大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・084『前の廊下で話声がする』

2019-10-28 14:27:45 | ノベル

せやさかい・084

 

『前の廊下で話声がする』 

 

 

 前の廊下で話声がする。

 

 廊下を挟んだ向かいはコトハちゃんの部屋やから、コトハちゃんが誰かと話してんのやろか?

 ……どうも声が違う。

 女の人と、まだ幼い女の子の声。

 目玉を動かすと、かすかに見える電波時計は午前一時半を示してる。

 不思議と怖いいう感じはなくて、だれが喋ってるのかいう方に興味が湧く。

 寝返りを打って、襖の方に顔を向ける……すると、襖の中心が半透明になって、二人の姿が、ちょっとずつ明らかになって来る。

 廊下の幅は一メートルそこそこやのに、なんでか本堂の外陣くらいの広さ……アンティークな家具と敷き詰められた絨毯、宮殿の一室みたい……窓際のスツールのようなのに腰かけてる二人。

「まら、うまれかわいにはなえないの?」

「分かってしまった?」

「うん、らって、ゆめのなかれしかあえないんらもん」

「夢だって、バレてた?」

「しょぇは、ひとのすがたれ、ひとのことばれしゃべってゆのだかや、ゆめにきまってゆ」

「聡いのね○○○は」

 え? 名前を言うたみたいやけど、聞こえへん。

「ここれはダミアとよばれていゆの」

 え、ダミア?

「では、ダミア」

「なに、おうひしゃま?」

「オリンピックには生まれかわるから、その時には、わたしの側にいてちょうだいね」

「わかじにしなければなやない。やっとうまれたばかぃなのに」

「ごめんなさいね、人はタイミングよく生まれかわったりはできないものだから。でも、オリンピックは特別だから、必ず生まれかわることができてよ」

「おねがいしゅゆ。ネコは百まんかいうまれかわゆといわれゆけど、ほんとは百かいあゆかないかにゃのよ」

「だいじょうぶ、きっとよ」

「ゆびきりしゅゆ!」

「いいわ、指切りげんまん、嘘ついたら針千本……」

「まって」

 小指を絡め合ったまま、二人はあたしの方を向いた。

 ヤバイ!?

「ひょっとして、見られてる?」

「……だいじょぶ、ねてるみたい」

「いっそ、あの子たちの命を頂いたら? 三人分も喰らったら、確実なタイミングで生まれ変われる……一人は、わたしに近いヤマセンブルグ王家の血筋」

「らめえ、そんなことをねがったや、またギロチンにかけられてしまうわよ」

「だめよ、思い出すじゃない、あ、ああ、首が……」

 王妃の首が左回りに回ったかと思うと、胴体から回転しながら外れてしまった!

 キャ!

「「ン!?」」

 王妃の首と女の子の視線が、あたしに注がれる! 

 布団をかぶって息を殺す。

 

 何十秒かして薄目を開けると、女の子がペットボトルの蓋を閉めるように、王妃様の首を締め直しているところだ……。

 

 もう一度息を殺して……目覚めると、何ごともなかったように朝のあたしの部屋だった。

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真夏ダイアリー・53『禁断のテレポテーション』

2019-10-28 06:57:13 | 真夏ダイアリー
真夏ダイアリー・53
『禁断のテレポテーション』        




「やあ、ミリー。ま、上がってくれよ」
「思ったより元気そうじゃないの、安心した」
「病気じゃないからね。ただ熱中しちゃうと、もう学校に間に合わない時間になってしまってさ」
「まさか、女の子がいっしょにいたりしないでしょうね?」
「もっとエキサイティングで魅力的なもの」

 フレンドリーだったのは、そこまでだった。

 玄関のドアを閉めると、厳しい顔で、わたしを睨みつけた。
「誰だ、お前は……ミリーは実在の人物だぞ!?」
 
 ウソ……と、わたしは思った。ミリーは、この時代のアメリカに来るために作られたアバターだと思っていた。オペレーターはだれだか分からないけど、実在の人物のアバターを使うなんて、かなり余裕がない証拠。
「ここに来るまでに、誰かに会ったか?」
「ええ、ジェシカに。ついさっき、この家の前で」
「ジェシカは、いまごろ本物のミリーに会っているかもな……ここまでリスクを冒しながらやってくるなんて、相当情報を掴んだ幹部……オソノさんか?」

 省吾は、わたしの正体は分からないらしい。黙っておくことにする。省吾がトニーというアバターでやろうとしていることは、とんでもないこと……らしいことは分かっている。そして、その実行が目前に迫っていることも。ただ、以前ワシントンDCに来たときよりも情報もアバターの設定も不十分だった。ことは急を要するもののようだった。
「わたしが、だれだか明かすことはできない。でも、あなたが、これからやろうとしていることは、どうしても阻止するわ」
 省吾は指を動かしかけた。テレポテーションの前兆だ。わたしは反射的に――やめろ――と思った。
「くそ……テレポテーションを封じる力も持っているのか」
 わたしは、自分にそんな力があるとは知らない。ただ――やめろ――と、思っただけ。
「省吾……いや、ここじゃトニーね。トニーがやろうとしていることはルールから外れてる(具体的には分からないけど)やらせることはできないわ」
「まあ、いいさ。今日はまだ二日だ。時間に余裕はある。アバターといえ人間だ、いつまでも緊張状態で、僕の行動を邪魔できるわけじゃない」
「そう、あなただって同じ……根比べね」
 わたしたちは、外見的にはソファーに座ってリラックスしていた。まるで恋人同士がくつろいでいるように……でも、精神的には、全力で対峙していた。一瞬も息を抜けない。

 そのとき、ドアのノッカーが鳴った。

「わたし、ジェシカ。やっぱ心配でやってきちゃった……トニー、トニー、居るんでしょ。ミリーもいっしょなんでしょ」
「ご指名だ、君が出てやれよ」
「いいわよ。近くに居さえすればテレポブロックは解けないから」
「半径どのくらい?」
「地平線の彼方ぐらい……はい、待って。いま開けるから」
 ドアを開けると、ジェシカの明るい顔があった。
「やっぱ、気になってやってきちゃった……真実が知りたくて」
 ジェシカの、すぐ横に本物のミリーが現れた。ドアの陰に隠れていたようだ。

「誰よ、あなた……!?」
 本物がスゴミのある笑顔で詰問した。

 瞬間の動揺。やつはテレポしてしまった……。
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まどか乃木坂学院高校演劇部物語・18『ブラボー!』

2019-10-28 06:48:18 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・18   

『ブラボー!』 

 
 
「初日、中ホリ裏の道具置き場を見に行ったよ」

「マスター、ハイボールおかわり!……で、お化けでも居ました?」
「いたね、ヌリカベの団体さん筆頭にいろいろ」
「あれはね、フェリペが中ホリから後ろ半分使わせてくれないから……」
「逆だね。あんなに飾りこまなきゃ、道具はソデに置いて舞台全体が使えた。芝居の基本は……おい、大丈夫かマリちゃん?」
「大丈夫。お説拝聴させていただきます」
 わたしは九十度旋回して先輩と正対した。
「じゃあ、言わせてもらうけどね……」
 互いに芝居で鍛え上げた声、店内いっぱいに響く大激論になった。しかし、激論しているのがテレビでも有名な(わりに、わたしは、その日まで知らなかったけど。なんせテレビ見ないし小田先輩は様変わりしちゃってるし)高橋誠司と、この界隈じゃ、ちょっとした顔の乃木坂学院の貴崎マリというので、みんな観戦者になってしまった。
 何分だか何十分だかして、それに気づいた。慌てて、それぞれワインとハイボールを一気飲みしてお勘定した。お客さんが、みな拍手で送り出してくれたのには閉口。小田先輩はカーテンコールのように慇懃なポーズでご挨拶。
「ブラボー!」

