだか肩すかしを食らった気分だ。今回、主人公の悪夢探偵、松田龍平の過去が描かれるのだが、なんだか冗談みたいな話で、本気になれない。
せっかくのパート2なのに、今回はまるで事件に進展がないまま、自分の過去の母親との話ばかりと向き合い、それではなんだかつまらない。それにしても市川 . . . 本文を読む
パッケージの英語タイトルは『サマーズ・テール』なのだが、日本語タイトルを付けるならば、『サマー・テール』となるのではないか。と、いうことで勝手にそういうこととした。テールではなく、テイルなのかもしれないが、まぁ、細かいことは気にしない。『夏の終わり』とか、『夏のしっぽ』なんてのもありだろうが。
これは一昨年台湾で公開された青春映画だ。日本では残念ながら未公開。目に鮮やかな台南の田園風景を舞台 . . . 本文を読む
なんとも不思議なお芝居だ。捉えどころがない。だが、それは嫌、ではない。これは作、演出の梅木トマコさんそのもののような芝居だ。月曜倶楽部の「若手作家応援シリーズ特別編 2009チャレンジ」前夜祭で少しお話した時の雰囲気そのままの芝居だったのだ。
「錯乱しているくらいがちょうど良い」と当日パンフの挨拶文の冒頭にトマコさんが書いている。ここに書かれた彼女の文が、そのまま芝居になっている。この芝居の緩 . . . 本文を読む
これには驚いた。いや、この小説に、ではない。この小説を既に読んでいたのに、そんなことすら忘れていた自分に、である。「ぼけ」もここまで進むとちょっとやばい。だいたい奥付を見ると3年前の日付が!それってあんまりではないか。まぁ、記憶に問題があるのではなくぼんやりさんなのだが、それにしてもどうかしてる。タイトルくらい記憶しておいてよ、と思う。内容は読めばすぐ忘れるのは最近の特徴だし、仕方ない、とあきら . . . 本文を読む
棚瀬美幸さんの久々の演出作品だ。この作品に引き続き今秋、南船北馬としての公演もある。ようやく彼女が本格的に活動を再開したことがうれしい。しかも、今回は劇団コーロに呼ばれての仕事である。出来あがった作品は、いつもの彼女の芝居とは一味も二味も違う不思議なテイストのものとなった。
但し、その不思議さ、というのはこれがあまりに口当たりのいいものになっている、ということであって、この芝居自身が不思議な . . . 本文を読む
和歌山カレー殺人事件を題材にした作品。和歌山の小劇場劇団による大阪での公演となる。まぁ、和歌山在住とはいえヨヴメガネとして活躍してきた松永恭昭さんの作、演出なので初めての集団の作品に接するという感じではない。
事件から10年後、夏祭りを再びここで復活させようとする町内会長、この町に帰ってきた犯人である主婦の娘。この町の施設で今も暮らす彼女の弟、彼の世話をする施設の職員の女性、事件の被害者の親 . . . 本文を読む
これは凄まじい。ここまで先の読めない映画になるとは思いもしなかった。行き当たりばったりで話を作ったわけではあるまいが、それにしても壮大なストーリーだ。どこまで話が横滑りするのか、想像もつかない。芥川龍之介の『藪の中』が原作とクレジットされるが、とんでもない話だ。芥川が知ったらきっと呆れるやら、驚くやら、まぁ、これは俺が書いた話ではないよ、と一蹴するだろうが。
あの原作からここまで妄想の翼を広 . . . 本文を読む