 マスターがトドメを刺した。

 夜風が心地よかった。

「あの店のマスター、昔は芝居をやっていたとにらんだね」
「あのブラボー?」
「うんにゃ、あの店の内装、客席の配置。タパスの料理の並べ方。ミザンセーヌ(舞台での役者の立ち位置と、そのバランス)が見事」
「そう……ですよね」
 と、わたしは頼りない。
「酒と料理を出すタイミングは、名脇役のそれだ!」
「先輩、酔ってます?」
「程よくね……それに、あの店の名前」
「KETAYONA?」
「わからんか。まあ、暇があったら逆立ちでもしてみるんだな!」
 先輩は立ち止まって、大きな伸びをした。わたしもつられて大きなアクビ。
 ふと気づいて後ろを見ると……なんと、その種のホテル!
 視線を感じると、横で先輩がニンマリ。あわてて首を横に振る。パトロ-ルのお巡りさんが、チラッと見て通り過ぎた。その後をたどるようにわたしたちは歩き出した。
「ハハ、そういうリアクションが苦手なんだよな。マリッペは、芝居作りよりレビューってのかな、そういうものとかプロディユースの方が向いてるかもな」
「わたしは、現役バリバリの教師です!」
「はいはい、貴崎マリ先生」
「あのね……」

 その時、人の気配に気づかなかったのは、やっぱり二人とも酔っていたのかもしれない。

 明くる日、わたしは珍しく遅刻してしまった。
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宇宙戦艦三笠・44[小惑星ピレウス・1]

2019-10-28 06:23:00 | 小説6
宇宙戦艦三笠・44  
[小惑星ピレウス・1] 



 

 三笠は、用心してピレウスの衛星アウスの陰に出た。

 ピレウスは目的地だが、正体が分からない。

 それは覚悟の上だったが、グリンヘルドとシュトルハーヘンの中間に位置し、両惑星から絶えず監視されているに違いない。ピレウスの大気圏内に入ってしまえば、どうやらピレウスが張っているバリアーで分からないようだが、そこにたどり着くまでの間に発見されてしまっては元も子もない。

「ピレウスが、グリンヘルドとシュトルハーヘンの間に入るのを待つ」
「そうするだろうと思って、惑星直列になる時間を狙ってワープしておいた」
 修一と樟葉は艦長と航海長としてもツーカーであった。
「でも、ピレウスに敵が侵入していたら……」
 美奈穂が珍しく弱気なことを言う。普段は心の奥にしまい込んでいるが、父が中東で少女を救ってゲリラに殺されたことがトラウマになっている。もう大事な仲間を一人も失いたくない気持ちが、美奈穂を、らしくない弱気にさせている。
「その時は、その時。全てのリスクを排除しては何も行動できなくなる」
「美奈穂の心配ももっともだから、ここからできるだけピレウスと、その周辺をアナライズしておくわ。クレアよろしくね」
「ええ、ピレウスの自転に合わせて表面と地中10キロまではアナライズしておきました」
「結果が、これだな……」

 モニターにピレウスの3D画像が出た。

「地球に似てるけど、人類型の生命反応がないです。文明遺跡は各所で見られるんですけど」
「まるでFF10のザナルカンドみたいな廃墟ばかりね」
「何かの理由で、人類は破滅したんだな……」
 みんながネガティブな印象しか持てないほど、その人類廃墟は無残だった。
「この星には、負のエネルギーを感じます。アクアリンドよりももっと強い……これシミレーションです」

 クレアが、モニターを操作すると、海に半分沈みかけた三笠が写った。

「三笠が沈みかけてる……」
「中を見てください」
 三笠の中には、4人の老人と、一体の壊れかけたガイノイドの姿しかなかった。
「あれ……オレたちとクレア?」
「はい、一か月滞在していると、ピレウスでは、ああなります」
「いったいどうして……」
「推測ですが、かつてピレウスに存在した人類の最終兵器が生きているんだと思います」
「兵器……あれが?」
「はい、人類と人類が作ったものを急速に劣化させる……そんな装置があったんだと思います。装置そのものも風化して、どの遺物がそれか分からないけど、その影響だけが今でも残っているようです」

 クレアは、予断を与えないように、あえて無機質な言い方をした。

「これなら、グリンヘルドもシュトルハーヘンも手の出しようがないわね」
「でも、それで何万光年も離れた地球に目を付けられてもかなわない」
「それよりも、あんな死の星から誰が地球に通信を……それも地球寒冷化防止装置をくれるなんて」

 ブリッジは沈黙に包まれた。

「あの……」
「なんだ、トシ?」
 トシの一言で沈黙は破られたが、事態を進展させるものではなかった。
「三笠のエネルギー消費が微妙に合わないんです」
「どのくらい?」
 樟葉が敏感に反応した。
「誤差の範囲と言ってもいいんですけど、1/253645001帳尻が合わないんです」
「ハハ、トシもいっぱしの機関長だな。それはアクアリンドのクリスタルを積み込んだせいだろう。あれだって、人間一人分ぐらいの質量はあるから」
 修一の結論にみんなは納得した。

 ただ、トシは、それが人間一人分であることが気にかかっていた……。
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小悪魔マユの魔法日記・77『期間限定の恋人・9』

2019-10-28 06:14:54 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・77
『期間限定の恋人・9』    


 
 マユは美優のトキメキを、どう受け止めていいのか分からなくなった……。

 美優は一週間後に死が迫っている黒羽の父のために黒羽の恋人役を買って出た……いや、父の願いを重荷に感じて、仕事に手が着かなくなった黒羽のため……それとも、美優自身一週間と限られた時間の中で、精一杯恋の真似事をしてみたかったのか。

 母のマダムも店にもどってから同じことを聞いた。
「一週間後には死んでしまうの。だから、好きなことをやる。それだけ……なぜとか、どうしてか、なんて理由を考えている時間はわたしには無いの」
 店の開店準備をしながら、それだけを答えた。

 昼をちょっと過ぎて、黒羽が美優を食事に誘いに来た。

 タクシーで10分ばかり行った、こぢんまりした品の良いフランス料理の店だった。
「ほんとはディナーに連れてきたいところなんだけどね。親父や新曲のことで、時間がないから、ランチでごめん」
「いいのよ、その代わり、帰りはタクシーじゃなくて……」
「うん……?」
「事務所まで歩いて帰らない?」
「……いいよ。じゃ、少しだけ急いで食べよう」
 ランチとは言え、なかなかのものであった。A-5ランク特選牛フィレ肉のグリル トリュフの香るソースをメインに、スープとスパーリングワイン。パンはできたてのものからチョイス。バターとオリ-ブオイルが付いていて、しっとりといただける。ゆったりと風を感じるので首を向けると、大きなテラス越しにお堀が見えた。
 急いでというわりには、黒羽は40分以上かけた。
「急いでっていうから、わたし、もうデザートになっちゃった」
「意外に早食いなんだ」
「そうよ、バイトの子が休んだときなんて、お母さんと交代で、お昼なんか5分ですましちゃう」
「ブティックも、なかなか大変なんだ」
 出かける前、母が、以前バイトをやってくれていたサキちゃんに電話しているのに気がついていた。美優の一週間を自由にしてやろうという心遣い……気がつかないふりをしてきた。

 帰り道は少し遠回りをしてお堀端を歩いた。
 
 美優は喋りっぱなしだった。

 話の内容は、ほとんど黒羽の身上調査のようだった。黒羽は、なんだかおかしくなってきた。小学校の時の靴のサイズを聞いてきたときには思わず笑ってしまった。
「ハハハ、なんだか、質問ばかりだな」
「だって、デートなんてしたことないもの。それに……」
「それに?」
「婚約者としては、いろんなこと知っとかなきゃ、黒羽さんのこと」
「婚約者に黒羽さんはないだろう」
「そ、そうね……英二さん」
「さん抜きで言ってごらん」
「そ、そんな……じゃ、わたしのことも美優って呼んでください」
「言えないことはないけど、お互い不自然だな……ま、しばらくは、さん・ちゃん付けでいいんじゃない」

 昼下がりの街は、昼の休憩時間が終わったのだろう、人影がまばらになってきた。
「英二さん」
 下りの階段になったところで美優が声をかけた。
「うん?」
 黒羽が振り返ると、そこに美優の顔があった。ほんの数センチの隔たりで、目をつぶった美優の顔がせまってきた。
「オット……」
 そう言いかけて、二人のクチビルが重なってしまった。
 階段の段差を利用して、美優が体を預けにきたのだ。そうしなければ、二人の身長差ではクチビルは重ならない。
「美優ちゃん……」
「恋人同士、お互いのクチビルぐらいは知っておかなきゃ」
「大胆だね……」
 黒羽は美優の大胆さへの驚きの尻尾に愛おしさが付いてきたのに、自身驚いた。
「……この先は進入禁止」
 黒羽のつぶやきに、美優の心は、トキメキとガッカリが一度に来た。
「道に迷ったな、この先進入禁止。大通りに出て、やっぱりタクシーにしよう」
 
 黒羽はディレクターの顔になって、道を戻り始めた……。

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真夏ダイアリー・52『ニューヨーク郊外・1942』

2019-10-27 07:13:32 | 真夏ダイアリー
真夏ダイアリー・52
『ニューヨーク郊外・1942』
    


 

 気が付くと、1942年6月2日、ニューヨークの郊外にいた。

 少し違和感を感じた。わたしは視点を三人称モードにして、自分の姿を見た。
 ギンガムチェックのワンピースの上には、ブロンドのポニーテールが載って、脇にブックバンドでまとめた教科書を挟んでいた。前回、ワシントンDCに行ったときよりも、わたしらしくなかった。
 どうやらイングランド系アメリカ人のようで、肌は白く、瞳はブルー。頬に少しソバカスの名残が……頭の上には、02ーMILLIEというIDが付いていた。これは、この時代の人間には見えない。同じ時代に来ている未来人同士が互いに認識しあえるように付けられたIDタグだ。前回は、これが無かった。タイムリープした未来人が、わたし一人だったせいだろう。その他、いろんな情報が新しくインストールされている。

「ハイ、ミリー!」

 声が掛かって、後ろで自転車のブレーキ音がした。
「ハイ、ジェシカ!」
 この子はジェシカで、ハイスクールの同級生(ということになっている)で、ブルネットの髪をヒッツメにして、陽気なパンツルックである。
「トニーのとこ?」
「うん、ここんとこ休みが多いから」
「成績はいいけど、あいつなんか変よね」
「変……?」
「あ、いやゴメン。そういう意味じゃないの……」
 わたしは、そんな気はなかったけど、ジェシカの顔には、なんだかトニーを非難がましく言ったような後ろめたい色が浮かんでいた。
「ミリーには勝てないわ」
「どういう意味よ?」
「わたしも、今日の欠席にかこつけて、トニーに会いに行くつもりだったの……でも、たかが二日休んだだけで、お見舞いってのも、ちょっとフライングだわよね」
「ジェシカ……」
「いいの、これでふっきれた。トニーとは上手くやってね。BALL(ボール=卒業式に付随したパーティー)楽しみにしてる!」
 そういうと、ジェシカは口笛を吹きながら、ゆるい坂道を下っていった。
 
 わたしは、この世界では、卒業間近のハイスクールの最上級生で、トニーとは恋人同士に設定されている。
 分かりやすく言えば、恋愛シュミレーションゲームのようなもので、成り行きによるイベントの発生やら、分岐がいくつもある。ただ、それがゲームと違うのは、これは現実であり、イベントや分岐は楽しむためではなく、予期できないリアルなアクシデントとして起こる。
 つまり、それだけリスクの大きいタイムリープであるということなんだ。
 さっきのジェシカは、外見も心もバランスのとれたいい子。でも、時に自分でコントロールできなくなることがある。トニーへの愛情は、インストールされたわたしの疑似感情よりも強い。早くトニーに会って問題を解決しなければ、とんでもないことになりそうな予感。

 ドアをノックして二呼吸ほどすると、ガレージの方から、トニーが現れた。頭の上には、01-TONYのID。

「ハイ、ショーゴ!」わたしは、明るくフレンドリーに、そして、正確なIDで奴に呼びかけた……。
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まどか乃木坂学院高校演劇部物語・17『KETAYONA』

2019-10-27 07:07:26 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・17   

『KETAYONA』 

 
 
 それからの片づけ作業は敗戦処理のようになってしまった。

 わたしも、どこか気が抜けていたのだろう。なんせ広いだけが取り柄の倉庫。戦後進駐軍が学校を接収したときも、この倉庫だけは除外したというシロモノ。ちょっと気を抜くとコウモリが巣くったり、野良猫が住み着いたり。いつもなら隅々までチェックするんだけど、この時ばかりは……。
「ヤマちゃん、オーケー?」
 ヤマちゃんも……。
「里沙、オーケー?」
 と、伝言ゲーム。
 ルーキーの里沙はチェックシートを見てオーケーサイン。
 そのチェックシートは去年のコピーで、この春にみつけた欠陥は書かれていなかった……。


 生徒達を解散させたあと、北畠先生に電話した。まだ病院にいるようなら交代しなければならない。なにより潤香の様態が気がかりだった。
――大丈夫ですよ、潤香の様態は安定しています。お医者さまも「危険な状態じゃない」っておっしゃって、わたしも、もう家に帰ってきたんです……ええ、お母さんも、そうおっしゃって家に戻っていらっしゃいます、お父さんも。念のため、お姉さんが付き添っていらっしゃいます……ええ、大丈夫ですよ。
 わたしは切り替えが早い。それなら一杯ひっかけて明日に備えよう。
 柚木さんも誘おうかと一瞬思ったけど、たまたま玄関ホールのガラスに映った自分の顔を見てやめた。
 こんなくたびれた顔のオネーサン(柚木さんとは四つっきゃ変わんない。けしてオバチャンではゴザイマセン)と飲んでも気を遣うだけだろうと、あえて声をかけなかった。

 お店は、六本木と乃木坂の間あたり。

 街の喧噪からは程よく離れている。いちおうイタメシ屋だけど、客のわがままなオーダーに気楽に応えているうちに国籍不明なお店になったというお店。
 お決まりのゲソの塩焼きと、ハイボール。乙女には似つかわしくない組み合わせだけど、学生時代からの定番。これ、最初は虫除けだった。リキュールのソーダ割り(いまは、リッキーとか言う)にサラダとチーズのセットなんか乙女チックにやってると、すぐに虫が寄ってくる。で、この組み合わせ。

「アイカワラズダナ」
 二つ向こうの席に宇宙人みたいな声がした。

「ん……あ、小田先輩!」
 そう、今日の審査で乃木坂を落とした審査員の高橋誠司こと小田誠が、当たり前のような顔をして座っていた。手には、アニメの少年探偵が持っているような、蝶ネクタイ形変声機……?
「これ、アニメの実写版やったとき小道具さんにもらったんだ。市販品のオモチャなんで、本物みたいなわけには……いかないのよね」
 今度は女の子の声になってきた。
「ハハハ、もう、やめてくださいよ。キモチ悪い」
「でも、こうやって、女の子とは仲良くなれる」
 と、席を一つ寄せてきた。
「まだ、女の子ですか。わたし?」
「誉め言葉のつもりなんだぜ」
「わたし、もう二十七ですよ」
「まだまだ使い分けのできる歳だぜ」
「大人です。もう五年も教師やってんだから」
「ほう、そうなんだ……と、驚いたほうがいいんだろうけど、とっくに知ってた。ほら……」
 と、コンクールのパンフレットを出した。
「ああ、なーる……」
「ネットで、ときどき検索もしてたんだぜ。おれも一応高校演劇出身だからな」
「おまたせしました。『イチオウ・タパス』です」
 マスターがタパスもどき(スペインの小皿料理)をカウンターに置いた。
「おう、本物じゃないですか。マスター……ソースも本物のサルサ・ブランコだ」
「筋向かいがスパニッシュなんで、時々食材の交換なんかやってるもんで」
「サルのブランコ?」
「ハハハ……」
 わたしのトンチンカンに、オッサン二人が笑い出した。
「スペインのサン・セバスチャンて街の特製ソースだよ」
 で、白ワインで乾杯することになった……ところで大疑問!?
「なんで、わたしが、ここに居ることがわかったんですか?」
「だって、アドレスの交換やったじゃないか」
「は?」
「おれのスマホは最新型でね、相手の電源が入っていればGPSで居場所が分かるって優れもの」
「うそ!?」
「ほら、現在位置」
 差し出されたスマホには、まごうかたなきイタメシ屋「KETAYONA」のこの席あたりに緑のドットが点滅していた。
「わ、消してくださいよ。これじゃおちおちトイレにも行けないじゃないですか!」
「大丈夫だよ、通話にしてなきゃ音が聞こえるわけじゃないし」
「わたしのほうで消去しちゃうから!」
「待てよ。これはただのGPS。点滅してんのはオレのドットだよ」
「またまた……」
「ほんとだってば、ここは、学校の警備員さんに聞いたんだよ」
「なんで警備員さんが?」
「キミがそれだけ注目されてるってことだよ……良く言えばね」
「普通にいえば?」
「自信が強すぎて、周りが見えない……ほらほら、そうやって、すぐにとんがる」
 先輩の手が伸びてきて、わたしの頬を指で挟んだ。「プ」と音がして自分でも笑ってしまった。
「乃木坂を落としたのは、オレなんだよ」
「先輩に気づいたとき、ヤバイなあとは思いましたけど。まあ、わたし本番観てませんし」
「乃木坂は、貴崎マリそのものだったよ」
「やっぱし」
「パワフルで、展開が速くて、役者も高校生ながら華があった。とくにアンダースタディーやった、まどかって子は可能性に満ちた子だ。学生時代のキミに似ている……いや、キミが似せさせたんだ」
 わたしは、ワインに伸ばしかけた手をハイボールに持ち替え、オッサンのように飲み干し、氷を口に含んで、ゴリっとかみ砕いた。
「キミの芝居は、一見華やかでパワフルだけどドラマがない。役者が一人称で、台詞を歌い上げてしまっている。パフォーマンスとしては評価できるけど、芝居としては評価できない」
「それだけですか……」
「登場人物が類型的だ。他の審査員なら等身大の高校生とか言って誉めるんだろうけど。オレには、そう見えなかった。主人公の自衛隊への使命感みたいな入隊希望。彼女の彼への気持ちの変化。彼女の不治の病。みんな最後のカタルシスのための作り物だ。あの芝居、最初にラストシーン思いついたんだろ。マリッペのことだからバイクかっ飛ばしてるときか、なんか食ってる時にひらめいたんだろ?」
 わたしは、もう一個、氷をかみ砕いた……ちょっと歯が痛かった。でもポーカーフェイス。
「そのカタルシスもなあ……」
「なんですか!?」
 声が尖った。
「彼女の最後『あとは……あとは、最後は自分で決めてね……研一君』で、彼氏が彼女を抱きしめて『真由……!!』と、慟哭。もったいぶった台詞の羅列。劇的だけどもドラマが無い。人間が関係しあってないんだよなあ……コロスたちの『イカス』の繰り返しのシャウト……コロスにイカスなんて笑えるけどね。そいで大河ドラマの最終回のラストみたいな曲とコーラス。ステレオタイプの典型」
「わたし、大学で習った『共振する演劇』を実践したつもりなんですけど!」
「あれは平田先生だからできた荒技さ。オレが反発してたの知ってるだろ」
「天才は量産できるもんじゃない……でしょ。あのタンカしばらく学部で流行りましたよ。主に単位落とした学生の間にですけど」
「それと、自衛隊への目線に偏りがある。『暴力装置』って言葉は思想的すぎるよ。ま、反体制的ってのは拍手しやすいけどな。ちょっと前世紀の遺物だな」
 半分溶けた氷が、コトリと音を立て、グラスの中ででんぐりかえった。
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宇宙戦艦三笠・43[宇宙戦艦グリンハーヘン・5]

2019-10-27 06:43:45 | 小説6
宇宙戦艦三笠・43
[宇宙戦艦グリンハーヘン・5] 



 
「ミネアさん、無理するのはよそうよ」

 みかさんの言葉に、ミネア司令は微かにたじろいだが、それはみかさんにしか分からなかった。
 修一たちは、ミネアが、みかさんの挑発に一歩前に出たようにしか見えなかった。
「そうやって、なにかあると、いつも一歩前に出てしまうのよね」
「なに……!」

 みかさんは、ミネアの厳しい視線をさらりとかわし言葉を続けた。

「グリンハーヘンというのは悲しい名前ね。グリンヘルドにもなれずシュトルハーヘンにもなれない人たちのアイデンティティー。両方の母星から疎外された人たち。二つの母星は、地球侵略については共同戦線を張っているけど、内心では信じあっていない。だから、二つの母星の間に生まれたあなたたちは疎外され、軍の中でも、遊撃隊でしかいられないんでしょ」
「わたしたちは選ばれたエリート部隊だ。だから、本隊が暗黒星雲の両脇を固めているのに、ドンピシャ三笠の真正面に出ることができた」
「でも、だれも救けにこない。三笠はステルスになっているから、この船のように至近距離でなければ認識できない。でも、この船が停止して、動きがおかしいことは、他の艦隊にも分かっている。助けにもこないし、この船も救難信号も出さない」
「三笠は、私たちだけで捕獲する」
「今の状況は逆でしょ。いくら遊撃部隊でも、こんな状況なら、なんらかの連絡や、共同行動があって当たり前じゃないかしら?」

 その時、グリンハーヘンの艦体が身震いするように揺れた。

「な、何が……!?」
 美奈穂が、みんなを代表するように、怯えた声をあげた。
 ミネアは、この変化にも表情を動かさない。ただ、弱みを見せたくない一心で……。
「三笠を修理しているの。ただ修復材が足りないから、グリンハーヘンから少しいただいてるの。今のは、その衝撃」
 ミネアの表情が微かに動いた。
「大丈夫、この船がダメになるほどには頂かないから。じゃ、三笠の仲間は解放させてもらうわ。修一くん、そこのタラップを上がって、三笠の第二デッキに出るわ。順番は、わたしが最後。パンツ見られるのやだから。ミネアさん、今こそ、あなたの信念に従って行動するときよ」

 ミネアは、最後まで視線を外さないみかさんのために身動き一つできなかった。目力だけではなく、自分自身の葛藤のために。三笠に閉じ込められていたミネアの戦闘員たちは、逆に通路が開いてグリンハーヘンに戻って来た。

「追ってきませんね、グリンハーヘン」
「ミネアさんは知ってるのよ。はるかかなたの地球侵略が無謀なことを……ただ、地球の温暖化が常識で抗いがたいように、グリンヘルドもシュトルハーヘンでも地球侵略が侵しがたい目的になっている。だからミネアさんは一番首の三笠を狩って、母星の人たちの鼻を明かそうとしたのよ。その愚かさに気が付いたところ……そう考えていいと思うわ」
「しかし、どうして三笠にステルス機能が付いたんですか。そんなもの無いはずなのに」
 クレアが不思議そうにみかさんに聞いた。
「アクアリンドのクリスタルのおかげ」
「アクアリンドの?」
「アクアリンドがグリンヘルドにもシュトルハーヘンにも見つからないのは、暗黒星雲のためだけじゃない。このクリスタルが、外界から、あの星を隠す大きな力になっていたの。クリスタルも学習したと思う。隠れて引きこもっていることの危うさを……」

 そう言うと、みかさんは微かに微笑んで神棚に戻って行った。

「あとは、オレたちでやれって目だったな……」
「ピレウスまで、8パーセク。二回のワープで到着。いいわね?」
 樟葉が決心したように、宣言。修一が、それを受けて頷く。
 三笠のクルーの結束は、いっそう固まっていった。
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小悪魔マユの魔法日記・76『期間限定の恋人・8』

2019-10-27 06:34:03 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・76
『期間限定の恋人・8』    



 
 
 わたしと黒羽さん、婚約しましたから!

「「「「「「「「「「え……ええ!?」」」」」」」」」」

 一同から、悲鳴のような歓声があがった。
「だからあ、もう、みんな黒羽さんに手を出してはいけません!」
「ちょっと、美優!」
 と、マダム。
「ちょっと美優ちゃん」
 
 黒羽は、一度美優を廊下に出した。
「これは、あくまでオヤジを納得させるための……バーチャルなんだから」
「たとえそうでも、その気になっておかなきゃお父さんは気づいてしまうわ。病人て、そのへんの勘は鋭いのよ。わたしも、ついこないだまでは、そうだったから、よく分かるの。決めたからには覚悟して!」
「美優、どういうことなのよ!?」
 マダムは、娘の爆弾発言を問いただそうと、廊下に出てきた。メンバーの矢頭萌など数人もくっついてきた。ビル中に騒ぎが広がりそうなので、黒羽は、慌ててみんなをスタジオにもどした。

「AKRは、恋愛禁止になってますけど。密かに黒羽さんに心寄せてる人がいちゃいけないので、宣言しときます。この英二さんは……」

――売約済み――

 いつのまに用意したのか、ロ-ザンヌの(売約済み)のシールを、黒羽の胸や背中、おでこにも貼り付けた。
「「「「「「「「「「キャー、ウワー!」」」」」」」」」」
 歓声があがった。
「結婚式はいつ?」
「告白は、やっぱ黒羽さん?」
「シッ、シッ、これからは、黒羽さんの半径50センチ以上寄っちゃいけないからね。50センチ以内は婚約者のエリアだからね」
 クララが、通せんぼをした。
「って、いうか、クララさん、その距離超えてるしい」
 萌が、くちびるを尖らせる。
「わたしは、親衛隊長だからいいの!」
「ずるい~!」
 などと、ひとしきり騒ぎは収まらない。
「婚約指輪は、まだなんですか……?」
 知井子が、静かに聞いたが「婚約指輪」という言葉は刺激的である。

――ジー…………

 47人のメンバーとスタッフ、そして母親であるマダムの視線が、美優の左手に集中した。
「あ、あの、その……ついさっきコクられたばっかで、そういうのまだなんです……アハハ」
 美優は、顔を赤らめ、眉を八の字にして頭を掻いた。
「ワー!」
「そんなの!」
「信じらんない!」
「大の男だったらさあ!」
 と、またもかしましい。
「いや、だから、それはね……」
 と、黒羽が言い訳しようとすると、黒羽の携帯が鳴った。
「はい、黒羽。あ、会長……はい、今すぐ行きます。オレ会長室行ってくるから、みんなはレッスン。よろしく、まゆみさん(振り付け)」
「はい。さあ、恋人たちのためにもがんばるのよ!」
 春まゆみも二人の事にひっかけて、みんなを集中させた。
「マダム、美優ちゃん、いっしょに来て」
「え?」
「会長が、お二人もいっしょにってことなんで」

「黒羽、おまえは、自分のことに関してはブキッチョなんだからなあ」

 会長は、小さな小箱を投げてよこした。
「……これは?」
「グリコのオマケじゃねえからな。正真正銘の婚約指輪」
「会長……」
「会長さん……」
「急場のことなんで、筋向かいの宝飾堂のありあわせ。でも、モノホンだから……美優ちゃん、マダム、こんな朴念仁だけどよろしく。こいつのお父さんのために……」
「会長……!?」
「夕べは、ずいぶん酔っぱらって……見かねた美優ちゃんが面倒みてくれた……この界隈のことは、業界のことと同じくらいの地獄耳。それに妹さんから電話もあったしな」
「由美子のやつが……!」
「怒ってやるなって……親孝行したいころには親は無しってな。それに『コスモストルネード』発表までは、この朴念仁にもしっかりしてもらわなっくちゃ困るしな」
「ありがとうございます。会長」
「お礼言うならなら、美優ちゃんだ。かりそめにも10歳以上年上の婚約者引き受けてくれたんだからな」
「会長さん」
「なんだい?」
「あの……レッスン見てちゃいけませんか。婚約者として英二さんの仕事ぶり見ておきたいんです」
「それは断る。発表までは非公開だ」
「あの、ブースからでもかまわないんです。お父さんにちゃんと婚約者と思ってもらうためには、英二さんの仕事見といたほうがいいと思うんです」
「だめだ、スタジオからブースは丸見えだ……でも、この部屋のモニターならいいよ」
 
 会長が、机のボタンを押すと、天井から大きなモニターが降りてきた。

「ほら、このゲ-ム機のコントローラーで操作できる」
 モニターにスタジオの全景が映し出された。
「あとは、触っているうちに分かる。じゃ、美優ちゃん、よろしく」
 会長は、ホウキとちり取りを持ってドアに向かった。日課の掃除である。
「あ、それと、適当に時間作ってデートしとけ、リアリティーが出るようにな」
 そう言い残し、会長は部屋を出て行った。
「じゃ、オレも仕事にかかる。あ……昼飯いっしょに食べよう。昼に店に迎えにいくよ」
「は、はい」

 マユは、美優の体の中で、美優のトキメキを、どう受け止めていいのか分からなくなった……。
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魔法少女マヂカ・091『M資金・23 ハートの女王・4』

2019-10-26 10:59:54 | 小説

魔法少女マヂカ・091  

『M資金・23 ハートの女王・4』語り手:ブリンダ 

 

 

 勅任議員に任ぜられると同時に名誉ある人質として女王の宮殿に送られることとなった。

 

「オレたちの車を使えよ!」

 言ってみたが遅かった。T型フォードの高機動車はいつの間にか姿が見えなくなって、代わりに議会専用の車が用意された。

「一応の形式だから辛抱してくれ。宮殿に着くまではドアは開かない。自動運転になっているから運転手を買収することもできない。ガードが一人騎馬で同行するんで安心してくれたまえ。君たちが人質として宮殿に到着して初めて議会が開ける。くれぐれもよろしくな」

 議長のおざなりな説明が終わると、オレたちを載せた護送車はゆっくりと動き出した。

「あ、あの護衛は!?」

 議事堂の門を出たところで騎乗の護衛が待ち受けていたが、それは、オレたちを追いかけていたビーフイーターのキャロラインだ。てっきり撒いたつもりになっていたが、油断がならない。

「どうもハメられたような気がする……」

 胸の谷間から首だけを覗かせたマヂカが眉を寄せる。

「同感だ、敵は女王なのか議会なのか、はたまたビーフイーターどもなのか……」

 カオスにやってきて以来、いろんなことがあったが、その都度目の前の敵がコロコロ変わって、なんだか本質的なことを見落としているような気がする。

「やっぱ、チェシャネコでしょ!」

 マヂカが右手と右の前足を挙げて言い切った。

「ああ、しかし、ここしばらく現れていないなあ」

「自分が出るまでもないとタカをくくってるのかなあ、護送車に載せられて手も足も出ないし」

『法よ』

 護送車が林の脇を通ると、陰になって車内が暗くなった。フロントガラスが半ば鏡になって、そこに半分透けた鏡の国のアリスが映ったのだ。

「アリス、無事だったんだな」

『一応ね、やっぱ、鏡からは出られないけど』

「で、法というのはどういう意味だ?」

『チェシャネコは、常に最強のものに化ける。ハートの女王の世界は議院内閣制で、法の支配が徹底している。だから、魔法少女は本来の力が出せないのよ。法という形のないものに化けているから、姿そのものがないしね』

「姿のないものは、オレやマヂカの力をもってしても攻撃のしようがないぞ」

「わたしも、牛女の姿を解除してもらわなきゃ力の出しようもないんだけど」

『……リスクはあるけど、いい考えがあるわ』

「「なんだ!?」」

『それは……』

 マヂカと身を乗り出すと、護送車は林の日陰から出てしまい、フロントガラスが明るくなって、アリスの姿が消えてしまった。

 

 ビーフイーターのキャロラインが手を挙げて、護送車が停止した。

 

「なんだ、もう着いたのか?」

 だが、街道の途中で宮殿らしきものは、どこにも見えない。

―― 昼食休憩にする、シートの背もたれからランチが出てくるから食べろ ――

 車内のスピーカーを通してキャロラインの声がした。

 人質のランチだから期待は出来ない。

 

 ズイーーーーーン

 

 シートの背もたれから出てきたのは、超特盛の牛丼だった。

 チープ感は否めないが、味とボリュームに問題は無い。

「ひょっとして、マヂカは共食いにならないか?」

「胃袋は人の体の部分にあるからいいのだ(^_^;)」

 都合のいいことを言う。

 キャロラインはと見ると、四人前はあろうかと思われる牛丼のファミリーパックを食べている。

 さすがは、ビーフイーターだ!

 

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真夏ダイアリー・51『再びジーナの庭へ』

2019-10-26 06:42:29 | 真夏ダイアリー
真夏ダイアリー・51
『再びジーナの庭へ』        




 気が付くとジーナの庭にいた。

 時空と時空の狭間のような、穏やかでバーチャルな空間。
 
 わたしは、ジーナの四阿(あずまや)に足を向けた。

「……お久しぶりです」
「わたしには、ついさっき。ここは時間の流れ方がちがうから」
「すっかり、ジーナさんのナリが身に付いてきましたね」
「バカを待つには、この方がいいかなって……」
「バカって、わたしのことですか?」
「かもね……でも、あなたはフィオの役回り。ポルコ一人じゃ空中戦はできないわ」
「じゃ……」
「そう、省吾のやつ。危ないから一度引き戻したんだけどね」
「あ……図書室で見たのが?」
「ええ、そのあとすぐに向こうに行っちゃったけど」
「え、また行っちゃったんですか!?」
「昭和15年から戻ったばかりだっていうのにね」
「昭和15年……限界を一年超えてる」
「三国同盟を阻止するんだって。あれがなきゃ、アメリカと戦争せずにすんだから……むろん失敗。戻ったところを、あなたに気づかれるようじゃね」
「じゃ、今度は?」
「昭和16年のアメリカ……」
「なにをやってるんですか?」
「さあ……連絡をとれないようにしているから、あの子」
「わたしは、なにを?」
「うん……その決心がつかないまま、あなたを呼んじゃった」
「じゃ……」
「お茶でも飲んで、わたしも考えるから」
「はい……」

 アドリア海は、どこまでも青かった……波音……紅茶のかぐわしい香り……。

 ふと我に返ると、ジーナさんの姿が無かった。
 テーブルの上に手紙があった。

――けっきょく決心がつきません。ラピスラズリのサイコロを振って、出た目に従ってください。

 わたしは、ラピスラズリのサイコロを振った。そんなに力を入れたわけじゃないのに、サイコロは、テーブルの上をコロコロと転げ回った。そして「赤い飛行機」という面で止まりかけて、コロンと転げた。

 サイコロは、1942年6月2日を指して止まった……。
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まどか乃木坂学院高校演劇部物語・16『演劇部の倉庫』

2019-10-26 06:35:04 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・16   
『演劇部の倉庫』 

 
 
 揺れるトラックの中。潤香の一束の髪は、わたしのバッグの中に入っている。

 あのあと、潤香のお母さんは、こう付け加えてくれた。

――潤香の脳内出血は、原因がはっきりしないんです。最初の事故で、そうなってお医者様が見逃したのか、二度目のことが原因なのか……それに血統的なこともあるんです。主人の父も兄も、同じようなことで……あ、今は潤香の容態も安定していますので。先生もコンクールの真っ最中なんでしょ、どうぞお戻りになってください。

 そこに、潤香の担任の北畠先生もやってこられたので、お任せしてフェリペに戻ってきた。そして気になることがもう一つ……。

「先生、着きましたよ」
 そう言って、運ちゃんはポップスをカットアウトした。
「おかえりなさい」
 警備員のおじさんが裏門を開けて待っていてくれた。
 裏門からグラウンドを斜めに突っ切ると、演劇部の倉庫のすぐ前に出る。トラックを入れるとグラウンドが痛むので体育科は嫌がるんだけど、正門から入ると、中庭やら、植え込み、渡り廊下の下をくぐったり、十倍は労力が違ってくる。長年の実績で大目に見てもらっている。え、わたしが脅かしてんだろうって? 断じて……多分、そういうことはアリマセン。

 トラックを降りると、里沙をはじめとする別働隊が渡り廊下をくぐってやってくるところだった。

「先生、ドンピシャでしたね」
 里沙が嬉しそうに言った。
「一服できると思ったんだけどな。いつもの道が進入禁止で回り道したもんだからよ」
 そう言いながら運ちゃん二人はそれぞれのトラックの荷台を開けた。
「しまう順序は、分かってんな。助手」
 舞監のヤマちゃんが、舞監助手の里沙を促した。
「はい、バッチリです。まずはヌリカベ九号から」
 と、いいお返事。技術やマネジメントは確実に伝承されているようだ……あれ?
「ねえ、夏鈴がいないようだけど?」
「ああ、あいつ駅で財布忘れてきたの思い出したんで、フェリペに置いてきました」
 例外はいるようだ……。

 それは、最後のヌリカベ一号を運んでいるときにかかってきた。三年唯一の現役、峰岸クンからの電話だった。わたしも疲れていたんだろう、思わず声になってしまった。
「え……落ちた!」
 鍛え上げた声は倉庫の外まで聞こえてしまった。みんなの手がいっせいに止まった。携帯の向こうから、峰岸クンのたしなめる声がした。

 やっぱ、あの人が審査員にいたから……連盟の書類を見たときには気づかなかった。あの人の本名は小田誠、それが芸名の高橋誠司になっていたから。風貌も変わっていた。あのころは、長髪で、いつも挑戦的で、目がギラギラしていた。
 それが、今日コンクールの審査員席で見たときは、ほとんど角刈りといっていいほどの短髪。目つきも柔らかく、しばらくは別人かと思っていた。分かったのは、不覚にも向こうから声をかけられたときだった。
「よう、マリちゃんじゃないか!」
「あ……ああ、小田さん!?」
 時間にして、ほんの二三分だったが、一方的にしゃべられ、気がついたらアドレスの交換までさせられてしまった。この人が審査員……まして、こっちは潤香が倒れて、まどかのアンダースタディー……。

 気づいたら、みんながわたしの周りに集まっていた。仕方なく要点だけを伝えた。

「さあ、みんな。仕事はまだ残ってるわよ!」
 わたしは、手を叩いてテンションを取り戻そうとした。
「先生。潤香先輩のことも教えていただけませんか」
 憎ったらしいほどの冷静さで、里沙が聞いてきた。
「分かったわ、手短に話すわね……」
 わたしは潤香のお父さんが感情的になられたことを除いて淡々と話した。

 むろん、潤香の髪が、わたしのバッグに入っていることは話さなかった。
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宇宙戦艦三笠・42[宇宙戦艦グリンハーヘン・4]

2019-10-26 06:27:07 | 小説6
宇宙戦艦三笠・42
[宇宙戦艦グリンハーヘン・4] 


 
 
「いったい、どんな仕掛けになってるのよ!?」

 前の壁が消えると、ミネアが怒りに震えて立っていた。
「仕掛けも何も、クルーは全員ここに居るし、三笠は大破したままだ」
「なにか隠している。三笠とあなたたちの情報は、全て取り込んだけど、こんな能力が隠されているなんて分からなかった。手荒なことはしたくなかったけど、もう容赦しないわよ!」

 ミネアが手を挙げると、残りの三方の壁が消えて、バトルスーツに身を包んだグリンハーヘンの兵たちが100人ほど現れた。

「情報が得られれば、それでいい。本当のことを言うまで、一人ずつ死んでもらうわ……まずは、アナライザーのクレアから。あなたは本当の人間じゃない。ボイジャー1号が義体化しただけ。最初の見せしめにはちょうどいい……」
 100人の戦闘員が一斉に光子銃をクレアに向けた。
「待て、クレアは人間と同じだ、オレたちの仲間だ、手を出すな」
 修一の抗議に、ミネアは冷笑をもって応えた。
「バカにしないで、人間の中でさえ序列があるのよ。機械に仲間意識が持てるわけがないじゃない。クレアを殺して!」

 その瞬間、再び三方の壁が実体化して、100人の戦闘員たちは壁の向こう側になってしまった。

「え……何が、起こったの。壁を開いて!」
 ミネアの声に応える者はいなかった。そして、天井の一部が開いてタラップが降りてきた。
「こんな操作、あたしは命じていないわ。だれがやっているの、返事をしなさい!」

「冷静な話をしましょう……」

 そう言いながら、タラップを降りてきたのは、みかさんだった。
 タラップは垂直なので、降りてくるみかさんの、スカートの中がチラリと見える。修一とトシは条件反射で見てしまう。
――やっぱ、神さま。パンツは純白なんだ――
 無邪気な男性本能に、みかさんは微笑で答えた。

「誰よ、あなたは?」
「三笠の船霊です。みんなは親しみをこめて『みかさん』と呼んでくれるわ。
「そんな情報は無い……」
「それは、あなたたちに信仰がないから。グリンヘルドもシュトルハーヘンも、はるか昔に宗教の概念を捨ててしまったものね。無いものは理解できない」
「そんなことが……」
「三笠にやってきた人たちは無事よ。ミネアさん、あなたとの話が終わったら解放します」

 みかさんは、日ごろから微笑を絶やさない。
『微笑女』というダジャレが言いたくなるほどに人の心を和やかにしてくれる。しかし、この時のみかさんの微笑は、フレンドリーでありながらも神さまらしく慈愛に満ちたものだった。

 ミネアは恐怖を、三笠のクル-たちは頼もしそうに、みかさんの次の言葉を待った。
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秋野七草 その七『ナナとナナセのそれから』

2019-10-26 06:12:38 | ボクの妹
秋野七草 その七
『ナナとナナセのそれから』       

 
 
 そのニュースは、三十分後には動画サイトに載り、夕刊は三面のトップになった。

『休日のOLとサラリーマン、半グレを撃沈!』『アベック、機転で子供たちを救う!』などの見出しが踊った。

「ナナとナナセさんて、同一人物だったんだ!?」

 山路は事件直後の現場で大感激。ナナが正体がばれてシドロモドロになっているところに、パトカーが到着。ナナは、演習の報告をするように、テキパキと説明。コンビニの防犯カメラや、通りがかりの通行人がスマホで撮った動画もあり、二時間余りで現場検証は終わった。

 帰ってからは、マスコミの取材攻勢。最後に自衛隊の広報がやってきて、ナナはいちいち丁寧に説明をした。
 
「山路君、驚いたでしょ……」
「うん、最初はね……」

 事件から一週間後、山路に済まないと思ったナナに頼まれ、山路にメガネとカツラで変装させて、我が家に呼んだ。

「最初は、酔った勢いで、ナナセって双子がいることにしちゃって、明くる朝、完全に山路君が誤解してるもんで、調子に乗って、ナナとナナセを使い分けてたの……ごめんなさい」
「いいよ。僕も面白かったし。そもそも誤解したのは僕なんだから。あの事件で思ったんだけど、ナナちゃん、ほんとは自衛隊に残りたかったんじゃないのかい?」
「うん、自衛隊こそ究極の男女平等社会だと思ったから……でも、女ってほとんど後方勤務。戦車なんか絶対乗せてくれないもんね。レンジャーはムリクリ言ってやらせてもらったけどね。昇任試験勧められたけど、先の見えてることやっててもね。レンジャーやって配属は会計科だもんね。で、除隊後は信金勤務。で、クサっているわけよ」
「ナナちゃんなら、半沢直樹にだってなれるさ」
 そう言いながら、山路はナナのグラスを満たした。
「こんなに飲んじゃったら、また大トラのナナになっちゃうわよ。もうナナセにはならないから」
 そう言いながら、二口ほどでグラスを空にした。
「まあ、ここで潰れたって自分の家だもんな」
「またまた、あたしのグチは、こんなもんじゃ済まないわよ」

 ナナは、家事をやらせても、自衛隊のレンジャーをやらせても、金融業務でも人並み外れた力を持っていた。ただ世間の方が追いつかず、ナナはどこへ行っても、その力を十分に発揮できはしなかった。
「僕は、ナナちゃんのことは、よーく分かっている。いっしょにいろいろ競争したもんな。お兄さんだって分かってくれている。人生は長いんだ、じっくり自分の道を進んでいけばいいさ!」
「そう……そんなことを言ってくれるのは、山路だけだよ。ありがとね!」
 ナナは、握手しようとしてそのまま前のめりにテーブルに突っ伏し、つぶれてしまった。

 そうやって、ナナと山路の付き合いが始まった。

 いっしょに山に行ったり泳ぎに行ったり。二人の面白いところは、いつのまにか仲間を増やしていくところだった。三月もすると仲間が20人ほどになり、自衛隊の体験入隊までやり、自ら阿佐ヶ谷の駐屯地の障害走路の新記録をいっぺんで書き換えた。歴代一位がナナで二位が山路。民間人が新記録を書き換えたというので、広報やマスコミがとりあげ、一時テレビのワイドショ-などにも出まくり、アイドルユニットが、ナナをテーマに新曲を作った。ヒットチャートでAKBと並び、ナナは、山路とともに歌謡番組にゲストで呼ばれ、飛び入りでいっしょに歌って踊った。
「ナナさん凄い。よかったらうちのユニットに入ってやりませんか!?」
 リーダーが、半分本気で言った。ナナはテレビの画面でも栄えた。
「ハハ、嬉しいけど、あたし平均年齢ぐっと上げそうだから。でも、よかったら、そこのゲスト席でオスマシしてる山路、ヨイショしてやってくれる。あいつ、明後日からチョモランマに行くんだ!」
 ナナは、あっと言う間に、山路の壮行会にしてしまった。

 そして、山路が死んだ……。

 チョモランマで、滑落しかけた仲間を助け、自分は墜ちてしまった。
「リポピタンDのCMのようにはいかないんだ……」
 ナナの言葉はそれだけだった。

 一晩、動物のように部屋に籠って泣いた。

 オレは深夜に酒を勧めた。だがナナは飲まなかった。
「この悲しみと不条理を、お酒なんかで誤魔化したくない。山路とは、そんなヤワな関係じゃない。正面から受け止めるんだ……」
 それだけ言うと、また泣き続けた。

 明くる日にはケロッとし、職場にも行き、マスコミの取材にも気丈に答えていた。

 山路の葬儀の日は、あいつらしいピーカンだった。ナナは、涙一つ見せないで山路を見送った。

 そして、三日後南西諸島で、C国と武力衝突がおこり、半日で局地戦になった。阿佐ヶ谷の連隊にも動員が係り、ナナは予備自衛官として召集され、強く志願して、石垣島の前線基地まで飛んだ。
 さすがに、実戦には出してもらえなかったが、最前線の後方勤務という予備自衛官としては限界の任務についた。

 この局地戦争は、五日間で、日本の勝利で終わりかけた。アメリカが介入の意思を示すとC国は手が出せなくなり、誰もが、これで終わったと思った。

 敵は、第三国の船を拿捕同然に借り上げ、上陸舟艇と特殊部隊を積み込み、折からの悪天候を利用し、石垣島に接近すると、上陸を開始した。

 不意を突かれて石垣の部隊は混乱した。

 海岸の監視部隊は「敵上陸、オクレ!」の一言を残して、連絡が途絶えた。ナナは意見具申をした。携帯できる武器だけを持って、背後の林に部隊全員が隠れた。
 結果、敵はおびただしい遺棄死体と負傷兵を残し、本船にたどりついた残存部隊も、翌朝には、自衛艦により拿捕された。

 日本側にも、若干の犠牲者が出た。林を怪しいと睨んだ敵の小隊の迂回攻撃を受けた。ナナは味方を守りながら戦死した。

 詳述はしない。

 ナナと山路は似た者同士だ。

 

 秋野七草  完 
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小悪魔マユの魔法日記・75『期間限定の恋人・7』

2019-10-26 05:58:46 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・75
『期間限定の恋人・7』     



「一週間だけの期間限定……だけどね」

「それは……」
「聞いて」
 美優は、黒羽の言葉をさえぎって続けた。
「芸能プロって、夢を売るお仕事でしょ。うちもそう、ブティックは女の子に夢を売るの。ガーリーファッションとかゴスロリとか……うちは、あんまり大仰なロリータファッションにならないように気をつけてる。そのまんまご近所歩いても違和感ない程度に。田舎からおばあちゃんが来て目を回すようなオーバーロリータにならないようにとかね」
「それは認めるよ。そのセンスの良さと、お母さんの商売の確かさで、うちもコスの注文は、ほとんど、このロ-ザンヌだもんな」
「でしょ。商売の駆け引きじゃ、お母さんにかなわないけど、ファッションの感覚には自信ある。わたも……!」

 美優は、平静に言えたつもりだったが、緊張してシンクに食器を投げ入れるように放り込み、コーヒーカップを割ってしまった。
「アッ……!」
 指を切ってしまった。心臓がバックンバックンだったので、ケガの割には血が多めに流れてしまった。
「だめだ、手を心臓よりも高く上げて。救急箱は、どこ!?」

 黒羽は十代のころADになり、下積みからHIKARIプロのチーフディレクターになった男である。ちょっとしたケガの手当などはお手の物なのだ。
「ありがとう……こんなオッチョコチョイじゃダメかな」
「気持ちは、嬉しいけどね」
「嬉しい気持ち……黒羽さんじゃなく、お父さんに……」
「あ……そうだね」
「わたしも、ひところは命が危ないって言われてた(本当は、見かけは元気だけど、一週間の命)でも、元気になって分かるの。お母さんや、友だちが気遣ってくれたことが。そのときは気づかなかったけど、わたしが元気になれたのは、そういうみんなの心があったから。お父さんにも必要よ、あと一週間のお命なら、なおさらのこと……それとも、わたしなんかじゃ黒羽さんには釣り合わない?」
 
 黒羽は、包帯を巻くのと同じ確かさで言った。

「そんなことは無いよ。だって、高校時代はミス乃木坂学院にだって選ばれたじゃないか」
「え、そんなこと覚えていてくれてたんですか」
「ああ、一時は、うちの事務所からスカウトしようかって、話が出たぐらいなんだから」
「ほんと!?」
「ああ、お母さんにキッパリ断られたけどね」
「そう、美優はオンチだし、運動神経も亀さんといい勝負だもんね」
「お母さん!?」

 母が、車のキーをチャラチャラいわせながら、リビングのドアのところに立っていた……。

「マダム……」
「黒羽さんが居て助かったわ。47着の衣装、わたし一人じゃ運べなかった」
「わたしが居るじゃない」
「美優に手伝ってもらったら、倍時間がかかる!」
「もう、そういうこと言う?」
 段ボール箱を三人で運びながらの会話。母の真意は分かっていた。残りの一週間、美優の気ままに過ごさせてやりたいのだ。
「黒羽さん、わたし、こう見えて、あちこちガタがきててね。一週間ほど店休もうかと思って」
「ほう、それは、すみません。無理な仕事させて」
「で、この仕事がキリだから、徹夜したのよ。あ~眠い」
「だめよ、お母さん。いつも通りにしてなくっちゃ!」
「だって、美優……!」
 段ボール箱を運びながら親子が睨み合う。その両方の目が潤んでいた。
「……どうかしました?」
 黒羽が脳天気に聞いた。
「バカな親を持つと……」
「バカな娘を持つと……」
 同じグチが、親子の口から同時に出た。

「みんな、新しいコスができたから、自分の名前を見て試着して」
 黒羽が、そう言うと、メンバーのみんなが集まって、キャーキャー騒ぎ出した。
「わたしと八重さんで配るから、順番に並んで!」
 大石クララが仕切った。それでも新曲『コスモストルネード』への意気込みはすごいもので、メンバーの興奮は冷めなかった。

「ちょっと、みんな聞いてください!」

 美優が叫んだので、みんな静かになった。そして美優は宣言した……。

「……わたしと黒羽さん、婚約しましたから!」
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